「腰痛は,座ったり立ったり持ち上げたりするときの悪い姿勢が原因である」は腰痛に対する誤解の1つであると言われている[1].
一般的に座位,立位,前屈などの「不適切な」姿勢が脊椎痛を引き起こすと考えられており,科学的根拠に乏しいにもかかわらず,姿勢を修正し,痛みを予防すると主張する製品や介入があり,多くの医療従事者がこの非科学的な視点に基づいたアドバイスを提供していることが問題視されている[2].
昨今では,症状の急性期や特定の職業やスポーツを除き,様々な姿勢を試すことやリラックスした姿勢の取り入れ,避けていた姿勢や動作への曝露が推奨される.
この「正しい」姿勢の概念を再構築するために,姿勢に関する信念をかえるための助言が7つ提案されている[2].
目次
1.正しい姿勢は一つではない
最適な姿勢が1つ存在することや,正しくない姿勢を避けることで腰痛が予防できるという強力な証拠はない.

2.姿勢の違いは一般的
脊椎の弯曲には自然な変化があり,痛みと強く関連する湾曲は1つもない.
3.姿勢は信念と気分を反映する
姿勢はその人の感情,思考,身体イメージについての洞察を与えることができる.姿勢の中には,体を守るためにとるものもあり,体の脆弱性に関する懸念が反映されている場合がある.

4.より快適な姿勢をとることは安全である
快適な姿勢には個人差がある.様々な姿勢を試し,習慣的な姿勢を変えることで症状が緩和される可能性がある.

5.背骨は丈夫なため信頼できる
背骨は頑丈で,様々な姿勢で安全に動き,荷重をかけることができる順応性のある構造で背骨を守るための一般的な警告は必要なく,恐怖心を抱かせる可能性がある.

6.座ることは危険ではない
一つの姿勢で30分以上座ることは危険ではなく,常に避けるべきことでもない.しかし動いて姿勢を変えることは有効であり,体を動かすことは健康にとって重要となる.
7.1つの運動がすべての人に合うわけではない
姿勢や動作のスクリーニングは職場での痛みを防ぐものではない.好ましい持ち上げ方は特定の姿勢をとるように,あるいは体幹を鍛えるようにという助言は証拠に基づくものではない.
認識の課題
このようなアドバイスは患者さんへの痛み教育に含めることができ,段階的曝露などの介入にも繋げやすい.ただし,姿勢と腰痛の信念はあまりにも広まってしまったため,容易に認識を変えることはできない.
個人個人の医療者が少しずつ広めることが,全体の認識を変えるのに大事なのかもしれない.
姿勢のアドバイスは医療者にとって都合が良い
姿勢のアドバイスは医療者が現場で感じるフラストレーションを緩和するツールになっていると考えている.
・簡単に原因を理由づけられる
姿勢の評価は一般的に立位または座位で行われる.
評価基準は教科書上の脊柱ニュートラルから逸脱しているかであることが多く,大抵の場合は医療従事者の主観によって決められる.この時脊柱ニュートラルから少しでもズレた姿勢であることは一般的であるため,ほとんどすべての患者を不良姿勢と説明することができてしまう.
多くの腰痛は発症原因をみつけるのは難しい.そんな中で臨床家と患者は原因がわからないストレスにさらされる.姿勢を原因にすることは容易にこのストレスを解消することができる.
・説得力がある
姿勢と腰痛の関係は直感的に正しく見える.これはこれまで多くの医療従事者が姿勢を腰痛の原因としてきた歴史からもわかる.
姿勢と腰痛の関係を説明される際には写真を用いられることがあり,これもまた客観性という説得力を持たせる.患者さんは自身の不良姿勢を目にし,姿勢と腰痛の関係を批判するための知識もないため,納得せざるを得ない.
生活の中で「姿勢を矯正する」という有り触れた謳い文句は,「嘘も百回言えば真実となる」という言葉があるように姿勢と腰痛の関係を信じるのに納得できるほど溢れている.さらに患者さんは自身の体の情報を集めるためにGoogle検索をよく用いる.「腰痛 原因」と検索すれば「悪い姿勢が原因」と記載された記事が無数に見つかる.
・永続的な課題が作れる
姿勢を例え変化させられたとしても新たに姿勢の問題を見つけることは簡単に見つかる.医療者は「まだ姿勢が悪いから治らない」と言い続けることができる.
日常的な姿勢を常にニュートラルに維持することは不可能であり,医療者は「ここでは良い姿勢ができても職場ではついつい悪い姿勢になってるんじゃないですか?」と不可能な目標を課すことがある.
そのため「姿勢が悪い」問題は実質的に解決不可能である.
医療者としては,入手できる証拠に合わせて臨床を適用していくことが求められる.
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[2]Slater D, Korakakis V, O'Sullivan P, Nolan D, O'Sullivan K. "Sit Up Straight": Time to Re-evaluate. J Orthop Sports Phys Ther. 2019 Aug;49(8):562-564. doi: 10.2519/jospt.2019.0610. PMID: 31366294.





