プラセボ効果は偽の治療が肯定的な反応や回復を引き起こすのに対し,ノセボ効果は害のない治療であっても否定的または有害な反応を生じさせる.

名称 ノセボ効果(Nocebo Effect)
特徴 害のない治療に対する否定的な期待や思い込みによって,有害な反応が生じる現象
プラセボ効果との違い プラセボ効果は偽の治療で肯定的な反応を生じさせるが,ノセボ効果は逆に否定的な反応を引き起こす

ノセボ効果の原因

ノセボ効果は主に言葉の影響,患者の期待や先入観,過去の経験によって引き起こされる.例えば,医師が副作用について強調しすぎると,実際には害のない治療であっても患者は副作用を経験すると考え,その結果として身体的な不調を訴えることがある.

要因 影響
言葉の影響 医師や周囲の人の発言によって,副作用が現れると信じ込んでしまう
期待・先入観 治療に対する否定的な期待が,実際に身体的な症状として現れる
過去の経験 以前の治療で副作用を経験した場合,同じような副作用を感じる可能性が高まる

ノセボ効果の実験的証拠

The BMJの研究では,腕の痛みを抱える患者を対象に二つの異なるプラセボ治療を比較した[1].一方のグループにはシュガーピル(プラセボ錠剤),もう一方のグループには偽の鍼治療が施された.その結果,偽の鍼治療のグループの方が痛みの軽減を報告したが,両グループとも副作用を経験したと報告した.

<プラセボ治療による2週間の副作用>

副作用 参加者数 (%)
偽の鍼治療
治療中の痛み 19 (15)
針を「抜いた」後の痛みが増す 12 (10)
赤みや腫れ 4 (3)
その他 13 (12)
シュガーピル
眠気 25 (20)
口の渇き 23 (19)
落ち着きのなさ 9 (7)
めまい 6 (5)
頭痛 5 (4)
不安 5 (4)
悪夢 4 (3)
吐き気 4 (3)
頻尿 2 (2)
皮膚の発疹 3 (2)

ノセボ効果を最小限に抑える方法

JAMAの研究では,医療従事者がノセボ効果を減少させるためのいくつかの方法を提案している[2].例えば,副作用のリスクを強調しすぎず,治療の有益性を適切に伝えることが重要である.また,患者に対して信頼できる情報源を提供し視覚的なデータを活用することで,過度な不安を軽減できる.

<有害な副作用の発生を防ぐための可能な戦略>

戦略 詳細
期待と学習に基づく介入
治療への期待と副作用への期待を最適化 患者が治療の効果をより肯定的に捉えるように導く
副作用と治療効果のバランスの取れた提示 副作用だけでなく,治療の有益性を強調する
副作用への対処法を教え訓練する 患者が副作用に適応できるように支援する
エビデンスに基づいた情報源の提供 不確かな情報や不安をあおるコメントを避ける
薬剤情報の設計・レイアウト・内容の改善 専門用語を避けグラフを用いた視覚的な説明を行う
「隠れた」漸増・漸減法の使用 患者には事前に伝えつつも具体的なタイミングは知らせない
副作用が少ない薬剤による前処置 治療開始前に副作用が少ない薬剤を使用する
観察学習の活用 副作用に適応した患者の動画を用いた学習
患者とコミュニケーション
信頼性のある共感的なコミュニケーション 患者の不安を軽減し治療への信頼を高める
病気・診断・治療・副作用に関する十分な情報提供 患者が治療を理解し納得できるよう支援する
患者へのフィードバックの体系的な活用 治療中の患者の理解度や不安を確認し適切な対応を行う
患者による積極的な情報の確認 提供された情報を要約してもらい誤解を防ぐ
患者の不安・懸念・期待の評価と対応 患者の心理的な側面を考慮し適切にサポートする

結論

ノセボ効果は実際に存在し患者の期待や過去の経験によって,治療の副作用が発生することがある.医療従事者はこの現象を理解し,適切な対策を講じることで,ノセボ効果を最小限に抑えながら治療の効果を最大限に引き出すことが求められる.

ノセボ効果はプラセボ効果の「悪魔の双子」とも呼ばれる.

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参考文献
[1]Kaptchuk, T. J., Stason, W. B., Davis, R. B., Legedza, A. R., Schnyer, R. N., Kerr, C. E., Stone, D. A., Nam, B. H., Kirsch, I., & Goldman, R. H. (2006). Sham device v inert pill: randomised controlled trial of two placebo treatments. BMJ (Clinical research ed.), 332(7538), 391–397. https://doi.org/10.1136/bmj.38726.603310.55
[2]Bingel, U., & Placebo Competence Team (2014). Avoiding nocebo effects to optimize treatment outcome. JAMA, 312(7), 693–694. https://doi.org/10.1001/jama.2014.8342

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