腰痛について誰もが知っておくべき10の誤解と事実

腰痛の誤解と事実について2020年にBMJ(British Journal of Sports Medicine)で公開された腰痛に関するエディトリアルに「Back to basics: 10 facts every person should know about back pain(基本に戻る:腰痛についてすべての人が知っておくべき10の事実)[1]」があり、同じく2020年にJPHC(Journal of Primary Health Care)で公開された「Six things you need to know about low back pain(腰痛について知っておくべき6つのこと)[2]」があります。

この2つの文献はシンプルかつ端的に、腰痛にありがちな誤解と事実について紹介してくれています。

腰痛に関する10の誤解(myth)

以下の10項目は事実とは言い難く、しかし真実であると誤解されていることもめずらしくない項目もいくつかあります。

  1. 腰痛は通常深刻な病態です。
  2. 腰痛は今後の人生で持続し悪化します。
  3. 持続性腰痛は常に組織損傷に関連しています。
  4. 腰痛の原因を検出するには常に画像検査が必要です。
  5. 運動や動作に関連した痛みは、常に脊椎に害が及んでいるという警告であり、活動を中止または修正するシグナルです。
  6. 腰痛は、座ったり、立ったり、持ち上げたりするときの姿勢の悪さが原因です。
  7. 腰痛は弱い「体幹」の筋によって引き起こされ、強い体幹を持つことで将来の腰痛を防ぎます。
  8. 脊椎への負荷が繰り返されると、「磨耗」や組織の損傷が生じます。
  9. 痛みのフレアアップは組織損傷の兆候であり、休息が必要です。
  10. 腰痛の治療には、強力な薬物療法、注射、手術などの治療が効果的であり、必要です。

腰痛に関する10の事実(fact)

この10項目は10の誤解に対応するように作られているため基本的には10の誤解と反対の内容で構成されています。

  1. 腰痛は生命を脅かす深刻な病態ではありません。
  2. 腰痛のほとんどの症状は改善し、年齢を重ねるにつれて腰痛が悪化することはありません。
  3. 否定的な考え方、恐怖回避行動、回復への否定的な期待、不十分な痛み対処行動は、組織損傷よりも持続的な痛みと強く関連しています。
  4. 画像検査は、現在の腰痛エピソードの予後、将来の腰痛障害の可能性を決定するものではなく、腰痛の臨床転帰を改善するものでもありません。
  5. 段階的な運動やあらゆる方向への動きは、脊椎にとって安全で健康的です。
  6. 座ったり、立ったり、物を持ち上げたりするときの脊椎の姿勢は、腰痛やその持続性を予測するものではありません。
  7. 体幹が弱いからといって腰痛が起こるわけではなく、腰痛を持つ人の中には「体幹」の筋肉を過剰に緊張させる傾向がある人もいます。体幹の筋を強く保つことは良いことですが、必要のないときにリラックスさせることも役立ちます。
  8. 脊椎の動きと負荷は安全であり、段階的に調整すると構造的な回復力が高まります。
  9. 痛みの再発は、構造的な損傷よりも、活動、ストレス、気分の変化に関連しています。
  10. 腰痛の効果的なケアは比較的安価で安全です。

急性腰痛について知っておくべき6つのこと

上記した20項目にも類似していますが、今度は"急性"腰痛について知っておくべき6つのことです。

  1. 急性腰痛は一般的であり、ほとんどの場合症状は短期間で治まるので、安心感を与えることが有用です。
  2. 最初の4~6週間はレッドフラッグが出ていない限り、検査の必要はありません。不必要な検査(レントゲンやCT)にはリスクとコストがあります。
  3. 痛み止めや脊椎マニピュレーションにより、短期的な症状のコントロールが可能です。
  4. できるだけ早く仕事を含む通常の活動を再開することが重要です。
  5. 臨床的介入の中には有害なものもあり、特に長時間のベッドレスト、アヘン薬やジアゼパムの使用は有害です。
  6. 早期の職場復帰に関するアドバイスが有用です。

【用語解説】
・レッドフラッグ(Red flags)
「Red flags」という用語は、現在では様々な部位に用いられますが、もともと1980年代初頭に腰痛関連で登場しました。
Red flagsの存在は、重篤な疾患を示唆し、さらなる調査や紹介の必要性を示しています。決してRed flagsは診断/鑑別診断のためのツールではありません。
Red flagsによって間接的にでも重篤な疾患の発見につなげることができれば、さらなる悪化拡大を防ぐことができます。

臨床的意義

このようにリスト化された情報は自身の臨床を見直すにも、組織の臨床を見直すにも役立ちます。
これらの認識がないか誤解があると、不必要に腰痛を怖がり、不適切な対処行動を取るようになることが懸念されるため医療者は患者教育にもこれらの説明を適宜加えることができます。
また医療者が間違った認識(腰痛は弱い体幹筋によって引き起こされる、腰痛は、座ったり、立ったり、持ち上げたりするときの姿勢の悪さが原因)を有しているとそれだけ不適切な介入が蔓延することになります。

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参考文献
[1]O'Sullivan, P. B., Caneiro, J. P., O'Sullivan, K., Lin, I., Bunzli, S., Wernli, K., & O'Keeffe, M. (2020). Back to basics: 10 facts every person should know about back pain. British journal of sports medicine, 54(12), 698–699. https://doi.org/10.1136/bjsports-2019-101611
[2]Baxter, G. D., Chapple, C., Ellis, R., Hill, J., Liu, L., Mani, R., Reid, D., Stokes, T., & Tumilty, S. (2020). Six things you need to know about low back pain. Journal of primary health care, 12(3), 195–198. https://doi.org/10.1071/HC19117

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