Googleで腰痛の原因について調べると主張の共通点に気が付く.

・では腰痛の原因は何か。腰痛の原因の8割は「トリガーポイント」といわれる筋肉が出す痛みといわれます。
・クリニックで受ける相談で見ると、腰痛や肩こりの相談のうち8割はトリガーポイントが原因です。
・原因不明の腰痛の8割は“筋膜の異常“ということがアメリカの整形外科学会では常識です。
・腰痛の8割は腸腰筋の機能低下が原因と言われています。
・実は、腰痛や肩こりなどの症状のほぼ8割は骨盤のゆがみが原因といっても間違いないです。
・慢性の腰痛の原因は血流の問題が8割くらいですが、その血流の問題が大事なのです ! !
・皆さんは腰瘤の原因の8割は「ストレス」と言う言葉を聞かれたことはありますか
・腰療の8割は日常生活の姿勢の悪さが原因で姿勢を変えれば痛みは消える !

このように恐らく主に代替医療では「腰痛の原因は8割がxx」という構文で溢れている.
これが経験論で言われているのか,主張のインパクトのために使われている数字なのかはわからないが,この8割の根拠は通常示されていない.

また,ある理学療法士がさまざまな治療法の効果を調べた結果,興味深い共通点に気づいた[1].
様々な治療法の専門家も「70〜80%の患者が良くなる」と主張しているようである.

・モビライゼーションやマニピュレーションでは80%の成功率を示しています
・腰痛患者の80%が硬膜外ブロックにより即座に痛みが緩和されます
・マイクロカレント療法では10回以内の治療で82%が痛みから解放されました。
・高周波による椎間関節除神経術の効果は70%以上です
・YMCAのエクササイズプログラムでは80%が改善を見せています
・坐骨神経症状について慎重にスクリーニングされた患者の70〜80%が手術によって改善します

まるでどんな治療を選んでも「だいたい80%は良くなる」と言われているように感じる.
この数字は治療効果を表しているのか,「治療のおかげで」良くなっているのではなく「何をしてもしなくても」良くなる人が一定数いるということなのだろうか.

腰痛の経過を調査した研究を参照すると回復の定義によって腰痛はすぐ治るとも治りにくいとも言えるが,急性/持続性腰痛患者は最初の6週間で著しく改善するという報告や,約70%が3ヶ月以内に回復するという報告もある.また約95%は最初の4週間に痛みの緩和を経験する[2][3].

この他にも,医療者は患者さんの経過を正しく認識できていない可能性があったり,他の様々な要因によって治療効果を誤認することがある.

このような理由で,経験則だけで言えば治療をしてもしなくても,あるいはどんな治療を受けても数日〜数週間で症状が緩和するケースが非常に多いため,自身の治療によって8割程度が回復したと錯覚してしまう.

理由は何にせよ80%という数字を見たら疑ってみるのが良いのかもしれない.

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参考文献
[1]Deyo, R. A. (2014). Watch your back!: How the Back Pain Industry Is Costing Us More and Giving Us Less—and What You Can Do to Inform and Empower Yourself in Seeking Treatment. Cornell University Press.
[2]Downie, A. S., Hancock, M. J., Rzewuska, M., Williams, C. M., Lin, C. C., & Maher, C. G. (2016). Trajectories of acute low back pain: a latent class growth analysis. Pain, 157(1), 225–234. https://doi.org/10.1097/j.pain.0000000000000351
[3]da C Menezes Costa L, Maher CG, Hancock MJ, McAuley JH, Herbert RD, Costa LO. The prognosis of acute and persistent low-back pain: a meta-analysis. CMAJ. 2012 Aug 7;184(11):E613-24. doi: 10.1503/cmaj.111271. Epub 2012 May 14. PMID: 22586331; PMCID: PMC3414626.

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