脊柱の動く柱:椎間板

運動性と同時に強大な荷重を分散・支持する機能が求められるといった矛盾する機能要求に応えるため,椎間板は単純な関節構造ではなく圧力の均等分散と安定性を実現する特殊な構造を獲得した.

椎間板は外層の繊維輪と内層の髄核から構成されており,両者が相補的に働くことで高度な荷重伝達システムを形成している.ここでは椎間板が有する2つの荷重伝達メカニズムを紹介する.一つは繊維輪単独が持つ荷重伝達能力で,もう一つは髄核を含む繊維輪との複合構造による力の分散機構である.
なぜ椎体間は球関節ではないのか?

骨の間の“柱”構造

椎間板は椎体と椎体の間に存在し,脊柱における荷重支持と運動機能の両立を担っている構造である.
その中核をなす構成要素のひとつが繊維輪であり,この繊維輪単独でも荷重伝達機構としての機能を有する.円筒状の繊維輪は,力学的に極めて安定した構造を形成しており,その原理は土木構造や工業製品に広く応用されている.

円柱構造には特有の力学的メリットがある.
第一に軸方向からの圧縮力に対して非常に強く,均等に圧力を分散する能力を持つ.

これは構造体に座屈を生じさせることなく安定的に力を支えるために極めて重要である.事実,古代の建築においても神殿や寺院に見られる支柱の多くは円柱形状を採用しており,この形状が最も効率よく鉛直荷重を伝達できることが経験的に知られていた.

ただし,この繊維輪構造が有効なのは短時間の荷重負荷に対してである.
ペットボトルや自転車のフレームとは異なり繊維輪は粘弾性を有しているため,急激な力には強いが長時間にわたる持続的な荷重が加えられた場合,構造が変形する.

脊柱は直立姿勢を保っている限り常に軸方向からの荷重を受け続けている.この持続的な圧縮力に対し繊維輪単体では徐々に変形が蓄積し,やがて椎体間の高さが低下する.したがって,単なる円筒構造だけでは脊柱の安定性と長時間の荷重分散には不十分であり,その欠点を補う要素が必要となる.それこそが髄核の存在である.

繊維輪と髄核により張り詰める力の均衡

椎間板は髄核を収める単なるパッキング材ではない.
繊維輪と髄核の2つの要素が互いに補完しあうことで,脊柱に求められる複数の機能を同時に満たしている.特に髄核の存在は椎間板の力学的挙動に大きな変化を与え,繊維輪単体では不可能な荷重の伝達を可能にする.

繊維輪と髄核の関係は炭酸飲料のペットボトルとガス圧の関係に似ている.炭酸飲料のペットボトルは内圧に耐えるために円筒形が採用されている.内部のガス圧に対して変形しにくく,内容物を均等な力で封じ込めることができるからである.
炭酸飲料のガス圧が強いとペットボトルが硬くなり曲げるのが困難になるように,椎間板も髄核の圧が繊維輪の座屈を防ぐことができる.

髄核は高い含水率を持つゲル状の組織であり,その性質は液体に近い.髄核に含まれる主な物質はプロテオグリカンであり,これが大量の水分を保持している.この水分の存在によって髄核は非圧縮性流体として機能する.非圧縮性とは,圧力が加わっても体積がほとんど変化しないという性質であり,これは荷重を広範囲に分散する上で極めて重要である.

物理学におけるパスカルの原理によれば,密閉された容器内にある液体に圧力を加えると,その圧力は全方向に等しく伝わる(水で充した風船).この原理を髄核に適用すると,脊柱に垂直荷重が加わった際,髄核内の水分が全方向に均等な圧力を生じさせることになる.

① 髄核に圧力がかかると,その圧力は等方的に全方向へと伝達される.
② その結果,髄核は繊維輪に対して外向きの圧力をかける.
③ 繊維輪はこの外向き圧力に抵抗する.

この一連の過程によって,椎間板は内部から押し広げられようとする力と外側から抑え込む力が釣り合った構造体となる.この張力の均衡が,椎間板の全体にわたって圧力を分散させるという力学的特性を生む.

圧力が繊維輪だけでなく椎体終板の広い面積にも分散されることにより,椎体自体の構造に対する応力集中が回避される.これにより終板骨折や微小な損傷のリスクが減少し,椎間板全体としての耐久性が向上する.この機構は単なる弾性材料では得られない.

髄核がこのような機能を正常に発揮するためには,プロテオグリカンと水分の含有量が適切に保たれていることが前提条件である.加齢や疾患によって髄核内の水分量が低下すると,圧力の均等分散が機能不全に陥り,繊維輪にかかる局所的な応力が増加する.また密閉された状態で圧力は全方向に等しく伝わるため,繊維輪が損傷し髄核が漏れる隙間ができるとこの機能が働かなくなると予想できる.

繊維輪と髄核という異なる性質を持つ2つの組織が力学的に協調することで,高荷重環境下でも脊柱は安定して動作し続けることが可能になる.椎間板という特殊構造が進化的に選択された理由がここにある

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