以前,「仙腸関節の弱さよりも強さを語ろう!」という記事を書いた.
仙腸関節はしばしば脆弱な印象を持たれ,悪者扱いされる.そのため,仙腸関節についてネガティブな情報ばかり目立ち,ポジティブな表現はほとんどされない.

椎間板についても同様である.
医療従事者はしばしば腰を脆弱で保護しなければならないと考えている[2].

椎間板のネガティブ表現

慢性腰痛を持つ患者さんの中には,実際に正しいかに関わらず「椎間板」が原因と言われていたり,そうは言われていなくても「椎間板が膨らんでいる」と言われて自身の椎間板が問題なんだと考える人を見かける.医療者やトレーナーはリフティング動作の指導が腰痛予防の効果があるという証拠がない[3]にも関わらず,頻繁に腰椎の屈曲姿勢を悪いもの扱いする運動指導を行い,その理由として椎間板への負荷を挙げる.

以下の椎間板のヘルニアモデルは説明のためにはわかりやすいが,椎間板が軽い負荷で押し出されるイメージを与えるかもしれない.

どれも椎間板が脆弱のような印象を与える.

どのようなポジティブ表現が使えるか

どのようなポジティブ表現が使えるか考えるために,少し椎間板の作用を紹介する.

椎間板は荷重を伝えるのと同時にショックアブソーバーとしても働く.椎間板における荷重伝達の仕組みは,以下の様である.
①荷重による圧縮で髄核の圧力が上昇する.
②髄核は流体であるため圧力を受けると変形するが,流体であるため体積を圧縮することはできない.そのため圧力がかかった際,髄核は変形しようとし圧力が全方向に伝わる.
③この圧力は髄核を取り囲んでいる繊維輪に伝わり繊維輪の張力が上昇する.

④繊維輪は通常,非常に厚く丈夫であるため外方向に膨らむ髄核に抵抗する.
⑤繊維輪の抵抗により髄核は外方向に広がることができず髄核が椎体終板を圧迫する.
⑥終板への圧力が次の椎骨へと荷重を伝える.

このように繊維輪と髄核がともに作用することで,荷重を伝達することができる.
椎間板が押し出されるという脆弱なイメージ(「椎間板が負荷によって損傷しやすい」「飛び出る」)はここでいうと,③「この圧力は髄核を取り囲んでいる繊維輪に伝わり繊維輪の張力が上昇する.」から④「繊維輪は通常,非常に厚く丈夫であるため外方向に膨らむ髄核に抵抗する.」にかけての部分である.

ということは,この部分に強い印象がつけば椎間板が脆弱とは考えにくくなる.

椎間板の強さを伝える

イメージしてみてください.
「椎間板に40kgの圧力がかかると椎間板はどれだけ飛び出ると思いますか?」

答えは0.5mmだけである.

およそ体重70-80kgの人が直立姿勢をした時に40kgの圧がかかる.
この負荷が100kgになったとしても0.75mmしか膨らまない[1].

高さは40kgで1mm,100kgで1.4mm減少する.そして負荷がなくなれば椎間板は元に戻る.
思ったより動かないのではないだろうか.
少なくとも.↓の画像が与えるイメージとは違った椎間板の認識になるだろう.

できるだけポジティブな表現を心がけたい.

今日のおすすめ記事

参考文献
[1]HIRSCH, C., & NACHEMSON, A. (1954). New observations on the mechanical behavior of lumbar discs. Acta orthopaedica Scandinavica, 23(4), 254–283. https://doi.org/10.3109/17453675408991217
[2]Christe, G., Nzamba, J., Desarzens, L., Leuba, A., Darlow, B., & Pichonnaz, C. (2021). Physiotherapists' attitudes and beliefs about low back pain influence their clinical decisions and advice. Musculoskeletal science & practice, 53, 102382. https://doi.org/10.1016/j.msksp.2021.102382
[3]Martimo, K. P., Verbeek, J., Karppinen, J., Furlan, A. D., Takala, E. P., Kuijer, P. P., Jauhiainen, M., & Viikari-Juntura, E. (2008). Effect of training and lifting equipment for preventing back pain in lifting and handling: systematic review. BMJ (Clinical research ed.), 336(7641), 429–431. https://doi.org/10.1136/bmj.39463.418380.BE

 

Twitterでフォローしよう