医療従事者の影響と患者の不安

ここで述べることは決して珍しいことではない.
結果として患者さんは強い不安を発症したが,これは人に寄り添い親切な医療従事者によって生じた問題である.


症例

70代女性,慢性的な腰痛を持つ.
機会があり,30分間この女性と話すことになった.
その内容を対話形式で示す.


女性「私はマッサージを定期的に受けないと,体がどうにかなってしまいそうで,不安なので受け続けています」

「なんで,マッサージを受け続けないと不安なんですか?」

女性「身体の痛みは何十年も抱えてきました.仕事をしていたころは時間がなく,マッサージを受けることもできなかったので,自分でお灸をしていました.それも部屋中が煙でいっぱいになるくらいしていました」

「お灸をすると楽になりましたか?」

女性「そのときはよくわかりませんでした.ただ,自分でお灸ができない背中から腰にかけて今も症状が残っているのは,お灸でケアできていなかったせいだと思っています.だから今もマッサージをしないといけないです.」

「マッサージを受けると楽になっていきますか?」

女性「受けた後は楽になりますが治るわけではありません.ただ,マッサージを受けていないと不安なんです.私は今,整形外科にも通っているのですが,『少しでも痛くなったらすぐ来ないとだめだよ』と言われます.この先生とは長い付き合いで,私の腰が一番痛かったころから診てもらっています.」

「なるほど.その整形外科では症状についてどのような説明を受けていますか?」

女性「筋肉が硬くなって痛みが出るから,ほぐしていかないと良くならないと言われています.美容院に行っても,とても硬いと言われます.歯医者に行ったときも,筋肉がギチギチになっているから,僕でよかったらマッサージしますよと言われました.」

「歯医者さんが言ったんですか?」

女性「そうなんです.その歯医者さんとも30年の付き合いがあって,時間があるときにマッサージしてくれるんです.今までマッサージしてくれた接骨院の先生も,硬くなる前にマッサージしたほうが良いと親切に話を聞いてくれて通っています」

「そうなんですね.マッサージを受けるのをやめることについてはどう思いますか?」

女性「不安です.身体がどんどん硬くなって悪くなるような気がします.」


この女性の認識は「硬い=悪い」,マッサージは体を柔らかくしてくれるからマッサージをしないと不安というものだった.
信頼できる整形外科医,歯科医,美容師,接骨院の先生は,マッサージを受けたほうが良いと言い続け,この女性は何年もそれを聞き続けてきた.
結果として彼女はその先生たちに感謝している.

しかし,「硬いから身体が悪い」という認識を植え付け,マッサージをしないといけないと刷り込み,マッサージをやめることで体が硬くなり,症状が再発すると信じさせ,不安を生んだのも"親切な"先生たちである.


「誤った理解による親切心」の影響

彼女の痛みに対する認識を変えることは簡単ではない.
なぜなら信頼する整形外科医,歯科医,接骨院の先生から長年にわたって同じ説明を受けてきており,彼女自身がその説明を納得し,受け入れているためである.

患者さんにとって,信頼する先生の言葉は大きな影響を与える.その影響が患者の回復につながることもあれば,逆に悪影響を及ぼすこともある.
だからこそ,言葉の持つ力を理解し,慎重に用いることが求められる.

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