大後頭直筋の起始・停止・支配神経・作用
大後頭直筋は後頭下筋群(SOM:Suboccipital Muscles)を構成する4つの筋の1つです。
頭頸部領域(craniocervical region)の筋は前外側と後部の筋に分けることができます。後部の筋はさらに表層の筋群(頸板状筋と頭板状筋)と深部の筋群に分けられます。この深部の筋グループが後頭下筋群と呼ばれています。
後頭下筋群は以下の4つで構成されます。
・小後頭直筋(RCPm:Rectus capitis posterior minor muscle)
・大後頭直筋(RCPM:Rectus capitis posterior major muscle)
・上頭斜筋(OCS:Obliquus capitis superior muscle)
・下頭斜筋(OCI:Obliquus capitis inferior muscle)
<大後頭直筋の基礎データ>
名称 | 大後頭直筋(だいこうとうちょっきん) |
英語表記 | Rectus capitis posterior major muscle |
略称 | RCPM/RCPma |
起始 | 軸椎の二分された棘突起の外側面 |
停止 | 後頭骨下項線より下の領域の外側部 |
支配神経 | 後頭下神経 |
神経根/分節 | C1 |
作用 | 環椎後頭関節の伸展、環軸関節の同側回旋 |
血液供給 | 椎骨動脈、後頭動脈の下行枝 |
<後方から見た大後頭直筋>
大後頭直筋の起始
起始 | 軸椎の二分された棘突起の外側面 |
大後頭直筋は三角形をしており、起始部は細く、上方に行くにつれて幅が広くなります。
後頭下三角の筋が上方に付着しているため、軸椎の二分された棘突起は非常に大きいです。
<外方から見た大後頭直筋の起始停止>
大後頭直筋の停止
停止 | 後頭骨下項線より下の領域の外側部 |
内側には小後頭直筋、外側には上頭斜筋、後上方には頭半棘筋の停止部があります。
<後方から見た大後頭直筋の起始停止>
大後頭直筋の支配神経
支配神経 | 後頭下神経 |
大後頭直筋の作用
作用 | 環椎後頭関節の伸展、環軸関節の同側回旋 |
大後頭直筋は「環椎後頭関節(atlanto-occipital joint)の伸展し、環軸関節(atlantoaxial joint)の同側回旋」します。
環軸関節の回旋作用を持つ筋は片側の下頭斜筋、大後頭直筋、頭板状筋、対側胸鎖乳突筋です。
頭部前方位では上部頸椎が伸展するため大後頭直筋は短縮位になります。
大後頭下筋を含めた後頭下筋群の作用はあまり多く研究されていません。
大後頭下筋の作用として主に伸展と同側回旋と記載されている事が多く、同側側屈を作用として含めているかどうかは文献によってばらつきがあります。
Last's Anatomy | 頭部を伸展させ、アトラスとともに回旋させる |
Kinesiology of the musculoskeletal system | 環椎後頭関節:伸展、側屈 環軸関節:伸展、回旋 |
Gray’s basic anatomy | 頭部の伸展、同側回旋 |
Gray’s anatomy | 頭部の伸展、下頭斜筋とともに同側回旋させる |
Atlas of Anatomy | 両側性収縮:頭部伸展 片側性収縮:頭部の同側回旋 |
Brunnstrom’s Clinical Kinesiology | (後頭下筋群として) 両側性収縮:環椎後頭関節での頭部伸展 片側性収縮:側屈、環軸関節での回旋 |
後頭下筋群は深部に位置し、筋自体短いため、あまり大きな力を発揮できず、筋紡錘が豊富なことから高度な固有受容機能を有しているため、頭頸部の大きな動きというよりは、姿勢や頭蓋骨の角度のコントロールとして役割を有していると考えられています。
とは言え、もし大後頭下筋の作用が単に姿勢や頭蓋骨のコントロールに特化しているのなら収縮が遅く疲労がしにくいtype1の筋繊維が大半を占めていてもおかしくないですが、ヒラメ筋(約88%)や頚椎多裂筋(77%)などの典型的ないわゆる姿勢筋と比べてtype1繊維が約60%と少ないため、単に姿勢筋だけではない可能性もあります[8]。
筋繊維のタイプ(type1とtype2の占める割合)は大腿二頭筋(約67%)や頚長筋(53-69%)に類似しています。
大後頭直筋の栄養血管
栄養血管 | 椎骨動脈、後頭動脈の下行枝 |
大後頭直筋は「椎骨動脈(Vertebral artery)、後頭動脈(Occipital artery)の下行枝(descending branch)」によって栄養されています。
大後頭直筋の位置(断面図)
より表層には頭半棘筋や僧帽筋があります。
表層の少し外側には頭板状筋が走行しています。
<軸椎の高さにおける大後頭直筋の断面図>
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[2]Neumann, D. A. (2017). Kinesiology of the musculoskeletal system: Foundations for Rehabilitation. Mosby.
[3]Drake, R., PhD, Vogl, A. W., PhD, & Mitchell, A. W. M. (2022). Gray’s basic anatomy.
[4]Standring, S. (2020). Gray’s anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. Gray’s Anatomy.
[5]Schünke, M., Schulte, E., & Schumacher, U. (2016). Atlas of Anatomy. Thieme Medical Publishers.
[8]Cornwall, Jon & Farrell, Scott & Sheard, Philip. (2016). Fibre types of human suboccipital muscles. European Journal of Anatomy. 20. 31-36.