後頭下筋群の起始・停止・支配神経・作用

後頭下筋群の基礎情報

後頭下筋群(SOM:Suboccipital Muscles)は後頸部最上部に位置する以下の4つの小さな筋群です。
小後頭直筋(RCPm:Rectus capitis posterior minor muscle)
大後頭直筋(RCPM:Rectus capitis posterior major muscle)
上頭斜筋(OCS:Obliquus capitis superior muscle)
下頭斜筋(OCIObliquus capitis inferior muscle)

僧帽筋、頭板筋、頭半棘筋の下に位置する最も深部の筋で大・小2つの直筋(Rectus muscles)と、上・下2つの斜筋(Obliquus muscles)で構成されています。

後頭下筋群は主に環椎後頭関節での頭部の伸展と環軸関節での頭部の回旋に関係しています。
この筋群のニューロン当たりの筋線維の数は3-5本で、高度の神経支配により急速に緊張を変化させることができ、筋内の筋紡錘の密度が比較的高いことから、頭の動きの位置と速度に関する神経フィードバックを提供する重要な役割を示唆しており、バランス、平衡、目と頭の協調に間接的に貢献し、頭の動きを微調整し、かなりの精度で頭の姿勢を制御することができます[6][7][8][9]。

大後頭直筋は頭部を伸展し,下頭斜筋とともに作用して顔を同側回旋させます。小後頭直筋は頭部を伸展します。上頭斜筋は頭部を伸展させ、同側側屈させます[2]。

後頭下筋は、椎骨動脈と後頭動脈から血液供給を受け、すべての後頭下筋は第1頸椎神経の背側枝によって支配されます。

大後頭直筋の起始・停止・支配神経・作用

大後頭下筋は軸椎棘突起から起始し、環椎を越えて後頭骨下項線に停止します。
主な作用は上位頸椎の伸展です。片側性収縮では下頭斜筋と共に同側回旋作用を持ちます。

<大後頭直筋の基礎データ>

名称 大後頭直筋(だいこうとうちょっきん)
英語表記 Rectus capitis posterior major muscle
略称 RCPM/RCPma
起始 軸椎の二分された棘突起の外側面
停止 後頭骨下項線より下の領域の外側部
支配神経 後頭下神経
神経根/分節 C1
作用 環椎後頭関節の伸展、環軸関節の同側回旋
血液供給 椎骨動脈、後頭動脈の下行枝

小後頭直筋の起始・停止・支配神経・作用

小後頭下筋は環椎棘突起に起始し、後頭骨に停止します。
主な作用は環椎後頭関節の伸展です。


<後方から見た小後頭直筋>
<外方から見た小後頭直筋>

<小後頭直筋の基礎データ>

名称 小後頭直筋(しょうこうとうちょっきん)
英語表記 Rectus capitis posterior minor muscle
略称 RCPm/RCPmi
起始 環椎後結節
停止 後頭骨下項線の内側
支配神経 後頭下神経
神経根/分節 C1
作用 環椎後頭関節の伸展
血液供給 椎骨動脈、後頭動脈

上頭斜筋の起始・停止・支配神経・作用

上頭斜筋は環椎横突起から起始して、後頭骨に停止します。

 

<上頭斜筋の基礎データ>

名称 上頭斜筋(じょうとうしゃきん)
英語表記 Obliquus capitis superior muscle
略称 OCS
起始 環椎横突起の上面
停止 後頭骨下項線の外側
支配神経 後頭下神経
神経根/分節 C1
作用 両側性収縮:頭部伸展
片側性収縮:頭部同側側屈
血液供給 椎骨動脈、後頭動脈

下頭斜筋の起始・停止・支配神経・作用

下頭斜筋は軸椎棘突起から起始し、環椎横突起に停止しています。
主な作用は環軸関節の同側回旋です。

 

<下頭斜筋の基礎データ>

名称 下頭斜筋(かとうしゃきん)
英語表記 Obliquus capitis inferior muscle
略称 OCI
起始 軸椎の二分された棘突起の外側面
停止 環椎横突起
支配神経 後頭下神経
神経根/分節 C1
作用 環軸関節の同側回旋
血液供給 椎骨動脈、後頭動脈

 

後頭下三角の構成・通過・走行

後頭下三角(Suboccipital triangle)は大後頭直筋と上・下頭斜筋で構成されています。
その床には環椎後弓(posterior arch of the atlas)と後環椎後頭膜(PAOM:posterior atlanto-occipital membrane)があります。
床を横切って椎骨動脈(vertebral artery)が走り、床を通って後頭下神経(suboccipital nerve)が出てきます。
大後頭神経(greater occipital nerve)と後頭動脈(occipital artery)が屋根を横切って走行しています。

後頭下三角の筋が上方に付着しているため、軸椎の二分された棘突起は非常に大きいです。

後頭下筋群起始停止の覚え方

後頭下筋群は深層にある筋で走行イメージが付きにくいため起始停止が覚えにくいと感じている方も多いと思います。
ここでは覚えやすく忘れにくい方法を紹介します。

まず名称を覚えるところから始めます。
後頭下筋群は名前に「直筋」または「斜筋」と付くグループに分けられます。
「直筋」のグループは後方から見ると垂直に近いです(下図左)。
「斜筋」のグループは外方から見ると斜めに傾いて水平に近いです(下図右)。

「直筋」のグループには「大」「小」どちらかが名前に付き、「斜筋」のグループには「上」「下」どちらかが名前に付きます。
これらを組み合わせることで以下の4つの名前のパターンがあると気づきます。
・「大」後頭「直筋」
・「小」後頭「直筋」
・「上」頭「斜筋」
・「下」頭「斜筋」

ここまで把握することで、「後頭下筋群を構成する4つの筋の名称は?」に答えることができます。

名前を覚えたところで、次は起始停止を覚えていきます。
筋が4つあるため起始停止を全部で8箇所覚えなければならないように見えますが、小後頭直筋を除く3つの筋の起始停止は被っているため、3つの筋に関しては3箇所覚えれば起始停止を全て覚えられます。
下図を見ると3つのポイントを3つの筋が繋いで三角形を形成していることに気が付きます。

3つのポイントは後頭骨の「下項線」、軸椎の「棘突起」、環椎の「横突起」です。

大後頭直筋の英語表記・略称・ラテン語表記

大後頭直筋の英語表記はRectus capitis posterior major muscle、略称は頭文字をとってRCPMまたはRCPmaです。
この略称は他の大・小と付く筋と同様に小後頭直筋(Rectus capitis posterior minor muscle)と対応しており、小後頭直筋はRCPmまたはRCPmiと表記することで同じ頭文字でありながら区別することができます。

Rectusは"直筋"を意味します。同じ直筋と付く大腿直筋も英語表記ではRectus femoris muscleとRectusが使われています。
Capitisは"頭部の"を意味し、この部分が頭部に位置し、その作用が頭部に関連していることを示します。
Posteriorは"後方の"を意味し、この筋が背側に位置することを示します。
Majorは"大きな"を意味し、この筋が同じ領域に存在する他の筋よりも大きいことを示します。

ラテン語は「musculus rectus capitis posterior major」です。

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参考文献
[1]Sinnatamby, C. S. (2011). Last’s anatomy: Regional and Applied. Churchill Livingstone.
[2]Neumann, D. A. (2017). Kinesiology of the musculoskeletal system: Foundations for Rehabilitation. Mosby.
[3]Drake, R., PhD, Vogl, A. W., PhD, & Mitchell, A. W. M. (2022). Gray’s basic anatomy.
[4]Standring, S. (2020). Gray’s anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. Gray’s Anatomy.
[5]Schünke, M., Schulte, E., & Schumacher, U. (2016). Atlas of Anatomy. Thieme Medical Publishers.
[6]Dugailly, P. M., Sobczak, S., Moiseev, F., Sholukha, V., Salvia, P., Feipel, V., Rooze, M., & Van Sint Jan, S. (2011). Musculoskeletal modeling of the suboccipital spine: kinematics analysis, muscle lengths, and muscle moment arms during axial rotation and flexion extension. Spine, 36(6), E413–E422. https://doi.org/10.1097/BRS.0b013e3181dc844a
[7]Peck, D., Buxton, D. F., & Nitz, A. (1984). A comparison of spindle concentrations in large and small muscles acting in parallel combinations. Journal of morphology, 180(3), 243–252. https://doi.org/10.1002/jmor.1051800307
[8]Ackland, D. C., Merritt, J. S., & Pandy, M. G. (2011). Moment arms of the human neck muscles in flexion, bending and rotation. Journal of biomechanics, 44(3), 475–486. https://doi.org/10.1016/j.jbiomech.2010.09.036
[9]Borst, J., Forbes, P. A., Happee, R., & Veeger, D. H. (2011). Muscle parameters for musculoskeletal modelling of the human neck. Clinical biomechanics (Bristol, Avon), 26(4), 343–351. https://doi.org/10.1016/j.clinbiomech.2010.11.019
[10]Cornwall, Jon & Farrell, Scott & Sheard, Philip. (2016). Fibre types of human suboccipital muscles. European Journal of Anatomy. 20. 31-36.

 

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