医療現場でのポジティブなコミュニケーションの重要性

ポジティブさの影響

臨床成績が単に医学的知識や医学的スキルによって決定されるわけではないことを示唆するいくつかの証拠はこれまで紹介してきました。

これらを参照すると臨床成績に寄与する可能性のある因子には安心感や期待があります[2][3]。
とはいえ、症状の複雑さを考慮すると、より多くの因子が臨床成績に関わっているとしても不思議ではありません。

痛みが臨床的にどれだけ複雑か知りたい方は「疼痛リテラシーアップデート」を参照してください

安心感や期待の他に臨床成績に寄与している可能性があるのは「ポジティブな姿勢(positive manner)」です。
医療従事者のポジティブさはプラセボを引き起こす因子になりえ、非ポジティブな姿勢(non-positive manner)に比べて気分的にも良好になると考えられます。

Thomasらは症状を呈し、異常な身体徴候がなく、確定診断ができない患者を対象にポジティブな姿勢と非ポジティブな姿勢の臨床結果を比較しました[1]。

ポジティブな姿勢では、患者はしっかりとした診断を受け、数日後には良くなると自信をもって告げられ、非ポジティブな姿勢では「何が問題なのか確信が持てません」「これから行う治療が効果的かどうかはわかりません」「数日後に良くなっていなければ、また医師のところに来てください」と告げられました。

ポジティブな姿勢で診療された場合、合計64人(64%)が良くなったと報告したのに対し、非ポジティブな姿勢では39人(39%)しか良くなったと報告しませんでした。また自分の希望する医師に診てもらった患者のうち、64人(57%)が良くなったと報告したのに対し、そうでない患者では40人(45%)でした。

臨床応用

以上の結果から、医療従事者のポジティブな姿勢は患者の臨床成績に影響を与える可能性があります。このことを踏まえると、臨床現場での医療提供において以下の考慮事項が重要となります。

患者とのコミュニケーションにおいて、ポジティブな態度と言葉遣いを心掛けることで「良くなった」と報告される可能性が高まります。ただし医療者がポジティブな姿勢であると、あまり良くなっていないのに「良くなった」というケースや、非ポジティブな姿勢であると実際には良くなっているのに、「良くなっていない」と報告することや、良くなったという報告は実際の回復を反映しているとは限らないことにも注意が必要です。

ポジティブな姿勢はプラセボ効果を引き起こす可能性があり、この効果を最大限に活用するためには、患者の期待や信頼を育むような対応が重要です。
患者の心理的な健康は治療の成果にも密接に関連しています。医療者は患者の心理的な状態を適切に評価し、必要に応じて適切なサポートを提供することが重要です。ポジティブな姿勢は患者の気分を良好にし、治療に対する意欲や希望を高めることができます。

ポジティブな姿勢は医療者と患者が互いに支え合うことにも繋がります。

懸念

ポジティブな姿勢の懸念は患者に対して、「数日後には良くなる」と少なからず嘘や誇張を行っていることです。
情報の取り扱いとしては非ポジティブな姿勢の方が適切ですが、臨床成績を考えるとポジティブな姿勢の方が良い主観的な結果を引き出すことができます。
患者に嘘や誇張を行うことは、倫理的に問題があります。医療従事者は真実を伝える責任がありますし、患者の信頼を損なう可能性もあります。また、非ポジティブな情報を伝えることは、患者が現実を受け入れる上で重要な要素です。治療の進行や予後についての正直な情報を提供することは、患者の自己決定能力を尊重するためにも必要です。

また自身の臨床に対して無批判である方が、「数日後には良くなる」と自信を持って言える可能性が高く、情報を批判的に精査する人の方が、「数日後には良くなる」とは安易に言えないと考えられるため、知識と臨床成績のギャップがここで生じることになります。
批判的な思考を持ち、情報を精査することは、良質な医療の提供に欠かせません。

このように単にポジティブな姿勢であれば良いとは言えない視点もあります。

終わりに

総じて言えることは、ポジティブな態度が治療において重要な役割を果たすことがあるということです。
患者との信頼関係の構築や心理的なサポート、プラシーボ効果による改善などがその一例です。しかし、それだけでは十分ではなく、科学的な根拠に基づいた治療法や適切な診断、経験に裏打ちされた判断力なども不可欠です。
ポジティブな姿勢を活かしつつ、幅広いスキルと知識を備えることが、より良い医療提供の実現につながります。

 

参考文献
[1]Thomas KB. General practice consultations: is there any point in being positive? Br Med J (Clin Res Ed). 1987 May 9;294(6581):1200-2. doi: 10.1136/bmj.294.6581.1200. PMID: 3109581; PMCID: PMC1246362.
[2]Hagen EM, Eriksen HR, Ursin H. Does early intervention with a light mobilization program reduce long-term sick leave for low back pain? Spine (Phila Pa 1976). 2000 Aug 1;25(15):1973-6. doi: 10.1097/00007632-200008010-00017. PMID: 10908942.
[3]Linde K, Witt CM, Streng A, Weidenhammer W, Wagenpfeil S, Brinkhaus B, Willich SN, Melchart D. The impact of patient expectations on outcomes in four randomized controlled trials of acupuncture in patients with chronic pain. Pain. 2007 Apr;128(3):264-271. doi: 10.1016/j.pain.2006.12.006. Epub 2007 Jan 25. PMID: 17257756.

 

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