誰でもできる簡単な介入は高度で専門的な介入に劣らない

高度で専門的な介入への依存

しばしば自然経過以上の腰痛緩和を引き起こすには医学的な介入が必要だと考えられています。
そのために解剖学や生体力学、運動学、徒手療法、運動療法、心理療法、痛み学などを学び臨床家は試行錯誤します。

臨床的な好奇心として医療者が持っているものの1つは「何が最も効果的なのか」だと思います。
そしてどうすれば効果が最大化できるかと考え、スキルを磨いたり知識を増やしているのではないでしょうか。

このような好奇心は学習意欲のためにも重要な役割を持っており、医療者のレベルアップに繋がっているのだろうと楽観的には思いたいものです。

この時医療者が見落としてしまうのは専門性以外の面です。
自然経過以上の腰痛緩和を出すためには間間専門的な知識とスキルが必須であると無意識に直感し、信じてしまいます。
それらも必要ですが、高度なことでなく専門的ではないもっと誰でもできるジェネラルな介入は、時に高度で専門的な介入よりも高い効果をもっていることがあります。

誰でもできる簡単な介入は高度で専門的な介入に劣らない

Indahlらは8週間以上病気で仕事を休んでいる患者(n=512)を対象に軽快な活動を再開することを保証することで、病気休暇や慢性腰痛の発症を抑制できるかどうかを調査しました[1]。

介入群の患者への助言の中には以下のような説明が含まれました。
・痛みや痛みの予感が、背中のガードに拍車をかけ、筋の活性化を高め、それによって痛みが増す
・軽い運動は、椎間板やそのプロセスに関与しうる他の構造をさらに傷つけることはなくむしろ修復プロセスを促進する可能性が高い
・所見の如何にかかわらず、軽い運動で腰椎を動かす
・背中の筋を静止させるような動作は控える
・背中に急性の刺すような痛みを感じた場合は、急性の筋スパズムとして、ストレッチや軽い活動で対処する

対照群は、従来の医療システムの中で治療を受けました。

結果として介入群では対照群と比較して、病気休暇が非常に有意に減少しました。
200日時点で、対照群では60%が病気休暇中であったのに対し、介入群では30%でした。

ちなみに被験者の約半数は過去理学療法やカイロプラクティックを受けたことがありました。理学療法を受けた人の中の47%が「悪化した」、32%が「ほとんど効果がなかった」、21%が「良い効果があった」と回答し、カイロプラクティックを受けた39%が「悪化した」、31%が「ほとんど効果がなかった」、30%が「良い効果があった」と回答しているのも興味深い結果です。どのような治療を受けたかは報告されていませんが、これらの介入から主観的に利益を感じたのは2割から3割です。「悪化した」と報告した被験者は4割から5割とより多いことは利点より害の方が多い可能性も示唆しています。

著者らは従来の腰痛に対する医学的治療は一般に失敗しており、腰の問題の流行における従来の医学の役割は批判的に見直されるべきであると考えていました。例えば腰痛の原因は「椎間板のずれ、神経の圧迫、関節の亜脱臼」であり、「車椅子に乗ることになるかもしれない」という誤った考え方は、一般の人々にも定着してしていますが、このような不適切な信念から生まれる腰の不定愁訴に対する恐怖を取り除き、患者さんが病気行動や不活動に入るのを防ぐこと自体が必要だと考えることができます。

 

医学がこれまで行なってきた説明は患者さんをさらなる恐怖を与えるものばかりでした。これは腰部障害のみならず、慢性腰痛の増加の一因かもしれません。

そして腰痛を治すために考案されてきた何百もの治療法のうち、他の治療法やプラセボよりも優れていることが証明されているものはほとんどないことも受け入れる必要があります[2][3][4][5]。

まとめ

治療が高度で専門的な方が良いと考えている方がいればそれは誤解です。
高度で専門的な治療はもちろん急性疾患や重篤な病理を有する疾患に対しては必要ですが、それが慢性腰痛でも同様にとは言えません。

参考文献

[1]Indahl A, Velund L, Reikeraas O. Good prognosis for low back pain when left untampered. A randomized clinical trial. Spine (Phila Pa 1976). 1995 Feb 15;20(4):473-7. doi: 10.1097/00007632-199502001-00011. PMID: 7747232.
[2]Skelly AC, Chou R, Dettori JR, Turner JA, Friedly JL, Rundell SD, Fu R, Brodt ED, Wasson N, Winter C, Ferguson AJR. Noninvasive Nonpharmacological Treatment for Chronic Pain: A Systematic Review [Internet]. Rockville (MD): Agency for Healthcare Research and Quality (US); 2018 Jun. Report No.: 18-EHC013-EF. PMID: 30179389.
[3]Chou R, Deyo R, Friedly J, Skelly A, Hashimoto R, Weimer M, Fu R, Dana T, Kraegel P, Griffin J, Grusing S, Brodt ED. Nonpharmacologic Therapies for Low Back Pain: A Systematic Review for an American College of Physicians Clinical Practice Guideline. Ann Intern Med. 2017 Apr 4;166(7):493-505. doi: 10.7326/M16-2459. Epub 2017 Feb 14. PMID: 28192793.
[4]Foster NE, Anema JR, Cherkin D, Chou R, Cohen SP, Gross DP, Ferreira PH, Fritz JM, Koes BW, Peul W, Turner JA, Maher CG; Lancet Low Back Pain Series Working Group. Prevention and treatment of low back pain: evidence, challenges, and promising directions. Lancet. 2018 Jun 9;391(10137):2368-2383. doi: 10.1016/S0140-6736(18)30489-6. Epub 2018 Mar 21. PMID: 29573872.
[5]Kreiner DS, Matz P, Bono CM, Cho CH, Easa JE, Ghiselli G, Ghogawala Z, Reitman CA, Resnick DK, Watters WC 3rd, Annaswamy TM, Baisden J, Bartynski WS, Bess S, Brewer RP, Cassidy RC, Cheng DS, Christie SD, Chutkan NB, Cohen BA, Dagenais S, Enix DE, Dougherty P, Golish SR, Gulur P, Hwang SW, Kilincer C, King JA, Lipson AC, Lisi AJ, Meagher RJ, O'Toole JE, Park P, Pekmezci M, Perry DR, Prasad R, Provenzano DA, Radcliff KE, Rahmathulla G, Reinsel TE, Rich RL Jr, Robbins DS, Rosolowski KA, Sembrano JN, Sharma AK, Stout AA, Taleghani CK, Tauzell RA, Trammell T, Vorobeychik Y, Yahiro AM. Guideline summary review: an evidence-based clinical guideline for the diagnosis and treatment of low back pain. Spine J. 2020 Jul;20(7):998-1024. doi: 10.1016/j.spinee.2020.04.006. Epub 2020 Apr 22. Erratum in: Spine J. 2021 Feb 24;: PMID: 32333996.

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