前回、誰でもできる簡単な介入は高度で専門的な介入に劣らないことを説明しました。
安心感を与える
情報とアドバイスには以下のような説明が含まれました。
・レントゲン写真で痛みの原因を探すことは重要ではない
・脊椎の退行性編成は多くの場合、正常な老化現象であり、必ずしも痛みを伴うわけではない
・予後は良い
・筋機能障害の発生を避けるために活動的に過ごすこと(毎日散歩をするように勧めた)
・自宅でのトレーニングやストレッチの方法についてアドバイスと指導
・腰痛の管理方法と通常の活動を再開する方法についてのアドバイス
結果として、3ヵ月後では介入群の51.9%がフルタイムで仕事に復帰したのに対し、対照群では35.9%でした。
6ヵ月後では、介入群の61.2%がフルタイムで仕事に復帰したのに対し、対照群では45%でした。
12ヵ月後の評価では、介入群の68.4%でフルタイムで仕事に復帰したのに対し、対照群では56.4%でした。
それ以降は対照群と差がありませんでした。
従来のプライマリーヘルスケアによる治療の結果と比較すると、亜急性期の腰痛患者は安心感やできるだけ普通に身体活動を行うように促す助言を提供することでより早く仕事に復帰しています。
これに限らず、腰に対して「悪いこと」と認識されている(例えば腰への負荷)動作への恐怖を軽減する試みは、さらに重要かもしれません。
患者さんは(時に医療者は)、古くて証拠のないまたは既に否定された誤った情報によって、腰痛に対する活動が危ないと考えたり、問題でない身体検査上の異常を誤って症状と因果関係があると考えてしまっています。
このような不適切な信念は時間をかけて変えていくことが医療者にとっても患者にとっても必要なことです。
アウトカムとしての仕事復帰
ちなみにこのような研究を読むと、「なぜ痛みではなく仕事復帰を評価してるの?」と疑問に思う方も多いかも知れません。
腰痛の治療なら痛みの変化をアウトカムにすべきだと直感的には思ってしまいます。
しかし、痛みにおいて重要なことは痛みそのものというより痛みにとともに現れる苦痛や障害です。痛み自体は医療を受けるための確定的な理由にはなりません。
そういった意味で疼痛強度ではなく、痛みに関連し、苦痛や障害に関連する要素をアウトカムに設定することは正当といえます。
文化的に本邦では腰痛で仕事を休んだり、仕事を辞めるというのはあまり一般的ではないかも知れません。
他国でどうかはわかりませんが、患者さんの中には「腰痛では仕事を休めない」という方を見かけます。「腰痛があるから仕事を辞める」というとそれだけで精神的に弱いと言われる可能性すらあります。
日本の文化圏にはストイシズム(stoicism)があります。ストイシズムは感情を表に出さずに快楽や苦痛に耐えることを肯定的に捉えるため、ストイックを重んじる人は、うめき声や叫び声を避ける傾向があり、実際に痛みを感じながらそれを否定することさえあります。儒教は個人の欲望や権利よりもグループの目標やニーズを優先するため、個人の身体的または心理的苦痛はおろそかにされます。
これらは本邦における痛みに関連する問題(苦痛や障害)を隠すきっかけになっているかも知れません。
そして医療従事者は文化的に隠された問題に気づきにくいのかも知れません。
治療はもっと痛み以外に目を向けられる必要があります。
まとめ
参考文献
[1]Indahl A, Velund L, Reikeraas O. Good prognosis for low back pain when left untampered. A randomized clinical trial. Spine (Phila Pa 1976). 1995 Feb 15;20(4):473-7. doi: 10.1097/00007632-199502001-00011. PMID: 7747232.[2]Hagen EM, Eriksen HR, Ursin H. Does early intervention with a light mobilization program reduce long-term sick leave for low back pain? Spine (Phila Pa 1976). 2000 Aug 1;25(15):1973-6. doi: 10.1097/00007632-200008010-00017. PMID: 10908942.