治療の組み合わせを再考する

白タム(学生)
病因が断定できない場合は下手に病因ベースの名前で呼ぶことの悪性が理解できました。

タム
それで以前は肩の痛みの部位を主とした名称(Subacromial pain syndrome)や病変部位を主とした名称(Rotator cuff disease)を紹介しました。
今回はSAPS(Subacromial pain syndrome)を例に介入について思考を深めていってみましょう。

白タム(学生)
どういう介入がいいかイマイチ想像できないんですよね。

タム
SAPSに対しては基本的に運動療法が推奨されています。

白タム(学生)
肩の痛みに運動は悪化が怖い印象がありましたけど、前回の話からすればインピンジメントって名前に恐れていただけだって考えると運動も選択肢に入ってくる理由が分かります。
そう考えると名前は本当に重要ですね。

タム
そそ。でどの運動がより良いのか?について今回はこの研究を紹介します。

白タム(学生)
(また英語か)

タム
(まためんどくさがったな…)
このタイトルを直訳すると「二次医療において、Subacromial pain syndromeの臨床ガイドラインを遵守し、治療後の症状が許容範囲内である患者は半数以下である。3306名の患者を対象としたデンマークの全国規模のコホート研究」となります。
今回の文献もフリーアクセスなので是非読んでみてください。

タム
この研究では①非手術以外の治療を2ヶ月以上受けており、②過去2週間以内にリハビリに積極的に取り組んでおり、③現在の肩の疾患で手術を受けていない患者が対象となっています。

白タム(学生)
タイトルに書かれている「臨床ガイドラインの遵守」の内容ってなんですか?

タム
ここでは「診断から4か月後に最低12週間の運動」のことを指していますね。

白タム(学生)
ふーむ、ガイドラインは遵守しなくてもいいんですか?

タム
「必ずしも」って答えが適切だと思います。そのガイドラインに書いてあることが案外根拠なく書かれていることもありますし、臨床で患者と向き合ったときにガイドラインの内容に当てはまらない場合は遵守しすぎる必要はなくなります。
この場合、12週間運動したかどうかはどれだけ回復するかに影響を与えなかったので、12週間というところは遵守する必要はない可能性があります。
全く運動しなかったのは全体の13%でしたが、ガイドラインを知らなかったり、臨床的に運動が適応ではないと判断したり、臨床的に他の効果があると推測される治療があったりと、運動しなかった理由がなんであるかは気になるところです。

白タム(学生)
ガイドラインはあくまでその名の通り大まかな指針ってことですね。
因みに運動って書かれていますけど、この時の運動って何しているんですか?

タム
最も一般的な運動介入は、モビリティエクササイズで93%を占めています。その次がストレングスエクササイズで87%、ストレッチは77%、スキャプラセッティングを含む姿勢への介入は57%です。

白タム(学生)
へー。僕のバイト先の院だと肩のストレッチばかりですけど、意外とそうじゃないんですね。

タム
この辺は国ごとの差とか、院毎の差とか個人の差の影響を受けますよね。
医療従事者の好みや知識なんかはかなりの選択の理由になっていると思われます。

白タム(学生)
そう考えると、医療従事者の知識が特定の治療に偏ってしまうとそれが介入内容に強く影響してしまって適切な治療を受けられなくなってしまうことも考えられてしまいますね。

タム
その通りで単一の治療への妄信は、他の治療の機会損失を引き起こします。

タム
話を戻して、これらの運動介入の中で、最も高い効果を示す可能性が高いのは、ストレングスエクササイズです。特にストレングスエクササイズを行った患者は、行わなかった患者と比較して、OR 1.65(95%CI 1.25〜2.19)と改善の可能性が大幅に高いです。

白タム(学生)
ストレングスかー。前回の話を聞かずにインピンジメントの意識が強かったら絶対に選択しない気がします。

タム
因みにインピンジメントに着目するような姿勢運動はOR 0.77(95%CI 0.63〜0.94)と改善する可能性が低いことも着目すべきポイントです。
(他の介入の改善可能性は文献を見てみてください)

タム
ただ前回の話も兼ねると、この研究結果を妄信してストレングストレーニングを妄信してしまわないことも重要です。

白タム(学生)
Subacromial pain syndromeは病因を含んでいないということですね。
病因がある程度特定できる場合はそれに合わせて治療を変更することでより高い効果が得られる可能性があると。

タム
その通りです。
で、ここからが本題です。タイトルにあるように「治療を組み合わせることで効果が減少する」可能性がここから考えられます。

治療を組み合わせると効果が下がる可能性がある

白タム(学生)
なんとなく直感で考えると、いろんな理論の治療を組み合わせると効果が上がるような気もしますけどそういうわけではないんですね。

タム
シンプルな話ですが、臨床は時間が限られているので治療の種類が増えれば増えるほど1つの治療法にコミットできる時間が減少します。
ということは、最も効果の高い治療にコミットできる時間が減り、相対的に効果が低い治療のウェイトが増えることになります。

白タム(学生)
となると、効果が高い治療が分からない場合はどうでしょう?

タム
リスク分散の観点から複数の治療を組み合わせることはプラスの影響を与えることもありますね。何が効果あるか分からないから数打てというのも分かります。
もう一つ複数の治療を組み合わせることで効果が高まるパターンがあります。

白タム(学生)
んーなんだろう?

タム
多因子性疾患で、かつ複数の症状の誘発因子や持続因子に介入する時です。
ある程度多因子が特定されている場合は、複数の組み合わせの治療を使うことができます。
むしろ1つの介入しかしないことは、いくつかある因子の1側面にしか介入できていない可能性があり結果的に大した効果を得られないことが考えられます。
ただ1つの介入が1つの因子にしか作用するわけでもないのでこの考え方も制限があります。

白タム(学生)
なるほど、治療の数は慎重に選ばないといけないですね。
まとめ
・SAPSにはストレングストレーニングが最も高い効果を示す可能性があります
・複数の治療を組み合わせると総合的な効果は減少する可能性があります
・多因子性疾患でその因子が特定できる場合は複数の治療を組み合わせることで総合的な効果は増加する可能性があります。

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