肩関節インピンジメント症候群と呼ばないで?

インピンジメント症候群と呼ばない利点

白タム(学生)
肩の痛みってイマイチ何すれば良いか分からないんですよね〜

 

タム
肩の痛みと言ってもいろいろありますけど、特にこれが分からないっていうのはありますか?

白タム(学生)
ん〜特に、だと「肩関節インピンジメント症候群」ですね。
学校だと肩峰下で腱板がぶつかって損傷するって習った気もするんですけれど、調べてみたらインピンジメントって沢山の種類があるようで頭がこんがらがるし、介入も下手に肩動かして悪化させたら怖いしで何したら良いか…

タム
そうですよね。肩関節インピンジメント症候群は複雑な概念で、様々な種類のインピンジメントを自分なりにまとめるだけでかなり大変です。

白タム(学生)
それで肩関節インピンジメント症候群について調べていたらよく分からないことがあったんですよね。

タム
というと?

白タム(学生)
この前バイト先で肩の痛みを持っている方のカルテを見たら「肩峰下インピンジメント症候群疑い」とかいてあったんです。
どうやって判断したんだろ?って疑問に思って院の先生にインピンジメントってどうやって検査したんですか?と聞いたらペインフルアークサイン(有痛弧徴候)陽性だったからって言われて…
でも教科書開いてみるとペインフルアークサインは腱板損傷の検査法って書いてあるんです。肩関節インピンジメント症候群=腱板損傷なのかな?って疑問が新たに生まれたんですけど名前が違うんだから違うんじゃないかなーとも思えてきて頭が混乱しました。

タム
実はそれよくある勘違いなんです。腱板損傷は組織の状態を意味する用語で、インピンジメントという名前自体は病因を意味しています。
でも歴史的に腱板損傷の病因としてインピンジメントがピックされすぎて腱板損傷ないしは腱板疾患(Rotator cuff disease)=インピンジメントという図式が医療従事者の頭の中に根付いてしまっている現状があります。

白タム(学生)
はえ〜

タム
それを危惧してこんな文献も発表されています。

タム
タイトルを直訳すると「インピンジメントはインピンジメントではない:"Rotator Cuff Disease "と呼ぶべきケース」です。
この文献はフリーアクセスなので無料で全文読むことができるので読んで見てください。

白タム(学生)
え、えいご?読めません

タム
そこは翻訳機とノリで
ほら今DeepLとかみらい翻訳とか良い感じのツールがありますし

白タム(学生)
は、はい…(ちょっとめんどくさい)

タム
(今絶対めんどくさいって思ったな…)
とにかく、一番大事なところを引用すると、以下のようになります。
The predominant theory of causality in which the rotator cuff wears down after contact with one structure or another has not been proven and does not explain the clinical manifestations of the condition. As a result, we recommend that the spectrum of rotator cuff abnormalities no longer be called “impingement disease” but rather “rotator cuff disease”.
(訳:腱板が何らかの構造に接触した後に摩耗するという因果関係の有力な説は証明されておらず、この病態の臨床症状を説明するものではない。その結果、腱板異常のスペクトラム(変動する連続体)は、もはや 「インピンジメント疾患」 と呼ばれるのではなく、むしろ 「腱板疾患(rotator cuff disease)」 と呼ばれることを推奨する。)

タム
腱板疾患は多因子性でインピンジメント以外の理由でも病変が生じ得るのにも関わらずインピンジメントと断定してしまうと、「思考ロック」してしまうので、病因を過剰に断定しすぎない表現が必要な訳です。

白タム(学生)
確かにインピンジメントと言われるとインピンジメントを強調して考えてしまうかもしれないで‮‭‬ す

タム
因みに先ほど「介入も下手に肩動かして悪化させたら怖い」って言いましたよね。あれもインピンジメントを肩の運動で起こしてしまうことを危惧しているんじゃないですか?

白タム(学生)
そうなんです。正に僕もインピンジメントという言葉の影響を受けていたってことですね。

タム
少し脱線しますが、インピンジメントだけではなくて、坐骨神経痛も古くからある言葉で、坐骨神経の病理ではなく下肢にあらわれる症状の総称として使われているので、坐骨神経痛を誤解してしまうことから最近では坐骨神経痛ではなく、「Lumbosacral radicular syndrome」や「Lumbar Radicular Syndrome」と呼ぶようになってきています。
言葉は時代とともにより適切な表現に変わっていったりするので注意したいところですね。

白タム(学生)
勉強し続けてないと置いてけぼりになってくことが理解できます。

話を戻しますが、この腱板疾患(rotator cuff disease)と同じような理由で、SAPS(Subacromial pain syndrome)というワードで肩外側の痛みを表現されることもあります。この言葉の方が腱板以外も含むので上腕二頭筋腱障害のような疾患も含んでおり、同義ではありません。

白タム(学生)
それもそれで複雑で、大雑把ですね。

タム
確かにその通りなんです。
病因を断定しない名前を付けず、痛みの部位を主とした名称(Subacromial pain syndrome)や病変部位を主とした名称(Rotator cuff disease)を使うことで、あらゆる病因の疾患をひとまとめにして、大雑把なものにしまうんです。
このデメリットは想像できますか?

白タム(学生)
んーと…病因が特定されずに名前が付けられるってことは病因ベースの治療が適応されなくなる気がします。

タム
正解!病理解剖学的(Patho-anatomical model)な介入がこの場合当てはめにくくなります。これは誤った病因の認識からの誤った治療も選択しにくくなるメリットと共存しています。

白タム(学生)
メリットデメリットがあるんですね。

タム
そうです。だから病因がもし、ある程度信頼できる客観的根拠がある上で特定できるなら病因ベースの名前をつけることは治療を展開しやすくなります。
しかし腱板病変は病因の特定が難しい場合が多いので、Rotator cuff diseaseと言ったり、Subacromial pain syndromeと言った方が無難と言えます。

タム
ということで、名前にあまり固執して治療展開しないように注意した上で次回は肩の痛みの介入の注意点について話していきましょうか。

白タム(学生)
りょ
まとめ
病因、損傷部位、疼痛部位などが疾患や症状の名前として用いられています。
それらは病態把握のために役立ちますが、しばしば誤ってあるいは少ない根拠に基づいてラベリングされていることがあり、医療従事者や患者はその名前に踊らされてしまうことがあります。

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