五十肩は肩関節周囲炎や癒着性関節包炎ではなく拘縮肩と呼ぼう!

本邦では五十肩(50-year old shoulder)として広く知られている疾患は日本語でも英語でも表記揺れがあります。
五十肩は医学用語ではなく、医学用語の同義語または類義語としては凍結肩・拘縮肩・肩関節周囲炎・癒着性肩関節包炎がよく用いられています。

英語ではAdhesive capsulitisとFrozen shoulder、Stiff shoulderがよく用いられています。
本邦においては肩こりなどの肩は領域的に英語におけるNeckであるため、Stiff shoulderを肩こりを表す時に用いるStiff neckと勘違いする人もいるかも知れません。Google翻訳でStiff shoulderを翻訳すると肩こりと訳されるのも誤解を生む原因になると思われます。

これらを使い分けている人も見かけることはありますが、医療全体的に混同して用いられていることに違いありません。

ISAKOSはいわゆる五十肩の定義を以下のように発表しました[1][4]。

・Stiff shoulder:一次的、二次的な原因に関わらず、可動域の制限を呈する患者を指す
・Frozen shoulder:原因不明な拘縮肩にのみ使用する
・Secondary stiff shoulder:原因が明らかな拘縮肩に使用する
・Adhesive capsulitis:癒着がないため、使用しない

これらに続き本邦の報告「拘縮肩と凍結肩の定義と適正な学術用語」では、
・Stiff shoulderと拘縮肩:一次的、二次的な原因に関わらず、可動域の制限を呈する患者を指す
・Frozen shoulder(Primary stiff shoulder)と凍結肩(一次性拘縮肩):原因不明な拘縮肩のみ
・Secondary stiff shoulderと二次性拘縮肩:原因が明らかな(糖尿病を除く)拘縮肩
を対応させており、五十肩と肩関節周囲炎、癒着性関節包炎は使用していません[2][3]。
具体的には、拘縮があれば拘縮肩とよび、原因不明な拘縮肩のみを凍結肩(一次性拘縮肩)、原因が明らかな(糖尿病を除く)拘縮肩を二次性拘縮肩としました。特発性拘縮肩は用いられませんでした。

医学用語ではよくあることですが、昔仮説に基づいて用いられていた用語が後の研究で誤りであると分かっても用語が定着しすぎたがために中々変更しにくいことがあります。
拘縮肩の類義語はまさにその代表例で、凍結肩(Frozen shoulder)は有名(コッドマン体操でよく知られる)なCodmanが1934年に名付け、癒着性関節包炎(Adhesive capsulitis)は1945年にNeviaserが名付けました。
用語の変化や定義の変化、名前の統一は医学用語において珍しくないため、変更のコンセンサスが得られた場合には特に周囲に広めることで用語の変化が起きやすく混乱が生じにくくなります。
変更のコンセンサスが得られた場合、その用語に関連するより新しい文献のイントロダクションなどにその旨が記載されていることがあるため、気づくことができます。

2021年に発行された日本運動器理学療法学会の肩関節機能障害理学療法ガイドラインでは「肩関節周囲炎は肩関節の痛みと可動域制限を主症状とし , 長期間かけて3つの病期を経て寛解に至る疾患である」とあるように、肩関節周囲炎を用いており、疾患・病態の項目内に「癒着性関節包炎 , 凍結肩」と記載されています。
拘縮肩という表記は見当たらず、病期の炎症期・拘縮期・寛解期に拘縮の文字が含まれているだけでした。

そのため本邦においてもまだ用語の使い分けにはばらつきが続きそうです。

 

参考文献
[1]Itoi, E. (2015). Shoulder stiffness: Current concepts and concerns. International Society of Arthroscopy, Knee Surgery and Orthopaedic Sports Medicine.
[2]https://www.jstage.jst.go.jp/article/katakansetsu/45/1/45_122/_article/-char/ja/
[3]Kobayashi, T., Karasuno, H., Sano, H., Hamada, J., Takase, K., Tamai, K., Kashiwagi, K., Hayashida, K., Gotoh, M., Yamamoto, N., Morihara, T., Hata, Y., & Morisawa, Y. (2019). Representative survey of frozen shoulder questionnaire responses from the Japan Shoulder Society: What are the appropriate diagnostic terms for primary idiopathic frozen shoulder, stiff shoulder or frozen shoulder?. Journal of orthopaedic science : official journal of the Japanese Orthopaedic Association, 24(4), 631–635. https://doi.org/10.1016/j.jos.2018.12.012
[4]Itoi, E., Arce, G., Bain, G. I., Diercks, R. L., Guttmann, D., Imhoff, A. B., Mazzocca, A. D., Sugaya, H., & Yoo, Y. S. (2016). Shoulder Stiffness: Current Concepts and Concerns. Arthroscopy : the journal of arthroscopic & related surgery : official publication of the Arthroscopy Association of North America and the International Arthroscopy Association, 32(7), 1402–1414. https://doi.org/10.1016/j.arthro.2016.03.024

 

 

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