腰方形筋の側屈作用は予想以上に小さい!?

腰方形筋の基礎解剖

腰方形筋の基本的な解剖学(起始・停止・支配神経・作用)は以下のとおりです。

一般的に腰方形筋は腰部の側屈筋として考えられており、伸展作用があると考える人もいます。
腰方形筋が腰痛に寄与するメカニズムを考える時に、腰方形筋の作用や構造を参照することがあると思いますが、しかし論理的な思考、例えばA=BかつB=CならA=CはA=Bが真実でなければ成立しないように、このような基本的な筋の作用も真実でなければそこから展開した論理はすべて破綻します。

今回は腰方形筋がこれまで考えられてきたほどの作用を持っていない可能性について書いていきます。

腰方形筋の3層構造

Phillipsらは検体から解剖学的・生体力学的な特徴を調査しました[2]。
腰方形筋は3層構造(Anterior layer・Middle layer・Posterior layer)を成していました。
Anterior layer(直訳で前層)は筋の前面を形成し四角形です。
Middle layer(直訳で中層)は、放射状に配列されています。
Posterior layer(直訳で後層)は繊維が外側に向いています。

腰方形筋の側屈作用はどの程度か?

腰方形筋が発揮する力の推定には、形態から力を推定する方法としてPCSAに46N/cm^2を掛けるという単純な方法が用いられました。

意外なことに腰方形筋は腰部外側にある筋であるにもかかわらず側屈の強さに寄与するのは、せいぜい10%未満であると推定されました。それだけでなく、伸展に関しても脊柱起立筋と多裂筋が発生するモーメントの10%未満、圧縮力(約200N)も脊柱起立筋と多裂筋(1800N~2800N)に比べて矮小でスタビライザーとして重要な役割を果たしているようには見えませんでした。腰方形筋は第12肋骨を支え横隔膜の安定した基盤を提供する呼吸筋として設計されているようです。

臨床上の懸念

腰方形筋は腰痛の因子となり得る筋で、しばしば医療者の治療対象になります[3]。
しかし腰痛にどの程度腰方形筋が関与しているかは分かっていません。
「腰方形筋は、腰痛の原因としてよく知られています[4]」と文献中に書かれていてもその根拠は書かれていなかったりもします。また腰痛を有する人とそうでない人の間で腰方形筋の大きさもほとんど変わらないようです[5][6]。

腰方形筋を腰痛の原因と考えるのは主に筋筋膜性腰痛(あるいはトリガーポイント)の文脈です。
そのため腰方形筋が腰痛の原因というのは経験論によるものかもしれません。

ここで生じる懸念は今まで医療者はどのように腰方形筋を腰痛の原因として解釈してきたかということです。
よく説明に上がるのは腰方形筋が姿勢筋として作用し、腰痛の原因となるというものです。
しかし上記の報告を見る限り、腰方形筋が姿勢を大きく変化させられるのか疑問が生まれます。例えば右腰方形筋が過緊張/短縮して腰椎は右側屈するのか、右腰方形筋が弱くて腰椎は左側屈するのか怪しいです。そしてその側屈が腰痛に寄与するほどのものなのかも疑問として残ります。

また腰方形筋は両側の収縮で伸筋作用があるという説もあり、過剰な前弯から腰痛を引き起こすと考える人もいます。しかし今回の結果から過剰な前弯を引き起こせるほど大きな要素ではない可能性が浮上します。

単に強い負荷や長期の負荷によって腰方形筋部に痛みが生じることはあるかもしれませんが、腰方形筋が生体力学的な観点から腰部の他の構造に影響し、負荷を増大させ腰痛を引き起こすという考え方は見直すべきなのかもしれません。

腰方形筋の研究は他の腰部筋に比べて多くないようです。これからの研究に期待です。

参考文献

[1]https://www.kenhub.com/en/library/anatomy/quadratus-lumborum-muscle
[2]Phillips, S., Mercer, S., & Bogduk, N. (2008). Anatomy and biomechanics of quadratus lumborum. Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers. Part H, Journal of engineering in medicine, 222(2), 151–159. https://doi.org/10.1243/09544119JEIM266
[3]Hong, J. O., Park, J. S., Jeon, D. G., Yoon, W. H., & Park, J. H. (2017). Extracorporeal Shock Wave Therapy Versus Trigger Point Injection in the Treatment of Myofascial Pain Syndrome in the Quadratus Lumborum. Annals of rehabilitation medicine, 41(4), 582–588. https://doi.org/10.5535/arm.2017.41.4.582
[4]Pandey, Ekta & Kumar, Dr & Das, Shatrudhan. (2018). Effect of Stretching on Shortened Quadratus Lumborum Muscle in Non Specific Low Back Pain. 11. 80-86. 10.21088/potj.0974.5777.11218.5.
[6]Aboufazeli, M., Akbari, M., Jamshidi, A. A., & Jafarpisheh, M. S. (2018). Comparison of Selective Local and Global Muscle Thicknesses in Females with and without Chronic Low Back Pain. Ortopedia, traumatologia, rehabilitacja, 20(3), 197–204. https://doi.org/10.5604/01.3001.0012.1473
[7]Ranger, T. A., Cicuttini, F. M., Jensen, T. S., Peiris, W. L., Hussain, S. M., Fairley, J., & Urquhart, D. M. (2017). Are the size and composition of the paraspinal muscles associated with low back pain? A systematic review. The spine journal : official journal of the North American Spine Society, 17(11), 1729–1748. https://doi.org/10.1016/j.spinee.2017.07.002

 

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