【患者教育】最も疎かにされる痛みへの介入【チェックシート付き】

痛み治療において多くの医療従事者の介入に関する興味の関心は徒手療法や運動療法、治療理論にあります。
実際にほとんどの介入に関する会社の研修や実技セミナーは治療理論やそれを用いた徒手療法や運動療法で構成されることが多いです。

これは治療理論・徒手療法・運動療法が直接的に治療効果や患者の予後に影響すると直感的に認識しているからかも知れません。
しかし、治療理論・徒手療法・運動療法は治療介入の中の一部でしかないことを認識しなければなりません。

これを理解するためにダイエットを思い浮かべてみます。
ダイエットには様々な理論とそれに則ったアプローチがあります。ダイエットを始める人はこんなことに興味が出てきます。
「ダイエットAとダイエットBどちらが効果があるのだろう?」
これは治療で言えば治療法Aと治療法Bどちらが効果があるか、マッサージと筋トレどちらが効果的かとかそういう疑問に似ています。
治療効果に関する研究も治療法Aと治療法B(時にプラセボ)を比較することによって、効果の比較をします。

このような知識は現在の環境の中で、最も効果的な手段を選び、効果のない治療を選択しない上で必要なものです。

しかし、ダイエットAとダイエットBどちらにも多かれ少なかれ効果があることを前提にすると、ダイエットにおいて「ダイエットAとダイエットBどちらが効果があるか」よりも大事なことがあります。
実際にダイエットの運動では「筋トレ」を主体にする人と「ランニング」を主体にする人がいます。これをダイエットA(筋トレ)とダイエットB(ランニング)とします。
ダイエットAをするか、ダイエットBをするか悩み調べてどちらの方が効果的なダイエットか確固たる証拠が見つかったとします。
そしてダイエットを実践していきます。

しかしダイエットは続きませんでした。
結果としてダイエットは失敗しました。

この例を痛み治療に当てはめてみます。
昨今の痛み治療はBPS modelと呼ばれる治療思想が主流になりつつあり、人を機械や構造体としてみなすよりも、人全体を見るようなアプローチが注目を集めています。

言い換えてみるとこんな例がわかりやすいかと思います。
従来の痛み治療の考え方は
「車のことを知らない整備士に車を預けたいか?」と比喩できるような、車の構造や動作、機能などの知識が重視され、つまり「人の構造(解剖学・生体力学・病理学)のことを知らない医療者に体を預けたいか?」という観点から医療者としての学習の義務は解剖学・生体力学・病理学、そしてそれを修正するような治療に意識が向いていたようにみえます。
一方でBPS modelは「車のことを知らない整備士に車を預けたいか?」と比喩では表せず、車のような機械を直すといった発想と類似した機械的・構造的な治療の考えが中心ではなくなっているため、車の比喩を使うことはできません。

用語解説:生物心理社会モデル/ BPS model(BioPsychoSocial model)
明確な定義はないが「生物学的、心理学的、社会的プロセスが、身体の健康と疾患に統合的かつ相互的に関与しているというもの」を意味する臨床家が日常的に患者と接する際の指針となる完全な概念的枠組みのこと。
BPS modelでは非人間的なケアではなく、人間的な側面が包括的な治療のために重視される。
BPS modelに対して従来のケアを生物医学モデル(BM:Biomedical model)と呼ぶ。

もし車と整備士の関係のように考えれば、異常な構造や機能を発見し、それを直すか交換することができれば、車は日常の使用に必要なだけの状態に戻るでしょう。
人でも異常な構造や機能を発見し、それを直すか外科的に交換すれば症状はなくなるでしょうか?
残念ながら多くの証拠や経験則はそれでも症状が残存することを示しています。

となれば人を車の例で比喩することは適切ではなくなります。

人を機械的にみることでうまくいかない理由はいくつか考えられますが、臨床で見られる典型的な理由をダイエットの例から挙げると、「継続しない」ことが挙げられます。
車の修理であれば、車が修理を嫌がることもなければ、継続をめんどうに感じることもありませんし、車が整備士に嫌悪感を抱くこともありません。しかし人であればこの全てが起こり得ます。ダイエットの例がまさにこれで、効果的なダイエット、「ダイエットAをするか?ダイエットBをするか?」の答えを持ち合わせていたところで継続しなければ、それ以前に開始できなければ効果が高いか低いかというのは関係ありません。
そのため、最低限の効果があることを前提にすればどちらが効果的なダイエットかというのは継続可能か、実行可能かどうかよりも優先順位は下がります。
同様に最低限の効果があることを前提にすれば治療の効果を少しでも高めるために徒手療法のスキルを高めるとか、より高い効果が期待できる運動療法理論を取り入れ患者さんに用いるというのは継続可能かどうかよりも優先順位は下がります。

この話は「継続可能か否か」に限ったものではありません。
車の整備と人の治療では構造という点では似てるところもあるかもしれませんが、人の治療にはどうしたって認知や感情、想像、社会というものが構造と同程度かあるいはそれ以上に関与してきます。

そのため介入には構造や機能以上に考慮し介入しなければならない要素が出てきます。
そして人を車のように扱うということは介入に関しても不十分なものになってしまいます。

しかし、最初に書いたように痛み治療において多くの医療従事者の介入に関する興味の対象は徒手療法や運動療法、治療理論にあり、これらの治療を実行する、継続するための勉強はおろそかにされがちです。

ということでここでは、治療の理論や種類ではなく、治療を受けてもらうために、遵守してもらうために必要な知識を紹介します。

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