可動域検査では「Active Range of motion(AROM)」「Passive Range of motion(PROM)」と大きく分類して臨床思考に用いられることがあります。
理論
条件②:座位で肩関節を多動的に屈曲する
結果①:自動運動でのみ可動域制限がみられた
▶︎考察:静的な可動域制限因子は存在しない、動的な因子により制限される
結果②:自動運動でも他動運動でも可動域制限が見られた
▶︎考察:静的な可動域制限因子が存在する
この考え方はFFD(Finger floor distance:いわゆる立位体前屈)がハムの伸張性(Extensibility)を検査するものではないという考察に関連しています。
PassiveSLRは基本的には股関節の可動域の検査をしています。
注意点①
FFDの例が分かりやすいですが、PassiveとAcitiveを分ける時に検査肢位を大きく変える場合は、検査肢位が可動域変化に影響している可能性が十分あります[Sabari JS et al.,1998]。
このような肢位の違い自体を考察に加えられることもあります。例えば立位での動作と仰臥位での動作は重力のかかる方向が異なります。仰臥位でできる動作が立位になるとできなくなる場合重力下にいる場合のみ上手く働いていない要素があるといったものです。
そのためPasiiveとActiveは関与する変数を減らすという意味で同一肢位が適切です。
さきほどFFDとPassiveSLRを比較しましたが、より類似性(similarity)を持たせるなら座位での体幹前屈で比較した方が良いかも知れません。
注意点②
この理論は疼痛治療やトレーニングで使われることが多いと思われますが、Joint by joint同様に臨床的に関与するようなあらゆる変数を楽観的に排除したものなので、この理論を信用して臨床応用するのはリスクを伴います。
考えられるリスクとしては、「生物医学モデルのレッテル貼りによる不要な介入の増加と不適切な信念の植え付け」「Over testingによるコストの増加」が典型的かと思われます。
注意点③
この理論は痛みの原因についてのヒントを与えるものではありません。
本質的にこの理論は可動域制限の原因に、「信用できる訳ではない洞察を与えてくれる」という点で臨床的にヒントを与えてくれますが、それが痛みの原因と考えるのはさらなる楽観的な変数の排除となります。
先ほどの例を用いると、腰痛がある患者に対し、FFD→PassiveROM検査を行い、股関節に静的な屈曲制限因子があると推測したとします。生物医学モデルである運動病理学モデル[Cholewicki J et al.,2019]に基づくのであれば、この屈曲制限は腰椎の過剰屈曲という代償動作を引き起こし、腰痛を発症させるという考察を生みそうではありますが、これはそれ以外の因子を全て考察から外しているため、楽観的すぎます。
参考文献
- Afonso, José & Ramirez-Campillo, Rodrigo & Moscão, João & Rocha, Tiago & Zacca, Rodrigo & Martins, Alexandre & Milheiro, André & Ferreira, João & Sarmento, Hugo & Clemente, Filipe. (2021). Strength training is as effective as stretching for improving range of motion: A systematic review and meta-analysis.. 10.31222/osf.io/2tdfm.
- Sabari JS, Maltzev I, Lubarsky D, Liszkay E, Homel P. Goniometric assessment of shoulder range of motion: comparison of testing in supine and sitting positions. Arch Phys Med Rehabil. 1998 Jun;79(6):647-51. doi: 10.1016/s0003-9993(98)90038-7. PMID: 9630143.