モンスターペイシェント?
Twitterで「モンスターペイシェント」という言葉が少し話題になっていました。この語は理不尽なクレームや要望をしてくる患者に使われます。
臨床では「推奨した運動をしてもらえないのに治らないと文句を言う」「マッサージだけを受けにきていて治療は受けてくれない」患者に対してそう感じてしまうことは仕方のないことかもしれません。
リラクゼーションマッサージ(※)は短期的な痛みの緩和やリラクゼーション効果があり、臨床で求められることも多くあります。
※本来マッサージはあん摩マッサージ指圧師の仕事領域であるためここではリラクゼーションマッサージと表現します。
医療者にとってはより効果が期待できる治療法を試してもらいたいという気持ちや、リラクゼーション屋と医療系国家資格の仕事をある程度区別したい気持ちなどによりフラストレーションがたまることがあります。
慢性腰痛を例にすると、多くの徒手療法は治療の選択肢として使えますが、現状利用できる証拠は効果が短く、効果が小さいことを示唆しているため、勧めたい治療を選んでもらえない上でそれを受け続けて「治らないと言われてもなあ」、という気持ちもあるかもしれません。
ここで医療者を「それでも患者を説得してより良い治療を受けてもらうのも医療者の技術」と一蹴するのは簡単かもしれませんが、現実問題これは医療におけるかなり解決が困難な課題でしょう。
これまで長年腰痛治療には鎮痛薬や湿布、徒手療法が頻繁に用いられてきており、もはや文化的に腰痛といえば徒手療法という考えを持ち合わせている人は珍しくありません。毎朝整形外科や接骨院の前にオープン前からリラクゼーションマッサージを求めて(法的にはグレーだが)並んでいる患者の列を見るとどれだけ浸透しきっているかが分かります。無理にその考えを変えようとするのはむしろ抵抗を生むことになります。それに現代でも腰痛ガイドラインに反して、「徒手療法しか勧めない」「徒手療法で治ると断言する」ところも無数に存在し、患者から見れば「あそこでは〇〇(徒手療法)で治してくれると言ってくれるのに、ここでは〇〇(徒手療法)では治らないと言われる」と矛盾した意見を聞くことになり、これは患者にとってもフラストレーションになります。
患者のフラストレーション「不名誉な烙印」
少し以前の記事(現在移行中)から患者の抱えるフラストレーションについて説明します。
医療者は患者に不名誉な烙印を押すことがあります。
慢性疼痛は「捉えどころのない欺瞞的な現象」と表現されます[4]。欺瞞は「あざむく」「騙す」と言った意味を持っていますが、慢性疼痛における欺瞞さとは「痛みは目に見えないこと」「重症度が何の前触れもなく容易に変化すること」を指します。
慢性疼痛は臨床においてほとんど視覚的に表現することができません。
例えば画像検査(レントゲン・MRI・エコーなど)は慢性疼痛の原因を教えてくれることはあまりありません[2]。従来の慢性腰痛の検査で頻繁に用いられていた姿勢や可動域は慢性疼痛のリスクファクターとして挙げられていません[3]。
患者は理解できる慢性疼痛の原因を知るために視覚的な情報を頼ることは難しいです。
そして慢性疼痛は捻挫や擦り傷、肉離れ、打撲などの明らかな侵害受容性疼痛とは異なり、症状が何の前触れもなく容易に変化します。これまで医療者は慢性腰痛が悪化すれば患部に再度負荷がかかったなど解剖学や生体力学の視点から考える傾向がありましたが、症状の変化はそれだけでは説明できません。安静にしていて次の日腰痛が悪化したり、患部に負荷がかかっていると言われていても、より負荷をかける(運動)ことで痛みが緩和したりします。
明らかな侵害受容性疼痛とは異なり、このように痛みの場所や痛みの強さが容易に変わることは、患者にとって理解し難い現象です。
それゆえ、「捉えどころのない欺瞞的な現象」と表現されます。
患者からしてみれば慢性疼痛それ自体が理解不能なフラストレーションの原因となりうる要素を持ち合わせています。
その上で患者はこの欺瞞的な現象を医療者に説明するとこう見られる場合があります[5]。
・「慢性腰痛持ちの患者は非常に自己中心的」
・「注意を引くために『私は苦しんでいる』と 不平を言う傾向がある」
・「彼らは病気になりたがっている」
そして「モンスターペイシェント」
なぜなら医療者から見れば患者の症状は客観的な画像検査や徒手検査などから説明できないからです。説明できないことは何かが間違っている、患者は注意を引くために痛みを過剰に表現していないか?とまさに「欺瞞」と解釈してしまうことがあります。これは医療者が生物医学的な解釈に依存してしまうっていることに起因します。
どこで見たかは忘れましたが、社会的に不名誉な烙印は「痛みより痛い」というのは言い得て妙です。
このような慢性疼痛における医療者と患者は対立しやすい要素を持ち合わせています。
「推奨した運動をしてもらえないのに治らないと文句を言う」「マッサージだけを受けにきていて治療は受けてくれない」
と思ってしまう患者には医療者にとってそう見えるように行動する理由があるのかもしれません。
例えば患者は何か過去の経験から「マッサージ」以外を信用せず、他の治療をシャットアウトするようになってしまったということもあるでしょう。
医療者はこのように「マッサージを受けにきたんです」と来た患者に思うように治療を勧められない時の対処法を学ことが大切になってきます。
今回はリラクゼーションマッサージを求め、推奨したい治療を受けてもらえない時にできる医療面接の方法を紹介します。