1日1時間の運動で腰痛は予防できる?

運動量の問題

多くの運動器疾患では治療の過程で運動指導をします。
その目的は機能の向上、スポーツへの早期復帰、再発予防、新たな怪我の予防、痛みの軽減、生活の質の向上、リラクゼーションなど多様です。

痛み治療の文脈では、痛みの軽減や痛みの予防のために使われるケースが多く、臨床家は頻繁に運動療法を使用します。この時疑問として上がるのは、どの程度の運動をすれば良いのか?です。
運動強度が低いと運動による鎮痛が起きないかも知れませんし、高すぎるとかえって痛めてしまうリスクもあります。もちろん疾患やその人の状況に応じてどれだけの運動が最適かは変わりますが、どれだけの運動量が最適かはあまり分かってないのも現状です。

そのため臨床で見られる指導された運動量は同じような条件の患者であってもかなりのばらつきがあります。
ある人は「〇〇を10回やってください」といい、ある人は「〇〇を30分やってください」と言います。

また運動は負荷が低ければ時間を伸ばせば良いと、負荷と時間が相補的に働くものでもありません[Ref]。強度が高いことでのみ作用することもあります。

我々は最適な運動量を見つけるために情報を集める必要があります。

あらゆる部位において有益な運動量

先ほども言いましたが、疾患によって最適な運動量は異なると予想されるため疾患ごとに調査されるのが最適ですが、全体的にはどうなのかも簡単なアドバイス(=大体これくらい行っているのが良い)として利用できるため有益です。

Rhimらはさまざまな解剖学的位置における総活動量と痛みの関連をオンラインのアンケートで調査(n=13,741)しました[1]。

WHOのガイドライン(週150-300分)することは、骨格筋痛との関連が弱く胸椎のみ疼痛がある確率が低く足/足指では高い確率を示しました。
ダブルコンプライアンス(週300-450分)では、6ヶ所(肘・前腕・手首・手・指・腹部)で疼痛がある確率が低くなりました。
週300-600分の運動は上肢、頸部、胸椎、腰椎の痛みを持つ確率の低下と関連していました。逆に週に450分以上の運動は下肢の痛みを持つ確率が上昇しました。

現実的に可能か?

これらの活動量は直感的にかなり多く見え、ほとんどの人にとって敷居が高く見えます。
具体的に1日どれだけ運動しなければならないか考えてみましょう。

週に150分は約1日21分です。これは実行可能な人は多いです。心拍数または呼吸を増加させるものは中等度の活動と定義されているためこれに準拠するためには簡単なジョギングで達成できます。
通勤を車から電車に変えその移動を軽いジョギングにすれば1日21分は往復で達成できます。
このように日常的に行なっていることを活発な身体活動に変えることができない場合でも、平日の活動量を減らし休日の活動量を上げることができます。例えば5日間は帰ってから15分間程度ジョギングすると合計75分で残り2日の休日で75分活動することで達成できます。

週に300分(約1日43分)を超えると、条件によって達成可能性が大きく変わってきます。通勤を車から電車に変えその移動を軽いジョギングにするという手段を取れる場合、片道10分とすると1日20分、平日5日で100分になり、休日2日に必要な活動量は200分になります。片道20分とすると1日30分、平日5日で200分になり、休日2日に必要な活動量は100分になります。このような手段が取れない場合、5日間は帰ってから15分間程度ジョギングすると合計75分で残り2日の休日で225分活動することで達成できます。これは敷居が高く何かスポーツなどに参加している人でないと達成するのが難しくなります。週に450分は約1日64分、週に600分は約1日86分必要でありさらに困難です。

例えば有訴者の多い腰痛や頚部痛の低さと関連していたのは週に450分の運動です。仮にこの運動量で腰痛を予防できると仮定しても「1日1時間運動してください」は達成が困難です。
活動が体に与える影響は活動の種類によって異なるため[2][3]、活動をサブグループ化すればさらに短い活動時間で痛みを有している確率の低さと関連する可能性があります。

この研究は活動量があらゆる部位の痛みと関連していることを示しています。注意点としてこれは因果関係ではないため活動量を上記した量まで増やせば痛みが減ると言えるものでありません。例えば痛みが少ない人ほど運動に参加する可能性があり、そのため活動量が多い人の痛みが少なかったことも考えられます

参考文献

[1]Rhim, H. C., Tenforde, A., Mohr, L., Hollander, K., Vogt, L., Groneberg, D. A., & Wilke, J. (2022). Association between physical activity and musculoskeletal pain: an analysis of international data from the ASAP survey. BMJ open, 12(9), e059525. https://doi.org/10.1136/bmjopen-2021-059525
[2]Holtermann, A., Hansen, J. V., Burr, H., Søgaard, K., & Sjøgaard, G. (2012). The health paradox of occupational and leisure-time physical activity. British journal of sports medicine, 46(4), 291–295. https://doi.org/10.1136/bjsm.2010.079582
[3]Holtermann, A., Krause, N., van der Beek, A. J., & Straker, L. (2018). The physical activity paradox: six reasons why occupational physical activity (OPA) does not confer the cardiovascular health benefits that leisure time physical activity does. British journal of sports medicine, 52(3), 149–150. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097965

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