デスクワーカーの腰痛に最適な運動療法

ここで紹介する腰痛のエクササイズはほとんど推奨しているのを見たことがない種類のエクササイズでありながら、臨床的に使いやすく、私自身デスクワーク中の腰痛に悩んでいる患者さんにはほとんどのケースで推奨しているものになります。

はじめに

腰痛に対する運動は腰痛の臨床ガイドラインでも第一選択肢として推奨されているスタンダードな介入です[5][12]。患者が有意義な疼痛緩和を達成するための最も効果的な介入は運動であり、徒手療法とは異なり介入が終了した後にも持続的な利益があることが見出されています[7]。

すべての慢性腰痛患者に最適な単一の運動プログラムはなく[10]、他の運動に比べ効果的な種類の運動は見つかっていないため、どのような運動を用いるかは通常患者の好み、信念や医療従事者の医学的判断と両者の合意で決められます。

このようなガイドラインの推奨を実行しようとする際に、考慮しなければならないのは「目の前の患者に対してどの運動を選択するか」です。

EBM(Evidence-based medicine)では「最高の研究証拠」「患者の価値観と好み」「臨床の専門知識」を鑑みて判断することが推奨されています[6]。また腰痛ガイドラインによっては特に「患者の好み」を優先することが推奨されていることもあります[8]。
しかしほとんどの患者は運動の種類についてあまり知識を有していないため、利用可能な運動の選択肢については医療者がアドバイスすることができます。医療者が患者に推奨できる運動の選択肢は医療者の知識によって限られています。

運動療法をほとんど学んだことがない医療者は選択肢をほとんど有しておらず、なんとなく聞いたことのあるような運動(腰のストレッチや体幹トレーニング)を推奨するかもしれません。
とある運動理論(腰痛に対して他の理論に比べ有効な運動療法の理論は見つかっていない)を学んだ医療者はその理論に偏って選択肢を挙げ、他の理論に基づいた運動の提案は制限されるかもしれません。
このように選択肢を挙げた場合、偶然「患者の好み」と偶然一致することはあるかもしれませんが、しかしこれらが「患者の好み」に反するケースで医療者は「患者の好み」に合致する運動を推奨できなくなります。

例えばこんなケースが考えられます。
とある医療者は体幹トレーニングに傾倒していました。体幹トレーニングは腰痛に対して他の運動と同じくらい効果的な治療法です[9]。体幹トレーニングを臨床で用いるとこれまでより臨床成績が上がる実感がありました。
体幹トレーニングの比較的初心者向けあるいは軽度なメニュー(プランクなど)はシンプルで理解しやすく動作も簡単で少しの空間があれば簡単に行えるため運動の中ではやりやすい部類に入ります。
しかし患者は体幹トレーニングを好みませんでした。

その理由は以下の通りです。
「患者が特に困っているのは職場での仕事中の腰痛でした。家で体幹トレーニングを行うことはできますが、患者が求めているのは腰が痛い時に楽になる手段でした。体幹トレーニングは床に臥位になれるだけのスペースが必要です。デスクワーカーであるため、仕事中に体幹トレーニングを行うことは憚られました。」

このケースでの「患者の好み」は「座って仕事中にもできるエクササイズ」です。
医療者は体幹トレーニングに傾倒してこれまで勧めてきたためこの「患者の好み」を満たすような選択肢を持っていませんでした。

ここで重要なことはどのような運動を推奨するかは効果性や医療者の経験だけで決めるものではないということです。

仮に運動Aと運動Bを比較して運動Aの方が効果があるとわかったとしても、運動Aが日常的に行うことが難しいものであれば、実行可能性が低く、効果の低い運動Bの方が運動に順守してもらいやすいケースも考えられます。例えば水中での運動は水中の環境が容易しやすい人でなければ適用できません。例えばジムでデッドリフトをしてもらうにはジム慣れしていない人にとっては高い敷居があります。
より身近な環境でできる運動であっても、フロントプランクのような体幹トレーニングやストレッチやピラティスは動作が十分できるだけの床が必要であり、職業関連腰痛のように職場で運動してもらいたいケースでは適用が難しいこともあります。

医療者は患者の文脈に合わせて、様々な選択肢を提示できるのが理想的です。
今回はこのような患者に提供できるおそらく「デスクワーカーが最も簡単にできる腰痛エクササイズ」を紹介します。

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