椎間板・仙腸関節・椎間関節性腰痛の検査の価値

腰痛の分類と診断ラベル

これまで腰痛を含む痛みの分類法はいくつも提唱されてきました。
大まかに見れば解剖学的な分類、期間による分類、病因に基づく分類、体システムに基づく分類、重症度に基づく分類、機能に基づく分類、予後に基づく分類、メカニズムに基づく分類また包括的で多次元的な分類など様々です。
臨床家は何らかの方法で患者を分類しようとします。
臨床では分類して意味があるのは結果的に臨床成績が上がると予想される時です。
例えば急性腰痛と慢性腰痛ではケアの仕方が明らかに異なります。そのため期間による分類によって急性腰痛と慢性腰痛を分けることでケアを変えることができ、臨床成績が向上すると仮定されます。

他によく利用される分類は侵害受容の発生源となる解剖学的構造で分ける方法です。
その中でも特に、椎間板と椎間関節はほぼ確立されている構造的な侵害受容の発生源です。筋や靱帯も基本的には侵害受容の発生源と推定されていますが、病態の直接的な証拠としてはまだ強くない[2]ため筋筋膜性腰痛のような表現は少し制限があります。(また靱帯に由来すると考えられる痛みは近くの〇〇関節に含まれて診断名がつくことがあります)

臨床で椎間板性腰痛や椎間関節性腰痛、仙腸関節性腰痛といったラベルが用いられるのはそれによって臨床成績が上がると仮定される時です。例えばこれらのラベルによって治療方法を変え、治療方法を変えることで予後が変化するのならラベリングの価値はあります。
分ける必要がないと判断される際、具体的には非特異的治療で十分とされる場合には非特異的腰痛というラベルが使用されますが、非特異的腰痛の使用の是非については議論があります。このようなラベルを用いることで臨床成績が上がる証拠をまだ見つけれられていません(探せばあるかも知れません。もし読んだことがある方がいたら是非教えて下さい!)が、ここではこれらの診断ラベルに価値があると仮定します。
※ちなみにこういう分類するなど臨床家の中で当たり前になっていることは当たり前に行われていますが、証拠によって確立されていない以上時に疑うことも大切なことです。

椎間板性腰痛・椎間関節性腰痛・仙腸関節性腰痛

臨床では椎間板性腰痛・椎間関節性腰痛・仙腸関節性腰痛を検査によって特定しようとすることがあります。
厳密に表現するなら医師しか診断できないため、これらの診断ラベルをいくら疑っていても患者に伝えてはならず、臨床家の中で疑いを持っているまでに限られます。

これらのラベルが臨床成績を結果的に向上させると仮定するのなら、診断されていない患者であってもある程度疑いを持つ必要が出てきます。そして医師でない臨床家が疑いを持つために使える手段は医療面接と身体検査であるためこれらの手段がどれほど価値(妥当性・信頼性)があるか知っておくことは疑いの程度を判断するために必要です。

椎間板性腰痛・椎間関節性腰痛・仙腸関節性腰痛鑑別のために価値のある所見

2023年に椎間板性腰痛・椎間関節性腰痛・仙腸関節性腰痛に対する診断精度のシステマティックレビューが発表されました[1]。この中には画像検査のような我々医師ではない臨床家が使えない手段も含まれていましたが、ここでは特に我々に関連する検査法や所見だけをピックします。

椎間板性腰痛

椎間板性腰痛において特に重要だったのは、中央化現象(Centralisation phenomenon)です。

中央化現象は「脊椎から発生する遠位の四肢の痛みが、意図的な負荷のかけ方によって直ちに、あるいは最終的に消失する現象。このような負荷をかけると、末梢の痛みが減少し、その後消失し、近位方向に徐々に後退していくように見える。」と定義されます[3]。

以下の動画は中央化現象の一例です。この動画では伏臥位で伸展していますが、実際用いられる肢位や運動方向は様々です。

中央化現象の感度は41.2 (33.2–49.6) 、特異度は85.9 (75.6–93.0) 、陽性尤度比は3.06 (1.44–6.50) 、陰性尤度比は0.66 (0.52–0.84)でした。

仙腸関節性腰痛

正中線上の腰痛がない場合の感度は24.6% 、特異度は34.3% 、陽性尤度比は2.41、陰性尤度比は0.35でした。

仙腸関節性腰痛の疼痛誘発検査はいくつかありますが、どの検査も単独では有益な尤度比を提供しないことが示されました。3つ以上の仙腸関節疼痛誘発検査陽性は、感度は80.5% 、特異度は68.1% 、陽性尤度比は2.44、陰性尤度比は0.31でした。
以下の組み合わせを臨床で使用できます。
・Distraction test

・Compression test

・Thigh thrust test

・Gaenslen’s test

・Sacral thrust

椎間関節性腰痛

椎間関節性腰痛では画像検査(SPECT)による検査の有益性は示されましたが、身体検査に基づく検査指標は認められませんでした。

臨床では

身体検査と所見の中では、椎間板性疼痛の同定には中央化現象の陽性、仙腸関節性疼痛の同定には正中線の腰痛がないことと3つ以上の仙腸関節疼痛誘発検査陽性が唯一の情報源でした。
これらの検査と所見は臨床において患者が椎間板性疼痛・仙腸関節性疼痛を有している推定値を変化させられます。

ここでは紹介しませんでしたが、画像検査も含めると非特異的腰痛とするのではなく、病理解剖学的診断が可能である可能性を示唆しています。

参考文献

[1]Han, C. S., Hancock, M. J., Sharma, S., Sharma, S., Harris, I. A., Cohen, S. P., Magnussen, J., Maher, C. G., & Traeger, A. C. (2023). Low back pain of disc, sacroiliac joint, or facet joint origin: A diagnostic accuracy systematic review. EClinicalMedicine, 59, 101960. https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2023.101960
[2]Ballantyne, J. C., Fishman, S. M., & Rathmell, J. P. (2018). Bonica's management of pain. Lippincott Williams & Wilkins.
[3]Albert, H. B., Hauge, E., & Manniche, C. (2012). Centralization in patients with sciatica: are pain responses to repeated movement and positioning associated with outcome or types of disc lesions?. European spine journal : official publication of the European Spine Society, the European Spinal Deformity Society, and the European Section of the Cervical Spine Research Society, 21(4), 630–636. https://doi.org/10.1007/s00586-011-2018-9

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