なぜ腰痛治療効果を過大評価してしまうのか?

治療効果が患者や医療従事者によって実際の治療効果以上に過大評価されてしまうことは珍しくありません。その理由はいくつかのバイアス、論理的誤謬、プラセボによってある程度説明できます。過大評価はどの治療にも起こり得ることですが、ここでは腰痛特異的に、腰痛に限ってなぜ治療が過大評価されてしまうのかを説明します。

もし過大評価してしまう可能性とその理由を臨床で考慮せず、等閑にしてしまえばまるで自身の能力が高いような錯覚を受けるだけでなく、実効性のもたない治療でさえその効果性に疑念を抱かず、効果性の不明な治療に惑わされてしまうことになるでしょう。

腰痛の経過

【用語】
自然経過(natural history/natural course):治療なしで症状が改善する傾向
臨床経過(clinical course):治療した場合の経過

臨床家は自然経過を臨床家は間間忽せにしているように見えます。ここでは自然経過を知っておくべき理由を3つ挙げます。
・第一に、過剰に検査・治療を行うリスクが高まります。腰痛に対して過剰に画像検査を行なっていることはしばしば問題視されていますが、その中でも神経障害性疼痛に対する画像検査は多く、その原因として神経障害性疼の自然経過を知らないために医療従事者が神経障害性疼痛の予後が悪いと直感的に不安になってしまっているからと言われています。経過を知らなければどの程度検査や治療をして良いか指標を立てられず果たして過剰な医療行為に繋がることになります。
・第二に。患者の余計な不安を軽減させる役割があります。患者は自身の症状がどうなっていくのかわからずその答えを求めていることがあります。特に将来治らないと破局視(Catastrophizing)している患者に対して将来どうなっていくのか伝えることは安心感を与えます。
・第三に、治療効果を過大評価してしまう可能性が高まります。

腰痛は治療の種類に関係なく、最初の6~13週間で急激に疼痛強度が減少し、その後は変化が鈍化します(図1)[1][2]。患者は疼痛強度が高い時により来院する傾向があると仮定すると急激な変化のある最初の13週間は患者が特に来院する期間であり、自然経過による疼痛強度の低下と臨床経過上での疼痛強度の低下の区別がつきにくくなります。

これを踏まえて20日間の経過を想定してみます。1日目は疼痛強度が約5から始まり、20日目までどんどん下がっていくものを自然経過とします。一方で臨床経過の例として紫色のグラフを想定します(図2)。

多くの介入は短期的効果を持っているためどのような治療法でも大抵の場合は介入後に疼痛強度が一時的に低下します(介入1)。臨床において「症状が元に戻った」というのはよく聞く言葉ですが、元に戻るとは介入によって疼痛強度が5だったものが4に変化したとして、それがまた次来院した時に5に戻っていることを指すのでしょうか?患者の疼痛強度は自然経過によって下がっているため次来院した時の自然経過上の疼痛強度が4であるとすれば「元に戻った」とは疼痛強度が5ではなく、4の状態を指すと考えることができます。しかし自然経過を知らなければ介入した次の来院時に介入前と同等の疼痛強度を訴えなければ介入によって効果をもたらしそれが継続したと勘違いしてしまいます。

 

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