広背筋の起始停止から考える肩関節前方脱臼予防

広背筋(Latissimus Dorsi Muscle)は人体で最も大きな筋で,背部下部のほとんどを占め上腕まで伸びています.主に上肢に作用し,呼吸補助筋ともされています.しかし広背筋の作用に関する研究は少なく,基本的に付着部と走行から作用が予想されています.

広背筋の作用とその影響をより深く理解するためには広背筋の起始と停止,走行を把握する必要があります。

広背筋の基本的な解剖学

起始 T7-T12の棘突起, 腸骨稜後部3分の1, 第9-12肋骨, 肩甲骨下角
停止 結節間溝, 小結節稜
支配神経 胸背神経(C6-C8)
作用 上腕の内転, 内旋, 伸展, 呼吸補助,体幹への作用については議論がある
栄養血管 胸背動脈, 肋間動脈, 腰動脈

広背筋の起始

広背筋は肩甲骨から起始している場合とそうでない場合があります.
広背筋と肩甲骨の関係はType 1, Type 2a, Type 2bの3タイプに分類することができます.Type 1は肩甲骨下角から起始し(43%),Type 2は肩甲骨からの繊維が全くないか数本しかない状態(57%)を指します.Type 2はさらに滑液包と組織の連結からaとbに分けられます.

  • Type 1:広背筋のかなりの筋繊維が下角から生じる(43%)
  • Type 2:広背筋と下角の間に柔らかい繊維状のつながりがある(36%)
  • Type 3:滑液包があり、両者の間に連結組織はない(21%)

広背筋と肩甲骨の連結は上腕を外転・外旋する際に、この接続部によって腱と筋の自由な伸張が制限される可能性があります.

広背筋の停止

広背筋は結節間溝や小結節稜に付着していると表記されていることがあります.

Pouliartら(2005)は広背筋の腱は上腕骨の前方で小結節の外側縁に付着していると報告しました[1].腱の形状は翼状または四角形でした.広背筋腱は常に肩甲上腕関節関節包の上腕骨付着部の最下部を覆っています.関節包のV字型の付着部の底部は広背筋腱の近位縁の下2~12mmにまで降りています.

広背筋腱の近位縁と停止部に最も近い部分の軟骨縁との距離であるTCD(tendon-cartilage distance)は12.6~31.6mm(平均21.1mm)です.腱自体の停止部は幅41.4~62.8mm(平均50.4mm) ,腱の上縁は長さ50.4~98.4mm(平均66.6mm)です.

広背筋の起始停止のバリエーションが上腕骨頭に及ぼす影響

TCDと肩甲骨の付着の有無は上腕の外転・外旋時の広背筋の動態に影響を与えます.
広背筋のTCDが小さく,肩甲骨と広背筋の関係がType 1(広背筋のかなりの筋繊維が下角から生じる)の時,上腕を外転・外旋させると回転する上腕骨に巻きついて広背筋が緊張し、腱はより垂直な方向に移動し,筋腱は内側に保持されます.
このとき、広背筋腱のは上腕骨頭前内側のハンモックを形成します.

広背筋のTCDが小さくType 2(肩甲骨からの繊維が全くないか数本しかない)の場合,外転・外旋時に広背筋が内側に保持されず外側に移動します.
外旋90°,外転90°では肩甲下筋と広背筋が分かれ,上腕骨頭の前内側部分の高さで両筋の間に隙間が生じます.TCDが小さいと肩甲骨との筋接続がない場合でも,広背筋はハモック様の効果を発揮します.

TCDが大きく,Type 2(肩甲骨からの繊維が全くないか数本しかない)の場合,広背筋腱の内側縁と肩甲下筋の外側縁は内互いに乖離しています.

肩関節前方脱臼予防

このように広背筋の停止部と起始部の関係からTCDが小さい場合や肩甲骨から起始している場合は,上腕外転外旋位で上腕骨頭の前方移動を制動する可能性があります。そのため広背筋のトレーニングは一部の人にとって前方脱臼予防効果があると予想されます.

広背筋と大円筋・大胸筋の位置関係

広背筋の停止部は大円筋・大胸筋と密接に関連しています.

大円筋は肩甲骨背面の下外側から起始し小結節の頂上でより内側に停止しています.大円筋のTCDは31.3-45.0 mm(平均37.4 mm)で,広背筋腱の近位端間の距離は10.0-19.0 mm(平均16.2 mm)です.広背筋は肩甲骨から上腕骨の停止部まで走行する時,大円筋を包み込みます.
大胸筋腱の近位縁の停止は広背筋腱よりもわずかに遠位です.大胸筋腱は一般に広背筋の腱よりも細く,肩前方の解剖ではほとんどの場合,広背筋に完全に覆われて見えません.

参考文献

[1]Pouliart, N., & Gagey, O. (2005). Significance of the latissimus dorsi for shoulder instability. I. Variations in its anatomy around the humerus and scapula. Clinical anatomy (New York, N.Y.), 18(7), 493–499. https://doi.org/10.1002/ca.20185

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