【肩】フルカンテスト【やり方と陽性所見、エンプティカンテストとの違い】

フルカンテストとは

フルカンテスト(Full can test)はエンプティカンテスト(Empty can test)と共に肩関節の棘上筋病変(断裂など)に対する代表的な検査法の一つです。

腱板断裂は40歳以降に見られやすく、上腕外側(三角筋部)の痛みを生じさせます。夜間痛がみられることもあり、可動域検査ではactiveROMは低下
し、pROMは低下しないか痛みによって制限されます。感覚障害はなく、腱板筋の筋力低下と腱板の圧痛が所見としてみれます。

フルカンテストのやり方

①患者は肩甲平面上で90度まで挙上し拇指は天井を向くようにします(図1)

 

フルカンテスト

図1

②検者は手首に下向きの力を加え患者はそれに抵抗します(図2)。

フルカンテスト

図2

フルカンテストの陽性所見

①痛みが出るか②抵抗できなければ陽性となります。
①痛みを陽性所見とする場合は棘上筋腱部周囲の閾値の低下(棘上筋腱炎など)、②抵抗できないことを陽性所見とする場合は棘上筋腱断裂を示唆します。痛みに伴って抵抗できない場合は真に断裂による筋力低下が生じていない可能性があり注意が必要です。また棘上筋腱断裂であっても筋力低下が見られないことがあります。
所見が筋力低下のみである場合は、他の筋力低下を引き起こす可能性のあるC5神経根症、肩甲上神経障害、腕神経叢などの除外もする必要があります。
肩の外側に痛みを生じさせる疾患は肩峰下滑液包炎、腋窩神経障害、石灰沈着性腱炎、C5神経根症、拘縮肩、頸椎椎間関節症、筋筋膜性疼痛症候群などいくつもあります。

妥当性

痛みのみを陽性所見とした場合、棘上筋腱断裂に対する感度は0.66、特異度は0.64と報告されている[1]ため、陽性尤度比は1.83、陰性尤度比は0.53となります。
筋力低下を陽性所見とした場合は感度は0.77、特異度は0.74と報告されているため、陽性尤度比は2.96、陰性尤度比は0.31となります。
痛みと筋力低下あるいは痛みまたは筋力低下を陽性所見とした場合、感度は0.86、特異度は0.57と報告されているため、陽性尤度比は2.00、陰性尤度比は0.25となります。

エンプティカンテストとの違い

フルカンテストとエンプティカンテストは非常に類似した検査法です。
フルカンテストは拇指が天井を向いていて、エンプティカンテストは拇指が地面を向いています(上腕の最大内旋)。

缶(can)を持っているのを想像してみて、拇指が上を向いていると中身が入ったままなので満タン(full)、拇指を下に向けると中身がすべて零れるので空(empty)と捉えると覚えやすいですね!
フルカンテストの方がエンプティカンテストよりも棘下筋の活動を抑え、棘上筋の最大収縮に最適であるとする報告があります[2]。
これは解剖学の視点から見ても妥当で、棘上筋の停止部は従来の教科書に記載されていたよりも前方にあり(図3)、エンプティカンテストのように上肢を内旋すると挙上作用が下がり、後部回旋筋腱板(小円筋や棘下筋)の活動が増加するように見えます。
棘上筋の停止

図3

棘上筋の走行

図4

また大きな差はありませんがフルカンテストでは143例中、62例(真陽性と偽陽性どちらも含む)で痛みが生じ、エンプティカンテストでは71例に痛みが生じました[1]。
そのためフルカンテストよりもエンプティカンテストの方が痛みの誘発しやすいようです。フルカンテストとエンプティカンテストはあまり(真陽性+真陰性)/全体の数で表される正確度(accuracy)に違いが見られないため、正確度が同じであれば、痛みの少ないフルカンテストがより望ましいと言えます。

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参考文献
[1]Itoi, E., Kido, T., Sano, A., Urayama, M., & Sato, K. (1999). Which is more useful, the "full can test" or the "empty can test," in detecting the torn supraspinatus tendon?. The American journal of sports medicine, 27(1), 65–68. https://doi.org/10.1177/03635465990270011901[2]Kelly, B. T., Kadrmas, W. R., & Speer, K. P. (1996). The manual muscle examination for rotator cuff strength. An electromyographic investigation. The American journal of sports medicine, 24(5), 581–588. https://doi.org/10.1177/036354659602400504[3]Mochizuki, T., Sugaya, H., Uomizu, M., Maeda, K., Matsuki, K., Sekiya, I., Muneta, T., & Akita, K. (2008). Humeral insertion of the supraspinatus and infraspinatus. New anatomical findings regarding the footprint of the rotator cuff. The Journal of bone and joint surgery. American volume, 90(5), 962–969. https://doi.org/10.2106/JBJS.G.00427

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