鍼灸コミュニティ(案)

鍼治療は経験や故人、先人の知恵に基づいて行われるのが一般的です。
骨格筋痛に対する鍼治療の効果は"少なくとも現時点では"明確に実証されていないのは事実であり、これは鍼灸師にとっては心理的に許容が困難であることもあるかもしれませんが第三者から見た時には、鍼灸師がどう考えているか、事実がどうであるかは関係なく、効果不明のものです。

骨格筋痛治療の種々のガイドラインでは鍼治療の立ち位置は強く推奨されることはなく、推奨されないか使うことができると紹介される程度です。

解剖学の知識が必要なことうんぬん書く
有害事象を起こさなための解剖学的な

中府

教科書上の取穴部位

雲門(烏口突起内方)の1寸下

中府の関連構造

中府に関連する筋は大胸筋・三角筋・烏口腕筋・小胸筋です。
中府の取穴位置は概ね大胸筋と三角筋の筋間です。この筋間には橈側皮静脈が走行しています。
より深部では下方に小胸筋、外側に烏口腕筋があります。
小胸筋の内上方には外側胸筋神経が走行しています。
小胸筋前方には胸肩峰動脈の肩峰枝や三角筋枝が走行しています。
より深部では腋窩動脈、腋窩静脈、腕神経叢があります。

リスク管理した取穴部位・刺鍼角度・刺入深度

烏口突起頂点内側の1寸下で、三角筋と大胸筋間の5mm内方を取り、45~60度外方に向かって最大で1.5cmまで刺鍼する。

橈側皮静脈への刺鍼を避けるには筋間を避ける必要があります。
胸肩峰動脈や外側胸筋神経は中府の取穴から多少外れているため刺鍼のリスクは高くないと考えられます。

痩せている人では1.5cmまでが安全な刺入深度になります[ref]

中府の禁忌

内方に向かって刺鍼することで気胸のリスクが上がります。
また深部には腋窩動脈・腋窩静脈・腕神経叢、そしてその枝である外側胸筋神経があるため深く刺鍼することは禁忌とします。

梨状筋刺鍼

梨状筋(Piriformis m.)

梨状筋の解剖学

梨状筋の解剖学的変異も深臀部症候群の原因となる可能性があります。
TypeAは梨状筋の上腹部の腱が長く63.39%に見られます。
TypeBは下腹部の腱が長く35.71%に見られます。
TypeCは上腹と下腹で腱に移行する場所が同じパターンで0.9%に見られます。
梨状筋のほとんどが腱であるパターンも報告されています。ほとんどが腱の場合は梨状筋症候群を引き起こす原因にはならないと考えられています。

また
Type 1では梨状筋腱が丸みを帯びた腱を介して大腿骨大転子上縁内側に付着し全体の53.57%を占めます。
Type 2ではでは、梨状筋腱は上双子筋腱と結合し、その後内閉鎖筋腱と結合し29.46%を占めます。
Type 3では内閉鎖筋腱、中殿筋腱と結合し、13.39%を占めます。
Type 4では中殿筋腱と結合し3.57%を占めます[ref]。

梨状筋の起始停止

梨状筋は仙骨全面(第2~4仙椎の高さ)、仙結節靭帯、坐骨結節の上縁から起始し、大転子の上内側縁の内下部に停止します。

[梨状筋停止部を上から見た図]

停止部Footprintの中心部は大転子の前方端を0%、後方端を100%とした場合に49%の位置にあります[ref]。

[梨状筋停止部のFootprint]

そのため梨状筋を立体的に見た場合は内後方から外前方に走行していることになります。

[梨状筋を上から見た図]

梨状筋の触擦

PSISと尾骨先端までを繋いだ線からの垂線と大腿骨大転子の頂点を結んだライン上に梨状筋の下縁があります。

そのため梨状筋はこのライン上のすぐ上に触れられます。
実際には皮膚があるため多少の誤差が生まれます。

特にPSISの触擦精度はトレーニングによって精度が向上しますが[ref]あまり高いものではありません[ref]。
そのため(うまく触擦できていると思っていてもできていない可能性があり)多くの練習が必要です。

 

刺鍼方法

鍼の侵入深度

体表から梨状筋までの距離は平均約6cm(3~8.7cm)です。
臀部は脂肪が分厚いためBMIに応じて体表から梨状筋までの距離は変動します。
そのため切鍼事故を防ぐことを考慮すると基本的には7cm程度の鍼が必要となります。

※図をなおす

[梨状筋の深度]

臨床的には押し手により脂肪層や大殿筋を押しつぶすことで梨状筋までの距離を縮めることができます。
押し手の圧により厚みがどれだけ減少するかは不明です。
また置鍼をする場合は押し手により減少した厚みがもとに戻るためこの場合も6cm以上の鍼が必要となります。

梨状筋中央部の直径は平均1.7cmで、患者の19%は、梨状筋のサイズが3 mm以上の非対称性を持っています(ref)

想定される有害事象

梨状筋の周辺には多くの神経があり、大坐骨孔から骨盤外にでてくる神経は7つあります。

坐骨神経は最もメジャーです。しかしながら坐骨神経の走行にはA~Fまで様々なパターンがあります[ref]。

TypeAは梨状筋下を坐骨神経が走行します(83.1%)。
TypeBは総腓骨神経が梨状筋を貫通し、脛骨神経が梨状筋の下を通過します(13.7%)。
TypeCは総腓骨神経が梨状筋の上を走行し、脛骨神経が梨状筋の下を通過します(1.3%)。
TypeDは坐骨神経が梨状筋を貫通します(0.5%)。
TypeEは総腓骨神経が梨状筋の上を走行し、脛骨神経が梨状筋を貫通します(0.08%)。
TypeFは坐骨神経が梨状筋の上を走行します(0.08%)。

TypeB~TypeEは梨状筋に狙って刺鍼するときに鍼が当たるリスクが想定されます。

鍼が神経にあたったことで神経繊維がすぐに損傷するわけではありません。
梨状筋レベルでは坐骨神経の神経/非神経組織比は2/1です[ref]。
そのため特に非神経組織の多い坐骨神経表層に当たった程度では神経繊維の損傷はおこらないと思われますが、深くまで侵入した場合には損傷すると考えられます。
実際は鍼が坐骨神経に向かって進んだ場合どのような挙動をするのかがわからないため、推測の範疇を超えませんが、坐骨神経損傷のリスクはあります。

対応する腧穴

梨状筋付近の腧穴は白環兪と環跳です。
白環兪は梨状筋起始部に近く、環跳は停止部の近くにあります。

[白環兪後方から]

[環跳後方から]