腰痛に対するStratified approach基礎編(プレゼント用)

腰痛は多くの人が発症し、そして再発します[Meucci RD et al.2015][Hoy D et al.,2010]。
多くの治療法が模索され、原因を特定しようという試みがなされていますが、現状腰痛を治すための明らかな手段はありません。
恐らく多くの人の中で原因というと、発症原因という認識が強く、臨床的に「あなたは○○が原因で腰痛を発症しています」という発言を聞くことはありますが、それらの大半は科学的根拠に乏しい、あるいは相反するものが多く、特に体幹の弱さ、姿勢の悪さ、筋膜の歪み、骨盤の歪みなどが好んで使われている印象があります。
原因といえば、発症原因の他にも症状の持続原因がありますが、これはほとんど語られていません。
典型的な思考は(明らかにはなってない)発症原因を取り除くことで、症状が再発しなくなったり、持続しなくなると考えられていますが、発症原因がなくなったとしても持続原因がなくならなければ症状が消失するとはあまり考えられません。
腰痛を持続させないという観点でみれば、発症原因のような患者個人の腰痛の起源に迫るような問答よりも、何が腰痛を持続させているのか?何が予後を予測するのは?という考えが重要です。

予後予測の利点は治療を予後に合わせて変更できること、患者により正確な予後を伝え余計な不安を与えないようにできること、そして、予後予測因子には持続因子が含まれる"ことがある"ことです。
そのため臨床的に予後予測は重要な役割をもっています。

これに関連して、ほとんどの腰痛臨床ガイドラインでは、Clinical flagsの中でもRed flags(レッドフラッグ)だけでなく、多くの腰痛臨床ガイドラインではさらにYellow Flags(イエローフラッグ)の評価を推奨しています[Oliveira C.B et al.,2018]。

しかしながら、Clinical flagsの中ではRed flagsのみがよく知られており、Orange flags、Blue flags、Black flags、そしてYellow Flagsは比較的マイナーであり、臨床でも疎かにされがちです[Nicholas MK et al.,2011]。

これは今まで、人を人としてというより、動く構造体(PSB model:Postural-structural-biomechanical model[Lederman E.2011])のように捉えてきており、つまり姿勢や構造、生体力学で腰痛を説明しようと固執してきたことに由来するかもしれませんし、歴史的にRed flagsは17世紀から提唱されていますが、Yellow Flagsは1980年代に提唱されているため、現在まで広まるのに十分な時間がないのかもしれません。
実際、2000年の研究では、平均的な医学的治療の進歩は、最初の発見から臨床試験を経て日常的な臨床診療に至るまで17年かかると推定されています[Balas EA et al.,2000]。
PSB modelベースが支持されてきたこれまででは、PSBの範疇から離れてしまうClinical flagsの多くの要素は医療従事者の関心から外れ、より伝達されない知識であり、40年間あまり広まらなかった/臨床で使用されなかったことはおかしなことではありません。

最近ではBPS model(生物心理社会モデル:Biopsychosocial model)[Engel GL.1977]が広く認知され、医学書にも記載されることが増えてきたことで、人を構造体としてのみ観察することが不十分である認識が広まり、現在の骨格筋痛に対するBPS modelの使用は、Engelの意図していたものと同一かは怪しいところですが、心理社会的要因に関心が持たれるようになってきました。

多くのガイドラインで推奨されているYellow Flagsはまさにこの心理的な領域を評価しようというものです。
なぜなら、従来医療従事者に好まれて利用されてきた、生物学的要因(biological factor)の多くは腰痛の予後を推測することができないからです。そして、心理社会的因子を組み合わせることで、腰痛の予後をより正確に予測することができるからです。

これは生物学的要因を疎かにすることを推奨しているわけではありません。症状にはBPS(生物心理社会)すべての側面(あるいはそれ以上)が常に関与しています。にも関わらず、生物学的要因だけにフォーカスしていることから脱却することが必要だと言うことです。

簡易的にClinical flagsをまとめると、以下のようになります。
▶︎Red flags…重篤な病理の兆候
▶︎Orange flags…精神的な症状
▶︎Yellow Flags…信念、評価、判断、感情的な反応、疼痛行動
▶︎Blue flags…仕事と健康の関係についての認識
▶︎Black flags…システムまたは文脈上の障害

古典的にはYellow Flagsと分類されていたもののいくつかは現在では、Blue flagsやBlack flagsと呼ばれているため、時代によって、特に2000年以前のYellow Flagsを調べるときは混合してしまうことに留意が必要です。

ただし、闇雲に評価項目を増やすことは、偽陽性の問題を検出する可能性が高くなる可能性があり、効率のよい評価方法が必要です。

いくつかの臨床ガイドラインでは、医療従事者への過剰な依存を防ぎ、過剰に病理化することを避けるために、腰痛の急性期には最小限の介入しか行わないことが推奨されています。

過剰な依存と病理化を防ぐためには、予後を予測する能力のある簡単で日常的な心理社会的スクリーニングを取り入れた方が良いと考えられます。

持続性腰痛を管理する上での課題の一つは、偽りの治療をしている様々な治療従事者から患者を導くことです。

これらの問題を解決するために、予後の予測方法とそれに基づいた基本的な介入の考え方を紹介します。

予後を予測する利点

より重要な利点は予後の予測によって治療方針を変えることができることです。

さらに臨床家の経験による予後予測は、その人個人の能力によって大きく異なる可能性がありますが、客観的指標を用いた場合は症状により強く影響している因子を客観的に患者に説明することができます。

また急速に回復する可能性が高い患者を特定する能力は、患者を安心させ、現在のガイドラインの実践を助けることができます(臨床ガイドラインでは予後を説明することが推奨されていることがよくあります)。

さらに何もしなくても改善する腰痛に対する無駄な介入を防ぐことができます。

Yellow Flagsが重要?

長期にわたる障害を予測するには、身体的要因よりも心理社会的要因が重要であることを示す証拠が増えてきています。

24時間スケジュール(24HS)で測定された高い機械的負荷は急性非特異的腰痛のリスク因子として報告されています[Bakker EW et al.,2007a]が、これは腰痛の持続の予後因子や再発の因子ではなかったと報告されています[Bakker EW, et al.,2007b]。

患者の主観的な解釈と評価が、身体検査の変数よりも腰痛後の回復を予測します[Hunt DG et al.,2002]。
BMIは仕事に関連した急性/亜急性腰痛の有用な予後因子ではありません[Shaw WS et al.,2012]。

職場復帰は感情的苦痛を感じている人(悲観的になる、落ち込む、回復への期待が持てないなど)は、3カ月後に通常の仕事を再開していないリスクが高いです[Reme SE et al.,2012]。

職場での対人ストレス、仕事の満足度、抑うつ、身体症状症※、上司からのサポート、過去のLBPによる病気休暇、障害を伴う腰痛の家族歴が、軽度の腰痛から永続的な腰痛への変化と関連しています[Matsudaira K et al.,2014]。

身体症状症は、一般に精神の症状が身体の不調・不具合として身体化したものです。代表的には疲労・活力低下、睡眠障害、腰痛、頭痛、腕・脚・関節の痛み、腹痛、胸痛が報告されています。

喫煙と高齢は急性腰痛から慢性腰痛になる予測因子です[Bakker EW, et al.,2007b]。

腰痛が長く続くと予想している患者、深刻な結果になると考えている患者、腰痛のコントロール可能性に対する信念が弱い患者は、6カ月後の臨床転帰が悪くなる可能性が高かったと報告されています[Foster NE et al.,2008]。

腰痛患者の睡眠障害の推定有病率は58.7%であり、睡眠障害は痛みの強さに依存しています。
10ポイントのVASで1ポイントずつ増加すると、睡眠障害を報告する可能性が10%増加します[Alsaadi SM et al.,2011] ※睡眠の質はピッツバーグ睡眠質問票(PSQI:Pittsburgh Sleep Quality Index)を用いて評価することができます。
別の研究でも腰痛患者のの中央値は11であり、少なくとも50%の患者が重大な睡眠障害を有していたと報告されています[Marty M et al.,2008]。

不眠症を示唆するスコアである不眠重症度指数(ISI:Insomnia Severity Index)がSIS≧15であると慢性疼痛患者群の53%で認められたのに対し、無痛対照郡ではわずか3%でした[Tang NK et al.,2007]。

1246人の急性腰痛患者では睡眠の質が1ポイント低下するごとに、痛みの強さ(0〜10)が2.08ポイント増加しました[Alsaadi SM et al.,2014]。
902人を対象にした研究では睡眠障害のあった患者は、睡眠障害のない患者に比べて、腰痛で入院する可能性が2.4倍でした[Kaila-Kangas L et al.,2006]。
16歳を対象にした縦断研究では睡眠不足は、腰痛の予測因子として報告されています[Auvinen JP et al.,2010]。

ただし、このようにいくつか予後因子が報告されていますが、研究の中には因子の数が多いものや、コホートの規模が比較的小さいことから、いくつかの予後因子は偽りである可能性が高いと指摘されており、さらに因子が予後に与える影響の大きさも、研究の質が低い報告の方が強いリスク因子であると報告されやすい傾向があったことから解釈が容易ではありません[Kent PM et al.,2008]。

このようなYellow Flagsが腰痛をある程度予測するかもしれませんが、多くある要素を闇雲に用いるわけにはいきません。そのため、いくつかルールが開発されています。

Clinical Prediction Rule(臨床予測ルール)

腰痛に対するClinical Prediction Rule(臨床予測ルール)はいくつか開発されていますが、中でもメジャーなものには、STarT Back Screening Tool (SBST)とÖrebro Musculoskeletal Pain Screening Questionnaire(OMPSQ)があります[Hill JC et al.,2008][Linton SJ et al.,1998]。

SBSTの目的はプライマリーケアの現場で非特異的腰痛患者の修正可能な危険因子を特定し、患者に合わせた治療法を割り当てることです。

STarT Back Screening Toolは9項目の質問票で、腰痛の慢性化のリスクをLow risk、Medium risk、High riskの3段階に分けてます。

▶︎Low riskは、予後不良因子が全くないか、少ない患者で構成されます。
▶︎Medium riskは、身体的領域に関する項目のスコアが高いが、心理社会的リスク因子のスコアが低い患者です。
▶︎High riskは、予後が悪く心理社会的サブスコアが高い患者です。

Örebro Musculoskeletal Pain Screening Questionnaire(OMPSQ)はAcute Low Back Pain Screening Questionnaire (ALBPSQ)を応用して作成され25の項目があります。
項目数が多いため臨床的にSTarT Back Screening Toolよりも用いにくいですが、OMPSQの25項目は、心理社会的要因のほとんどをカバーしている点で優れています。
この欠点をカバーするために、OMPSQ-shortが開発されており、オリジナルのOMPSQを10項目に短縮しています[Gabel CP, et al.,2011]。患者はOMPSQをよりもOMPSQ-shortを好みます[Schmidt COet al.,2016]

オリジナルのOMPSQの合計スコアは4から210ポイントですが、将来の痛み、障害、欠勤のリスクを高い/低いと判断するためのカットオフ値は80から147の範囲で用いられています[Sattelmayer M et al.,2012][Lheureux A et al.,2019]。
OMPSQを使用する上で最適なカットオフ値は不明です[Sattelmayer M et al.,2012]。

予後予測は、治療法の決定と結びついていなければ、ほとんど価値がありません。OMPSQは元々欠勤の観点から予後不良のリスクがある患者を特定するために作成されたため、治療法の推奨とは関係のない予後判定ツールであり、SBSTは、プライマリーケアの現場で、限られた数の質問で、修正可能な予後指標を見つけることであるため、治療法の選択に大きく関与します。

SBSTでは心理社会的サブスコアで高得点を得ている高リスク患者と、身体的リスク因子を多く持つ中リスク患者をわけているため、適切な治療をより容易に提供しやすくなります。

SBSTとOMPSQは得意な予後予測項目が異なります。

3ヵ月後の痛みに対するNRS(numerical rating scale) score3(11ポイントのNRSで3以上の痛みはスコアが3未満の多くの人が自分自身が回復したと考えていることに基づきます)の判別能はSBSTでは0.56~0.59で、OMPSQでは0.64のACUが得られています。そのため、3ヵ月後の痛みを予測するためにSBSTもOMPSQも低く、具体的にはSBSTでは参考にできず、OMPSQでは低い判別能であるため、あまり参考にできません[Lheureux A et al.,2019]。

※AUC(Area Under the Curve):0から1までの値をとり、値が1に近いほど判別能が高いことを示します。テストやアンケートの予測力を決定するために最も使用される統計ツールです。AUCは大まかにみれば、0.8以上で判別能が高く、0.5-0.6では判別能がほとんどありません。

【AUCの参考値】
0.5-0.6 Non-informative(参考にできない)
0.6–0.7 Low predictive power(低い判別能)
0.7–0.8 Acceptable power(許容できる判別能)
0.8–0.9 Excellent power(優れた判別能)
> 0.9 Outstanding power(判別能)

6ヵ月後の痛みに対するNRS score 3の判別能(AUC)はSBSTで0.61~0.70、OMPSQで0.70~0.84です。そのためSBSTでは低い判別能を持っており、OMPSQは低い~優れた判別能を持っています[Lheureux A et al.,2019]。

急性/亜急性の腰痛患者では、6ヵ月後のODI(Oswestry Disability Index) 30%を予測するAUCはSBSTで0.75、OMPSQ で0.72です。そのため、SBSTとOMPSQは同等の(許容できる判別能を持っています[Lheureux A et al.,2019]。

※ODI(Oswestry Disability Index):世界で最も広く使用されてきた患者立脚型の腰痛疾患に対する疾患特異的評価法

RMDQ(Roland-Morris Disability Questionnaire) score > 4の判別能は、SBSTを用いた場合、3ヶ月後ではAUC = 0.67、6ヶ月後ではAUC = 0.81、OMPSQでは、6ヵ月後でAUC = 0.68、12ヵ月後でAUC = 0.72です[Lheureux A et al.,2019]

※RMDQ/RDQ(Roland-Morris Disability Questionnaire):腰痛による日常生活の障害を患者自身が評価する尺度

6ヶ月後の30日間の欠勤についてはSBSTでAUC = 0.89、OMPSQでAUC = 0.88と報告されており、優れた判別能を持っています。ただし、6ヶ月後の30日間の欠勤についてのSBSTとOMPSQを比較した研究は1件でした[Lheureux A et al.,2019]

OMPSQとOMPSQ-shortを比較すると、6ヶ月時点で15日以上の欠勤の予測は、OMPSQでAUC = 0.66、OMPSQ-short でAUC = 0.72、治療後3か月の職場復帰ではOMPSQでAUC = 0.82、OMPSQ-shortでAUC = 0.79でした。そのためOMPSQ-shortはOMPSQと特に6か月後の15日以上の欠勤を予測する上では同等であるため、短縮版のデメリットは大きくないことが分かります。そのため、仕事のアウトカムに関連する予後を目的とする場合には、OMPSQ-shortを使用することが推奨されます。

以上から、「痛み」と「仕事」の結果を予測するためには、OMPSQが優れていますが、「機能」や治療方針の決定にはSBSTの結果に優れています。ただし研究間の不均一性が高いため、これらの結果は注意して取る必要があります。

また他の注意点としてはSBSTの仕様は腰痛を発症し、来院された直後に使用するのは適切ではない可能性があります。3分の1以上の患者は初回治療の直前から2日後までの間にサブグループを変更します[Newell D et al.,2015]。

さらにこれらの予後予測は多くの場合長期(3ヶ月6ヶ月12ヶ月)で調査れることが多く、臨床的には短期的な予後予測をしたいケースがあると思います。
この問題を解決するための手段を紹介します。

短期的なClinical Prediction Rule

Clinical Prediction Ruleはほとんどの場合、12か月での持続的な痛みまたは回復不能の予測に重点が置かれており、この情報は急性腰痛患者の短期/中期管理について決定を下す際には、用いにくいという観点から1週間後、1か月後、3か月後を予測するClinical Prediction Ruleが開発されています。

このモデルでは4つの要素から予後を予測します。

1つ目は「Duration of current episode(現在のエピソードの期間)」です。これは「腰痛が始まったのは何日前ですか?」という質問によって聞くことができます。

これを7~14日、15~23日、24~56日に分類します。

2つ目は「Number of previous episodes(過去のエピソード数)」です。これは「過去に何回、腰痛に悩まされましたか?」という質問によって聞くことができます。

これを0~2回、3~8回、9~150回に分類します。

3つ目は「Depression score(抑うつの点数)」です。これは「過去1週間で、どのくらい憂鬱な気分に悩まされましたか?」という質問によって聞くことができ、0-10スケール(0=全くない、10=非常にある)で測定します。

これを0~3、4~6、7~10に分類します。

4つ目は「Pain intensity change(痛みの強さの変化)」、具体的には、初診時から1週間後までの痛みの強さの変化です。これはNumeric pain rating scale (NPRS)を用いて測定できます。

これを≥4、2,3、≤1に分類します。

これらを用いることで1週間後の回復の割合を4%〜59%、1カ月後の回復の割合を19%〜91%、3カ月後の回復の割合を30%〜97%で243通りの予測ができます[da Silva T et al.,2017]。

ただしこの方法は、あくまで、回復期間を予測するものであって、SBSTのように治療対象を選択するために使うことはできません。

簡易的なClinical Prediction Rule

臨床現場で簡単に使用できるPrediction Ruleはある程度の精度を犠牲にしても構わないことを前提にすれば優れています。

回復(7日間連続して0〜10の痛みのスコアが0または1になること)を最も簡易的に予測するClinical Prediction Rule(CPR)は①初期の痛みの強さが低いこと、②症状の持続期間が短いこと、③腰痛のエピソード数が少ないことの3つを使用します[Hancock MJ et al.,2008]。

初期の痛みの強さが平均よりも低く、症状の持続時間が短く、過去のエピソードの数が少ない患者は、これらの特徴を持たない患者に比べて、回復する可能性が3.5倍高くなります。
例えば、より重度の痛み(7/10以上)を訴え、痛みの持続期間が5日以上で、過去に急性腰痛のエピソード患者は急速に回復する可能性が低くなります。
ただし、短期的なClinical Prediction Ruleと同様にあくまで、回復期間を予測するものであって、SBSTのように治療対象を選択するために使うことはできません。

介入について

前述したように、予後予測は、治療法の決定と結びついていなければ、ほとんど価値がありません。

予後予測ツールを使用して、心理的な予後予測因子も考慮し、サブグループ化してより適切な介入手段を提供する介入はStratified approach(層化アプローチ)と呼ばれています。

STarT Back Screening Tool(SBST)はその本来の目的どおり、介入のヒントを提供してくれます。
High risk郡とMedium risk群が基本的に介入の対象になり、Low risk群は基本的に治療が必要ないか、少ない介入(最初の1回のみ)で十分だと考えられています。
さらなる治療が有益または必要である可能性は低いことを再確認し、さらなる治療を受けないように勧めます。症状が悪化した場合には再来してもらうようにします[Hill JC et al.,2011]。
医療従事者は、原因や起こりうる結果について患者を教育し、ほとんど、あるいは全く医学的治療が必要ないことを説明し、回復を促すために患者ができることを説明します。

患者が質の高い初期治療を受けた場合の急性腰痛の約50%の患者が2~3週間で完全に回復します[Williams CM et al.,2014]。

ただし、腰痛は根拠のない介入によって医療従事者が利益を得るための"肥沃な土壌"という側面があるのが現実であり、多くの腰痛介入を行っている人には、治療をしない患者を選択するというのは受け入れ難いことがあります。

Medium risk群は、機能回復と身体的特徴(障害のある腰痛、障害のある脚の痛み、併存する痛み)に焦点を当てたセッション(例えば3カ月間に最大6回のセッション)を行います。

治療の主な目的は、腰に関連する障害を軽減することで、アドバイスや説明、安心感を与える、教育、運動療法、手技療法、鍼治療など患者に合わせた管理計画をたてます。ベッドレスト、牽引、マッサージ、電気治療は治療プロトコルに含まれないことがあります[Hill JC et al.,2011]

High risk郡には、身体的/心理的なアプローチを組み合わせて機能を回復させ、回復を妨げる身体的および心理的な障害を取り除くことに焦点を当てられます。

SBSTの中の5-9の質問は
5、こんな状態で活発に体を動かすことには、かなりの慎重さが必要だ
6、心配事が心に浮かぶことが多かった
7、私の腰痛はひどく、決してよくならないと思う
8、以前は楽しめたことが、最近は楽しめない
9、全般的に考えて、ここ2周の間に腰痛をどの程度煩わしく感じましたか?
であり、この質問に「そうだ」と答えた項目にはよりフォーカスすることができます。

身体的な介入(運動療法と徒手療法)と心理学的な介入は患者の情報と統合され、症状に対する信頼できる説明、安心感、教育、共同での目標設定、問題解決、ペーシング、段階的活動、リラクゼーション、睡眠に関するアドバイスなどを行います[Hill JC et al.,2011]

臨床的に重要な問題はこのように選択した治療がより高い治療効果を出すことができるのか?です。

ヘルスケアの使用の削減、腰痛に関連する休業日数の減少、日常生活の障害(RMDQ)の通常のケアよりもわずかな改善に関連しています[Hill JC et al.,2011][Whitehurst DG et al.,2012][Foster NE et al.,2014]がより多くの視点から高い治療効果を観察するにはより多くの研究が必要です。

SBSTを使わない場合でも、予後が良い群と悪い群に分類し、SBSTでいうところの、Low risk群のように介入するか、High risk郡とMedium risk群のように介入するか選択することができます。

患者の予後予測をしない場合、これらの選択ができる余計な治療(Over treatment)をすることになったり、役に立たない信念を患者に植え付ける可能性があります。

まとめ

腰痛の多くは現在、多因子性と考えられています。
多因子性となれば単一の問題の臨床的価値は下がり、また、1つの問題が占める程度の大きさを測ることは難しくなります。
そのため、Stratified approach(層化アプローチ)のように、患者をサブグループ化することで、腰痛治療の大部分の不日不要な介入を減らし、効率の良い介入を行うことができます。

Hillらの手段[Hill JC et al.,2011]に基づけば、Stratified approach(層化アプローチ)では、Medium risk群に心理社会的介入は必要ないと基本的には判断され、介入の主体は身体的なものになりますが、これによって腰痛の持続化を効率よく防ぐことができるのかはまだまだ調査する必要があり、例えば、Medium riskであっても心理社会的な介入を含めた方が良い可能性があります。

前述した通り、腰痛は根拠のない介入を売るための肥沃な土壌という側面があり、Stratified approachはこれを効率的になくすことができる手段にも見えます。つまりStratified approachはOver medicalisationを防ぐために有益であると考えることができます。

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