アイシングをアップデートせよ(プレゼント用)

たびたび、アイシングの是非はピックされる話題です。

最近も神戸大学の研究[Kawashima M et al.,2021]よりアイシングにより回復が遅れる可能性が指摘されました。
これは一部メディアでも拡散され、医療従事者のみならず、一般の領域まで広がっているように見えます。

このツイートだけみてみても、「アイシングは筋肉損傷の回復を遅らせる」という"拡大解釈"したタイトルで広められ、コメント欄でも「つまり冷やさない方が良いという事」というコメントも見られ、極端な解釈が見て取れます。

このミスリードさせる(論文ではなく)ニュースには他の先生からの指摘があり、「この頻度のアイシング処置」は「この実験でのマウスの筋損傷モデル」において筋繊維の回復を遅延させることが分かりましたというコメントはもっともだと思います。
この頻度は「30分間、2時間ごとに3回行い、損傷2日後まで」を指しています。

今回は「30分間、2時間ごとに3回行い、損傷2日後まで」というアイシングプロトコルですが、最適なアイシングプロロコルは不明であり、臨床は個人の判断で時間を決めているところが多いかも知れません。

私の知る限り極端な例では足を怪我してから、ほぼ毎日のように数年間1日10分程度アイシングを行なっている人も見たことがあります。
そのような医療機関ではもはやアイシングは思考停止に行われていますし、ここまで極端ではないにせよ、臨床現場で用いられているアイシングプロトコルは様々な方法があることが想定されるため、各研究、各臨床現場を一致させて考えるの困難です。

因みに過去の類似した研究では、損傷のさせ方、アウトカムまでの日数、アイシングの方法に違いがあり、Takagiらの研究[Takagi R et al.,2010]と別の研究[Singh DP et al.,2017]では損傷直後に20分のアイシングを行なっています。

これら3つの研究はすべて筋損傷のさせ方が異なることも注目すべきポイントです。Kawashimaらの研究[Kawashima M et al.,2021]では損傷の方法に遠心性収縮を用いているのに対し、Takagiらの研究では[Takagi R et al.,2010]30秒間組織を押し潰しており、Singhらの研究[Singh DP et al.,2017]では重りを上から落として損傷させています。
そのためこれらは異なった損傷を検証しています。

さらに、アウトカムを何日後に設定するかも注目すべきポイントです。なぜなら損傷のさせ方は異なるものの、アイシングは同様に行なったTakagiらとSinghらの研究では14日後ではなく、28日後で相反する結果が得られており、Singhらは「結論として,アイシングは炎症細胞の浸潤,血管新生促進因子の発現,および損傷後の筋肉の血管容積の変化を減弱または遅延させた。しかし,これらの効果は毛細血管密度を減少させたり,効果的な筋再生を妨げるのに十分ではなかった。(原文:In conclusion, icing attenuated or delayed the infiltration of inflammatory cells, the expression of proangiogenic factors, and change in vessel volume in muscle following injury. However, these effects were not sufficient to reduce capillary density or prevent effective muscle regeneration.)」[Singh DP et al.,2017]と記載しており、2021年のKawashimaらの報告は損傷後14日目でアイシング群と対照群を比較しています。

研究における条件設定はアウトカムに大きな影響を与えるため、これらの結果をヒトのさらに様々な部位に一般化することはできません。
理解すべきは、あらゆる条件で回復が遅れることが"示された"わけではなく、「限定的な条件で回復が遅れることが"示唆された"」ということであり、自身の臨床での使用とどれだけ類似性があるかを確認することが重要です。

さらに神戸大学のWebsite(https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2021_04_23_01.html)には
▶︎「回復を早めるために冷やさないという選択肢がある」
▶︎「今回のようにアイシングを施すと回復が悪くなってしまう重い筋損傷がある一方、アイシングを施してもよい程度の軽微な筋損傷、というものが存在する可能性も否定できません。その線引きが今後の課題です。」
と記載されており、「アイシングをしてはならない」とは書かれていません。

ただし、これだけでは同時に「アイシングをやる」理由にもなりません。

というような背景を踏まえて、さらに

アイシングに関する急性外傷の処置はこれまで、「RICE」から「PRICE」へ、そしてさらに「POLICE」へアップデートされ、最近では、即時ケア(PEACE)とその後の管理(LOVE)までの連続体を含んで「PEACE&LOVE」が提唱されています[Dubois B et al.,2019]。

これと同時にI(ce)という文字はなくなったことにも注目すべきかも知れません。

ここではアイシングに関する幾つかの研究とそれを踏まえて、アイシングをどう解釈し、使う場合にはどのようにつかっていくべきか考察を深めていきます。

従来のモデル

最も古典的なRICE処置はGabe MirkinによってSports medicine Book(1978年)にて提唱されているため、40年以上の歴史があり、一般(特にスポーツに関連している人)にも広まっています。
実際スポーツ現場のコーチに話を聞くと、「しっかりとRICE処置して」という発言を聞くこともあります。

RICEはRest、Ice, Compression、Elevationの頭文字を取っており、それぞれの以下のように説明されています[van den Bekerom MP et al.,2012]。
R(Rest:安静):患者は損傷部位にストレスや緊張を与え、治癒プロセスを悪化させるような活動を避けなければなりません。安静を選択的に適用して一般的な活動を行うことは可能です。
I(Ice:アイシング):アイシングは、損傷部位の組織の温度を下げ、その結果、代謝を減らし、血管収縮を誘発し、出血を制限することで、損傷によって誘発される損傷を抑えるために使用されます。
C(Compression:圧迫):圧迫の目的は、出血を止め、腫れを抑えることです。
E(Elevation:挙上):傷害部位を挙上すると、局所の血管の圧力が下がり、出血を抑えることができ、また、リンパ管からの滲出液の排出を促進し、浮腫やその結果としての合併症を軽減・抑制します。

しかし、RICE処置はRICE処置の提唱者であるDr.Mirkinが自ら、2015年のMirkin自身のブログ(www.drmirkin.com/)や著書「ICED! The Illusionary Treatment Option - Second Edition」で撤回しています。

RICEの派生系として動くことを重視した表現としてMICE処置が使われることがあり、「M」は「Movement」を意味しています。

RICE処置の別の派生としては、患部を保護するP(Protection)が追加され、これをPRICE処置(Protection, Rest, Ice, Compression, Elevation)と呼ぶようになり、2012年にはPOLICE処置が提唱されました[Bleakley CM et al.,2012]。

POLICEはProtection、Optimal loading、Ice、Compression、Elevationの頭文字をとっています。
この時点でOptimal loading(OL:
適切な負荷)が追加されました。Optimal loadingは休息と負荷のバランスのとれた段階的なリハビリテーションプログラムを行うことを意味しています。この時の負荷戦略は、組織の種類や解剖学的領域によって異なり、どれくらいの負荷が最適かの判断は臨床家に任されています。

現在のモデル

最も新しいモデルは「PEACE&LOVE」です。

「PEACE」の「P」は「Protect」の略です。
Protect自体はPRICEの時代から既に存在しており、出血を最小限に抑え、損傷した線維さらなる損傷を予防し、悪化させるリスクを減らすために、1~3日間、負荷をなくすか運動を制限することを意味します。
ただし、長期の安静は組織の強度と質を損なう可能性があるため最小限にすべきです。

「PEACE」の「E」は「Elevate」の略です。
ElevateあるいはElevationはRICE処置の頃から存在します。未だにこれを支持する明らかな根拠はありませんが、リスクも費用もかからないため、推奨されます。Elevateでは四肢を心臓より高く挙上し、組織からの間質液の流出を促進します。

「PEACE」の「A」は「Avoid anti-inflammatory modalities(抗炎症モダリティを回避)」の略です。
これは「RICE」「PRICE」「POLICE」いずれにもなかった新しい項目ですが、従来のモデルには必ず含まれていた、I(ICE)は部分的に「A」に包含されています。
「Avoid anti-inflammatory modalities」は抗炎症作用を持つ介入、具体的には抗炎症薬やアイシングあるいはクライオセラピー(Cryotherapy)を控えることが提言されています。
この根拠としては組織修復の障害と余分なコラーゲン合成につながる"可能性"と軟部組織の損傷を治療するためのアイシングの有効性に関する高品質のエビデンスがないことが挙げられています。ここの解釈に関しては後述します。

「PEACE」の「C」は「Compress」の略です。
Compress/CompressionもRICEの頃から存在します。
Compressはテーピングや包帯を使って外部から機械的に圧迫し、腫脹や組織の出血を抑えます。

「PEACE」の「E」はEducateの略です。
PEACEから新たに追加されました。
これは回復に向けた積極的なアプローチの利点を患者に伝えることです。電気療法、手技療法、鍼灸などの受動的な治療法は、能動的なアプローチと比較して、痛みや機能に対する効果は小さく、長期的には逆効果になることさえあることを伝えます。また治療への依存行動を防ぐことも含まれ、症状や負荷管理に関する教育を充実させることで、過剰な治療を避けることができます。魔法の治療は存在せず、回復までの期間について患者に"現実的な期待"を抱かせることを強く提唱します。

続いて「LOVE」を見ていきます。「LOVE」は管理、リハビリテーションのフェーズです。

「LOVE」の「L」はLoadの略です。
Loadは「POLICE」から追加され、「POLICE」の時は、「OL:Optimal loading(適切な負荷)」と記載されていました。これは「RICE」の「R:Rest(安静)」と関連しており、臨床的な解釈としてはRestを完全に休ませる意味合いで用いられることと、日常的な負荷は継続しながら、悪化させるような負荷に関しては安静にするという意味で使われることもあり、後者の意味では「OL:Optimal loading」と類似しています。
痛みを悪化させることなく最適な負荷をかけることで、修復やリモデリングを促進し、組織の耐性を高め、機械的な伝達によって腱、筋肉、靭帯の能力を高めます。

「LOVE」の「O」は「Optimism(楽観主義)」の略です。
患者の楽観的な期待は、より良い治療結果と予後に関連します。破局、恐怖、うつなどの心理的要因は、回復の障害となり得ます。

「LOVE」の「V」は「Vascularisation」の略です。
これは血液の循環を高めるための活動のことを意味しています。痛みを伴わない有酸素運動は、モチベーションを高め、損傷した構造物への血流を増加させるために、受傷後数日後に開始されるべきです。

「LOVE」の「E」は「Exercise」の略です。
エクササイズは予防、受傷後早期の可動性、筋力、固有感覚の回復目的で使用されます。

RICE処置という言葉はOld hat(時代遅れ)というわけではなく最近の足関節捻挫のガイドラインでも用いられています[Vuurberg G et al.,2018]。

ただし、従来のモデルも現在のモデルも具体的なアイシングプロトコルについては言及されていません。

アイシングの是非

アイシングが提唱されてから随分と年月が経っていますが、アイシングが明らかな根拠なく行われていることはしばしば問題視されてきました。
アイシングが推奨されてきた背景には「アイシングを適用しないエビデンスはない」理由で正当化されている側面があります。

さらに言えば、多くの場合、アイシングは"断片的な情報"のみに基づいて是非を語られます。

例えば、30分冷却すると、深さ2 mm深さ8 mmの両方で微小循環血流が減少し[Knobloch K, et al.,2006]、これは皮膚表面の温度が戻った後でも長時間継続されること[Khoshnevis S et al.,2015]を根拠にしたとしても、これは虚血性のいくつかの害(例えば治癒が遅れる)が"示唆される"証拠であり、アイシング全体が否定されるわけではありません。ただし、この研究結果から想定されるいくつかの懸念がないわけでもありません。
またこの血流の減少はより深い深度ではどうなるのか?も分かりません。受傷部位にもよりますが、筋損傷であれば皮下脂肪が1cmを超えることは珍しいことではありません。

臨床的に考える必要のある回復の側面は様々あり、例えば、痛みの軽減・痛みの消失までの日数・スポーツ復帰までの日数・日常生活動作の回復までの日数・機能回復・機能回復までの日数・組織修復(組織の質など)・組織修復までの日数・特定の動作への恐怖/不安の強さ・恐怖/不安軽減までの日数・回避行動・回避行動改善までの日数などが挙げられます。
臨床的には、本来これらの要素を包括的に見て、アイシングの是非が語られた方が偏りの少ない結論になると考えられます。

より包括的な表現をするのであれば、Cell(細胞レベル)、Tissue(組織レベル)、Body(身体レベル)、Self(自己レベル)、Society(社会レベル)の影響を鑑みる必要があります[McKeon PO et al.,2019]。

この見方はBPS model(生物心理社会モデル)と同一です。

BPS modelに基づいて考えてみましょう。
アイシングの元々の目的は、細胞や組織レベルの話かも知れません(下図参照)。
あるいは個人の痛み経験に対するものかもしれません。

 

これは常に他のレベルと共存しています。
例えば、骨格筋痛でよくある心理的な反応には恐怖があります。
例としてここでは急性外傷で阻止したい恐怖を見ていきます。

「病的な恐怖(Pathological fear)」は単なる感情的な恐怖ではなく、Fear avoidance modelで語られるような、日常的に恐怖の元となっているものを考えてしまったり日常的にそれを過剰に避けるようになってしまうような恐怖です。

「恐怖の般化(Fear Generalization)」は「感覚刺激に対して確立された条件反応は他の刺激によってある程度誘発される」ことです。例えば足関節を捻挫した人が足を最大背屈したときに強い痛みが生じ、恐怖を感じるようになってしまった人が、歩行時の小さな背屈でさえ怖がってしまうようなことが挙げられます。
あるいはハムストリングスの肉離れを起こした人が、立位の軽い屈伸運動で強い痛みを感じ、その後の類似する動作である、垂直跳びで恐怖を感じて避ける、あるいは躊躇するようになるというのが挙げられます。

このように同じカテゴリーの動作を恐怖対象にしてもらうようなことを「カテゴリーに基づく恐怖の般化(Category-based fear generalization)」と言います[Dymond S et al.,2014]。

アイシングのメカニズムは不明であるものの、短期的(恐らく15~30分)な鎮痛効果を持っているため、恐怖の般化が起きる前に、怖い動作に対して無痛や少ない痛みで暴露させ、段階的暴露をしやすくなると考えられます。
これは推測の域を出ませんが、事前にいくつかの動作に暴露しておくことで、後々の恐怖とそれに基づく回避行動を予防できる可能性があります。
これはアイシングが心理面まで影響する一例です。

損傷の急性期の社会的側面にはどのようなものがあるでしょうか?

例えば、正しい正しくない関係なく、スポーツ文化には「最高のパフォーマンスを妨げるものはすべて弱点とみなされ、弱点は許されない」という価値観は存在します[Wilson F et al.,2021]。

選手はコーチにメンタルもフィジカルも完璧を求められているように感じていることがあり、コーチからみれば怪我をした選手は「価値のない商品」とみなされていたり、「実際に怪我をしているとは思っていなかった...少し過敏になっていると思われたようだ」と選手目線で認識されていることすらあります。
またチームメイトから「いつも文句を言っている人」「泣き言を言っている」と思われたくないと考えている人もいます[Wilson F et al.,2021]。

私が見てきた経験でも、コーチは「捻挫や風邪で練習を休むことの理解ができない」という発言を聞いたことがあります。この根底には、自身が選手時代疲労骨折をしても練習をしていた経験があり、それができない選手は「弱い」あるいは「やる気がない」と認識しているように見えました。

また、そうでなくても怪我で休むことは単純に「チームに迷惑をかけてしまった。早く復帰しないと」という話を聞くケースもあります。特にメンバーが少ないチームでは人が減るだけで練習(試合を想定した練習など)そのものが制限されることから自責の念に駆られる選手を目にすることがあります。

あるいは場合によっては患者/選手は、痛みを悪化させたり、身体の限界の可視性を恥じたりすることを恐れて、特定の行動をとることをしばしば控えます[Sündermann O et al.,2020]。
このような場合では自分の体が脆弱であると感じ、より社会的に孤立する可能性があります。

私が今までみてきた選手の中にも自身の体が普通(他の選手)よりも脆弱であり、怪我をしやすいと今までの自身の経験から思い込んでいる人は見てきました。
これは真実かもしれませんが、真実と断定するものではありません。

これらは明らかに痛みと社会的(対人や対チーム)なつながりであり、同時に「〇〇という風に見られたくない」「迷惑をかけたくない」という心理社会的なつながりです。

このような認識がある社会的領域では、もちろんその認識を変更しようとする医療従事者の介入も必要ですが、決して容易に拭えるものではなく、選手がチームに弱いと思われている不安感や、実際にそう思われていることを回避することも選手にとって重要なことです。

アイシングがこれらの問題を直接解決できる考えるのは、飛躍しており、楽観的すぎますが、特定の状況、例えば小さな疼痛抑制を必要とする軽い損傷初期の運動介入により選手自身が動けているというチームメイトやコーチ、選手自身への周知など、間接的に解決に向かわせる一手段として使える可能性があります。
想像してみてください。同じ怪我であっても、受傷から1週間後、練習中安静にして練習を観察している選手と、軽いスクワット運動に励んでいる選手を見た人の、第三者印象と選手自身の印象は異なります。

上記した問題の場合、アイシングの目的は、動作を避けさせる誘発性(Valence)を低下させる、選手や患者が特に高い注意(salience)を払っていることへの意識を減らす、特定の動作への自己所有性(Minenes)を高める、以前できなかった動作ができるようになっていると実感させることが含まれます。

以上のように臨床では単に、組織の回復だけでなく、個人の背景に合わせて様々な要素が絡み合っており、痛みを中心とした世界観は狭すぎる(A pain-centered view of the world is too narrow)ため、医療従事者やトレーナーはこれらの側面を理解して臨床にも出るべきです。

Cell、Tissue、あるいは構造、機能のみに焦点を当てることはBiomedical model(生物医学モデル)であり、一側面にのみフォーカスしている介入です。

ただし包括的に見ようとする時の問題は情報が十分ではないことです。アイシングの根拠のほとんどは、質の低い臨床試験や、怪我をしていない参加者や動物モデルでの研究に大きく基づいていることも指摘されています[Kaminski TW et al.,2013]。
臨床実践では情報が不十分なまま、正解が不確定であることに基づいて介入を決定し行う必要があります。意思決定は常に正しいと判断する要素がないことを許容する必要があります。それゆえ、断片的な情報に基づく結論の明確化は偏った結論のリスクを伴っていると同時に、不明瞭にしておくことは臨床での判断を曖昧にするデメリットも持っています。

最近では「PEACE&LOVE」が提唱されていることはすでにピックしましたが、「PEACE&LOVE」の「A」はアイシングに触れており、文献中のインフォグラフィックには「アイシングを避ける」ように記載されていますが、アイシングの全体を否定しているようには見えません。
というのも、「A」の説明ではあくまで、「アイシングの有効性に関する質の高いエビデンスはなく、炎症、血管新生、再灌流を阻害し、好中球やマクロファージの浸潤を遅らせ、未熟な筋線維を増加させる可能性がある」というものであり、またAはあくまで、「抗炎症を避ける(Avoid anti-inflammatory)」の頭文字であるため、フォーカスされているのは抗炎症を避けるという視点に限定されているように見えます。

この根拠となっている文献[Singh DP et al.,2017]の中を見てみると、組織学的な視点、つまりCellとTissueのレベルから語られています。

具体的には、この研究では90匹のラットが用いられており、80匹のラットをランダムにアイシンググループ、シャムグループに分け、10匹は無傷、無介入、両方のグループは筋損傷後、アイシング(直径5cmの氷を損傷した筋肉を20分間)またはシャムが損傷部位を覆う皮膚に適用され損傷後1、3、7、28日に観察されました。
結論として、アイシングは、炎症細胞の浸潤、血管新生促進因子の発現、および損傷後の筋肉の血管容積の変化を弱めるか、または遅らせました。しかし、これらの効果は、毛細血管密度を低下させたり、効果的な筋の再生を妨げたりするのに十分ではありませんでした。

この結果は怪我の程度はどの程度か?怪我の深さはどの程度か?アイシングの手段(方法、期間、頻度)は?などの変数によっても結論が大きく変わってくる可能性があり、我々臨床家が求めているのは、臨床に影響するほどの影響が起きるか?であって、微細すぎる回復の遅延は無視できる場合があります。

アイシングは対象となる部位の状況も重要な要素です。
例えば皮膚表面から前距腓靭帯までの距離と皮膚表面からハムストリングまでの距離は主に皮下脂肪の厚さによって差があります。
同じハムストリングスであっても皮下脂肪が分厚い人とそうでない人で、アイシングの影響が届くかどうかに影響することも考えられます。皮下脂肪の厚さが同様であっても同じハムストリングス損傷でも損傷部位の深さでアイシングの影響が届くかどうかに影響することも考えられます。

これらの条件は、アイシングの与える影響を変える条件が個人差や部位の差によってかなりの影響を受けることが予想され、断片的な情報を解釈するのを困難にしています。

このときアイシングのメカニズムも重要です。アイシングの主要な鎮痛メカニズムは明らかではありません。
例えばゲートコントロールのように冷刺激や触れていることが鎮痛の主要なメカニズムである場合は、アイシングによる血流障害が幹部に生じないように時間をコントロールして鎮痛効果だけ発揮することもできるかも知れません。
この場合はアイシングが組織の回復を遅らせることを示唆している研究の範囲外の話になります。

アイシングの目的も重要なポイントです。アイシングによって血流障害が生じるという懸念はアイシングで損傷部位の温度を下げることを目的とした介入と関連しており、単に鎮痛目的でアイシングを行う場合は損傷部位を冷やす必要はなく、そのため長い時間のアイシングは必要なくなります。

暫定的な私の結論を端的にいうと、「使うことはできる」です。
アイシングは強制されるものではなく、使えるとき、効果があると推測できる時には使っても良いというのが結論です。

医学はどのような手段であっても必ず害は存在します。これは栄養学でしばしば引用されるパラセルススの「すべての物は毒であり、毒でないものはない」と同じです。塩は人体に必要なものですが、量が多過ぎれば死に至ります。

医療業界では 「まず害を及ぼさない(first, do no harm)」と言われることはありますが、「すべての物は毒である」ことを前提にすればこれは理想論であり、現実的には「利益が害を上回ることを常に確認する」方が適切だと考えられます。

これはアイシングにも適応され、アイシングの想定されるいくつかの害と利点を総合的に鑑みて使用するか、またどのように使用するかを決定する必要があります。

ただしPEACE&LOVEの推奨からみてもアイシング自体は積極的に推奨されるものではないかも知れません。
少なくとも臨床でアイシングをしてない人がいたとしてそれを咎めることは正当とは言えないと思われます。
同時に臨床でアイシングを使用していることを咎めることは正当とは言えないと思われます。

現在の研究で用いられているようなアイシング方法は、害が明らかというよりは、「従来言われてきた利点が見つかっておらず、害を及ぼす可能性が考えられる」というものです。

例えば先ほど、アイシングが組織の回復を遅延する可能性についての文献をピックしましたが、遅延は大幅とはいえず、早期の運動介入と組み合わせてアイシングを用いたときは、遅延がなくなることも考えられます。

NSAIDsとICEの組み合わせを「NICE」と呼びますが、NATAの2013年のPosition StatementではNSAIDsが痛みの急性/亜急性期中に使用し、急性足首捻挫後の短期的な機能を向上させることを1つの理由に[Kaminski TW et al.,2013]鎮痛薬の使用ができると説明していますが、アイシングの鎮痛効果はNSAIDsとは異なったリスクで、同様の目的(短期的な機能を向上させる)で用いることができるかも知れません。

ただし、アイシング単独では1週間後の痛みや機能を向上させることはおそらくできない[Bleakley CM et al.,2016]ためアイシングのみで機能を向上しようとする試みは効果がないと思われ、運動を組み合わせた方が向上させやすいと考えられます。

人に対する、急性の筋損傷からの回復に関するアイシングの有効性を調べた最初のランダム化比較試験(評価のバイアスを避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法)[Prins JC et al.,2011]ではサンプル数が少ない(n=19)ものの18歳~65歳を対象に、ふくらはぎ部に突然痛みが生じ、痛みなしに歩くことができず、膝を伸展位での足関節背屈が対側に比べて制限されること、SimmondsまたはThompson testが陰性であると示されている人が対象にアイシングは最初の損傷から6時間以内に行われ、砕いた氷(400g,15×10cm)を入れたビニール袋を、包帯を使って損傷部位の皮膚の上に固定する広く使用され、一般に受け入れられている方法でした。時間は最低20分間、最高30分間で、最初の36時間は、夜間を除いて3時間ごとにアイシングを繰り返すと、介入群の方が機能回復(LEFS[中丸ら.2014])の変化が大きく、回復までの期間も介入群で平均34.6日、対照群で平均43.8日と短い結果が観察されましたが、有意差は得られなかった研究があります。VASの変化に関しては介入群も対象群もほとんど差がありませんでした。
これはサンプルサイズの小ささ(19人の被験者が介入群と対照群のいずれかに無作為に割り振られた)の影響を受けているため、この研究から結論を出すことはできません。今回の研究の例では回復率の10%の差を検出するために396名の被験者が必要になります。

つまりこのパターンでのアイシングの使用はあくまで、運動のしやすさを高めるために短期的鎮痛を起こすためのアイシングを行うことができるだけであり、アイシングを過剰に推奨する理由にはなりません。

運動とアイシングの併用に関する研究はいくつかあります。
運動療法(痛みのないROMで足首を積極的に動かす)とアイシング併用では、は温熱療法に比べて腫れの軽減効果が大きいことが報告されています[Coté DJ et al.,1988]。
ただしこれが回復を早める根拠にはならないこと、そしてアイシングの併用がより高い効果を持つことを意味しているわけではないことに中が必要です。

アイシング(10分間のアイシング、10分間の安静、1日3回を1週間)と早期の運動の組み合わせは短期的な機能(Lower extremity functional scale)回復が通常のPRICE処置より良好でした[Bleakley C et al.,2010]。

ハムストリングスに対するアイシングは10分間行った場合、短期的にはシャトルランと垂直跳びのパフォーマンスを低下させますが、3分間では低下しません。これはアイシングによる筋温の低下が3分間では生じなかったと予想されています[Fischer J et al.,2009]。

アイシングをする場合はいくつかの変数を考慮する必要があると考えられます。

部位:皮下脂肪の厚さや、表層に他の組織があるかどうかでアイシングの影響が到達するまでの時間に差が出ます。
②個人差:人によって皮下脂肪の厚さや筋の分厚さには差があります。より脂肪層が厚くなりやすい部位ではより注意が必要です。
③損傷部位:損傷した組織の深度はアイシングの影響が到達するまでの時間に差を出します。ただし損傷部位の深度は画像検査でなければ正確に捉えることはできません。
④目的:アイシングは組織の温度、代謝、炎症、痛み、循環、組織の硬さ、筋の痙攣、遅発性筋痛の症状を抑えるために一般的に使用されます。また今回説明したように、誘発性(Valence)を低下させる、選手や患者が特に高い注意(salience)を払っていることへの意識を減らす、特定の動作への自己所有性(Minenes)を高めるためにも使うことができます。
これらの目的に応じてアイシングの影響を及ぼす必要のある深度が変わり、それに応じてアイシングの時間は変わります。
⑤状況:試合中など時間に余裕がない状況と時間に余裕がある状況ではアイシングに用いることができる時間に影響し、使える時間に応じてアイシングが変更されます。
⑥反応:アイシングに対する感覚や組織的な反応でアイシングを継続するかどうかを変更します。

(これらの項目は経験則や知識に基づいて作成しています)

アイシングによって起こる事象の蓋然性はいかんせん掴めないため、課題はそれぞれの変数がアイシング時間にどの程度影響するかが明確ではないことです。

例えば目的が運動介入するための一時的な鎮痛であるのなら、回復が少しでも遅れるリスクを軽減するために3~5分程度のアイシングで十分だと思われます。
これはハムストリングスの研究に基づいているため、足関節捻挫になると、さらに短い時間の方がリスクは減ると思われます。
臨床では患者/選手に痛みの程度を随時聞くこともできるため、それもアイシング時間決定のために使うことができます。具体的には1分ほどアイシングした後、患部を動かしてもらい痛みが軽減していれば、アイシングを継続したまま、その場で運動介入を組み込むことができます。

同じように鎮痛目的でアイシングを用いる場合であっても、単に強い痛みを一時的に抑える目的の場合はより長い時間が必要だと思われます。この時は同時に、回復が遅れるリスクが上がります。つまり鎮痛と回復はこの場合ではトレードオフの関係になります。

別の目的でアイシングを行う場合は、利点がない可能性は十分あり、害の方が強くなる可能性が高くなります。

余談ですが、Twitterで1回当たり平均何分アイシングをしているか聞いてみました。Twitterなので話半分でみたほうが良い(私自身Twitterのアンケートにまともに答えたことがないので適当票がかなりある前提で見た方が良いと思います)ですが、累計365票で10/20分アイシング をするという方が多いように見えます。

参考文献

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