脊柱の弯曲は様々な骨格筋系疾患に対して介入の対象にされてきました。
しかしどの介入が効果的か、どれだけの効果量があるかは不明なままでした。
「Effects of exercise programs on kyphosis and lordosis angle: A systematic review and meta-analysis」では運動プログラムが脊柱の弯曲を変化させられるか調査されました[1]。
これは矢状面上の脊柱の弯曲角度に対する運動の効果を分析した初めてのA systematic review and meta-analysisのようです。
【用語解説】
・系統的レビュー(Systematic review)
関連する研究を特定し、選択し、批判的に評価するために体系的かつ明確な方法を用いた、明確に定式化された疑問についてのレビューです。
・メタ分析(Meta-analysis)
システマティックレビューにおいて、含まれる研究の結果を統合するために統計的手法を用いることです。そのためメタアナリシスは、systematic reviewの一部です。
胸椎過後弯とは?
胸椎の後弯が40°を超えると胸椎過後弯(Hyperkyphosis)と呼ばれ、発症率は20-50歳の38%であるため高齢者でなくても一般的です[2]。
ただしこの研究では40°〜45°以上の間で定義に微妙な違いがあります[1]。
姿勢に対する運動プログラムの効果
レビューに含まれた運動プログラムの平均期間は12.5±8.5週、平均頻度は週3±1.2セッションで、1セッションあたり51.88±15.1分でした。
含まれた運動の種類はストレッチングとストレングストレーニング、低負荷の有酸素運動、ピラティスなどです。
7報の研究が胸椎後弯角を測定し、6報は運動プログラム後に角度の有意な改善を示し、1報は変化を示しませんでした。

【用語解説】
・標準化平均差(SMD:Standardized mean difference)
複数の研究において、同じ構成要素を測定するために異なるツールが使われている場合は効果量を表すためにメタアナリシスにおいてSMDが用いられることがあります。
SMDはもともとの測定単位ではなく、標準偏差の単位として介入効果を表すため直感的にどれだけの効果量があるか分かりにくいです。そのため以下のような簡易的な解釈方法もあります。
・0.2は、小さい効果を表わす。
・0.5は、中等度の効果を表わす。
・0.8は、大きい効果を表わす。
腰椎前弯角を評価した研究は4つあり、この内2件では運動プログラム後に角度の有意な改善がみられ、全てを統合すると効果量は中等度ですが有意な改善はみられませんでした(SMD = -0.530 (95% CI-1.760 a -0.700), p = 0.401)。
臨床的意義
このメタ分析の目的は、胸椎後弯と腰椎前弯角度に対する運動の影響を判断することでした。
結果として胸部後弯を改善する運動には統計的に有意な大きな効果がありましたが、腰椎前弯に対する運動の有意な効果はありませんでした。
興味深いことに運動プログラム後に有意な変化を示さなかったただ1つの研究では、ストレングストレーニングを行わずにストレッチングプログラムのみを適用していました。そのため姿勢を変化させるにはストレッチングよりも、ストレングストレーニングの方が優れている可能性があります。
ただしストレッチのみの研究はハムストリングのストレッチを片側3回×20秒、3日/週、12週間行っており、胸椎に直接的なアプローチを行っていなかったのも変化しなかった一因かもしれません。
また腰椎前弯に対する介入では改善がみられなかった研では、ストレッチングかトレングストレーニングのみをプログラムに取り入れていたため腰椎前弯を変化させるにはストレッチングとトレングストレーニングの組み合わせが必要だと思われます。
矢状面上の脊椎弯曲を変化させるには、8〜12週間の間、週に2〜3回のセッションの頻度が推奨されました。
今回の文献を通して次に目を通したい文献は?
効果があると報告された文献で具体的にどのような介入が行われていたか確認したい。
胸椎後弯:30,32 34–37
・The efficiency of corrective exercise interventions on thoracic hyper-kyphosis angle.
・Comparison of manual therapy and exercise therapy for postural hyperkyphosis: A randomized clinical trial.
・Effects of Corrective Exercise for Thoracic Hyperkyphosis on Posture, Balance, and Well-Being in Older Women: A Double-Blind, Group-Matched Design.
・ Change in pressure expiratory with the use of the method Pilates in adult women with hyperkyphosis.
・Sex differences in response to targeted kyphosis specific exercise and posture training in community-dwelling older adults: a randomized controlled trial.
・Targeted spine strengthening exercise and posture training program to reduce hyperkyphosis in older adults: results from the study of hyperkyphosis, exercise, and function (SHEAF) randomized controlled trial.
腰椎前弯:31,33
・Effects of William training on lumbosacral muscles function, lumbar curve and pain.
・The effect of stabilization exercises on lumbar lordosis in patients with low back pain.
[2]Withers RA, Plesh CR, Skelton DA. Does stretching of anterior structures alone, or in combination with strengthening of posterior structures, decrease hyperkyphosis and improve posture in adults? A Systematic Review and Meta-analysis. J Frailty Sarcopenia Falls. 2023 Sep 1;8(3):174-187. doi: 10.22540/JFSF-08-174. PMID: 37663159; PMCID: PMC10472040.