棘上筋は、回旋筋腱板(rotator cuff)を構成する4つの筋(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の 1 つです[1]。cuffは袖口を意味します。肩甲骨から上腕骨に向かい、肩関節を取り囲むように、三角筋、棘上筋、棘下筋、小円筋、大円筋、肩甲下筋の6つの筋が集まっています。棘上筋、棘下筋、小円筋の3つは肩甲骨の後面から伸びて、上腕骨の大結節に停止します。これらの筋の上腕骨付着部は三角筋の下に隠れています。

起始

肩甲骨の棘上窩(supraspinous fossa)。棘上窩の近位2/3と表記されることもあります。起始部は僧帽筋に覆われており、筋繊維は肩峰の下を外方向に通過します。

停止

上腕骨の大結節(greater tubercle)。特にGreater tubercleに停止します。停止部では棘下筋や烏口上腕靭帯と繊維が混ざるため境界は明確ではありません。

支配神経

肩甲上神経(Suprascapular nerve) (C5,6)。肩甲上神経は棘上筋の他に棘下筋や肩鎖関節、肩関節を支配します。この神経は腕神経叢(brachial plexus)の上神経幹(superior trunk)から発生し、後頸三角(posterior triangle)を外方向に通過し、肩甲骨の上縁(superior border)にある肩甲切痕(scapular notch)を通過し棘上筋を支配します。この部位で絞扼や伸張による負荷を受けると棘上筋や棘下筋の筋力低下を生じさせます。棘上筋を支配した後は肩甲棘の外側にある棘上窩と棘下窩を連絡させる棘窩切痕(spinoglenoid notch)を通過し棘下筋を支配します。ここで神経が障害された場合は棘上筋の筋力低下は生じず、棘下筋の筋力低下のみ生じます。
肩甲上神経は血管よりも深い面を走行します[2]。

栄養血管

肩甲上動脈(Suprascapular Artery)。肩甲上動脈は鎖骨下動脈(subclavian artery)のから出る甲状頚動脈(thyrocervical trunk)の枝です。また肩甲背動脈(dorsal scapular artery)からも栄養されることがあります。上肩甲横靭帯(STSL:superior transverse scapular ligament)に近づくと浅枝(superficial branche)を出し、僧帽筋や舌骨筋などの周囲の筋に供給します。肩峰枝(acromial branche)は棘上筋の上で肩鎖関節 ACJ)に向かって伸びています。その後動脈はSTSLの上を通っています。この辺りから肩甲上神経と一緒に走行します[2]。

作用

上腕骨の外転、関節窩での上腕骨頭の安定化。特に外転の最初の15 度の主動筋とされています。肩外転のスターティングマッスルと表記されていることがありますが不適切です。
棘上筋は肩を袖口のように囲うローテーターカフの中でも上部に位置するため上肢が重力によって下向きに引っ張られる際に抵抗する役割も持っています。

隣接構造

肩峰下滑液包

肩峰下滑液包(subacromial bursa)は、烏口肩峰靭帯の下にある大きな滑液包で、上層は烏口肩峰靭帯に付着しており、下層は棘上筋の腱に付着しています[1]。

ローテーターインターバル

肩関節の前上方には肩甲下筋と棘上筋の間には烏口突起を頂点とするローテーターインターバル(rotator interval)と呼ばれる三角形の間隙があります[2][3]。ローテーターインターバルは筋がありませんが、烏口上腕靭帯や上関節上腕靭帯、上腕二頭筋長頭腱が通過します。
関節鏡で観察すると、棘上筋腱のすぐ下に上腕二頭筋腱があり、この腱と肩甲下筋の間に関節包の薄い弱い部分があります[2]。

ローテーターケーブル

ローテーターケーブル(rotator cable)は大結節から小結節にまたがっています。後方では、棘下筋と小円筋の付着部の間の大結節から生じ、結節間溝の外側縁で烏口上腕靭帯と上腕骨横靭帯に合流し、上腕二頭筋長頭を覆っています[3]。

結節間溝

結節間溝(bicipital groove/bicipital groove)は、上腕二頭筋長頭が通る深さ約4mmの溝です[3]。上腕二頭筋腱の結節間溝での安定性は棘上筋と肩甲下筋の付着部位が形成する支持体によってもたらされます。この構造は、上関節上腕靱帯と烏口上腕骨靱帯によっても保持されています。

上腕骨頭の嚢腫

上腕骨頭の一般的な所見は、棘上筋腱と棘下筋腱の挿入部位の背側に位置する嚢腫(humeral head cysts)です[3]。この部位の上腕骨頭嚢腫は加齢や腱板断裂とは無関係です[3]。

烏口上腕靭帯

烏口上腕靭帯(Coracohumeral Ligament)は2本のスリングからなり、1本は結節間溝の前方スリング(anterior sling)を形成して肩甲下筋膜(supraspinatus fascia)に食い込み、もう1本は後方のスリング(posterior sling)を形成して棘上筋膜(subscapularis fascia)に食い込みます。後方のスリングは棘上筋線維と棘下筋線維に直交します。

関連疾患

最も一般的に断裂する回旋筋腱板とされてきました。最近では以前言われていたよりも後方(棘上筋と棘下筋が重なるところ)の損傷が多いとも言われています。腱板の損傷は、肩関節の動きに悪影響を及ぼし、特に棘上筋は作用から外転筋力を低下させます。腱板断裂で筋力低下を呈さない人もいます。従来は腱板断裂は肩峰下インピンジメントによって生じると考えられていましたが、腱板断裂は上面(滑液胞面)より下面(関節面)の方が頻度が高いため一般的なメカニズムではないようです。上腕骨停止部の近位約1cmの血管が減少していることも機序の1つとして挙げられています[1]。

検査

Neer’s impingement test

Neer’s impingement testは上腕の屈曲時の腱板(主に棘上筋)による烏口肩峰下弓のインピンジメントを評価するとされています[2]。このテストでは、片方の手で患者の腕を屈曲(内旋を指示するものもある)させ、もう片方の手で肩甲骨を安定させます。陽性所見は屈曲時の肩前部の痛みです。
ただしこのテストの解剖学的妥当性はありません。

External Rotation Lag Sign

片方の手で肘を把持し肘を90°屈曲させた状態で、もう片方の手で肩を外旋させます。肘を90°屈曲させた状態で上腕を外旋させ、その状態を保持させます。患者が外旋を維持できない場合、検査陽性となります。
棘上筋と棘下筋の病態を示すために行われます[2]が主な外旋筋は棘下筋と小円筋です。そのため棘上筋の検査法とは言えません。

Whipple Test

このテストは、患者が座った状態でも立った状態でも行うことができ、特に棘上筋腱前部の部分断裂に対して高い特異性を持ちます[2]。肩を90°屈曲させた状態で、もう片方の肩に向かって過内転させます。患者の腕に下向きの圧力をかけます。陽性所見は肩の痛みと腕の降下です。

Jobe Sign

棘上筋腱の筋力低下またはインピンジメントの検査とされています[2]。上腕を外転90°、屈曲30°にし、肘は内旋して屈曲させます。腕に下向きの圧力をかけ、患者にその圧力に抵抗するように指示します。陽性所見は痛みや脱力です。

 

参考文献
[1]Sinnatamby, C. S. (2011). Last's anatomy: Regional and Applied. Churchill Livingstone. [2]SPRINGER INTERNATIONAL PU. (2018). Clinical anatomy of the shoulder: An atlas. [3]Bain, G. I., Itoi, E., Giacomo, D. G., & Sugaya, H. (2017). Normal and pathological anatomy of the shoulder. Springer Berlin.

Twitterでフォローしよう