肩甲下筋断裂
肩甲下筋はかつて「忘れられた腱(forgotten tendon)」、この腱の断裂は「隠れた病変(hidden lesions)」と呼ばれていました[3]。
一般的には、棘上筋前部の断裂とローテーターインターバルを損なう肩甲下筋断裂や、ローテーターカフの広範囲断裂に伴う肩甲下筋断裂を呈する患者が多く、単独損傷(Isolated tear)の場合、しばしば外傷性断裂であり、上腕骨脱臼と関連している可能性があります。
上腕二頭筋腱の病変は肩甲下筋断裂と密接な関係にあります。肩甲下筋断裂の20-90%が上腕二頭筋腱の病態を伴うとされており、上腕二頭筋腱の評価もする必要があり、また、後上方ローテーターカフと肩鎖関節の評価も必要です。
腱板断裂の27.4%は肩甲下筋断裂を含むと推定されていますが、肩甲下筋単独断裂は腱板断裂全体のわずか6.4%~10%です[2]。
肩甲下筋断裂のほとんどは、少なくとも棘上筋前部の断裂と組み合わせて発生するためAnterosuperior tearという用語が使用されることもあります。
肩甲下筋断裂の病歴・所見
肩甲下筋断裂は、外傷性断裂よりも緩やかな変性による断裂の方がはるかに多いため、明確な誘因となる出来事を示さないことがあります。
患者は肩の前面の痛みを訴えることがありますが、この痛みは肩甲下筋病変特異的なものではなく、上腕二頭筋・肩鎖関節・SLAP損傷から生じることもあります。
結滞動作やそれに近い動作(背中のシャツをたくし上げたり、ブラジャーのストラップを締めたりする)のような内旋を必要とする動作で起こる脱力感の訴えは、肩甲下筋病変に特異的である可能性があります。
また両手で箱を体の前で持つなど、内側に押す動作が困難な場合も、肩甲下筋の障害を示唆している可能性があります。
肩関節前方脱臼後の筋力低下を伴う40歳以上の患者を評価する際には、肩甲下筋疾患を強く疑います。
同様に、上腕二頭筋長頭疾患を有する患者や、疼痛が前方に感じられる場合には、肩甲下筋を注意深く評価します。
肩甲下筋断裂の検査法
肩甲下筋腱断裂は、肩の受動的外旋の増加につながります。
両肩の受動的外旋を同時に評価し、患側で大があるかどうかを判断することで評価できます。
肩甲下筋病変の検査法には以下のものがあります。
・Internal rotation lag sign
・リフトオフテスト
・ベリーオフサイン
・ベリープレステスト
・ベアハグテスト
上腕二頭筋長頭腱との関係
肩甲下筋と上腕二頭筋長頭腱は密接な関係にあります。
肩甲下筋腱上縁は上腕二頭筋溝の底となり、棘上筋線維と相互接続しています。
肩甲下筋断裂が確認された患者において、上腕二頭筋疾患の併発は少なくとも20-90%であると報告されており、断裂の大きさが大きくなるほど上腕二頭筋病変の頻度も高くなります[3]。
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[2]Goldberg, D. B., Tamate, T. M., Hasegawa, M., Kane, T. J. K., 4th, You, J. S., & Crawford, S. N. (2022). Literature Review of Subscapularis Tear, Associated injuries, and the Available Treatment Options. Hawai'i journal of health & social welfare, 81(3 Suppl 1), 2–7.
[3]Lee, Julia & Shukla, Dave & Sánchez-Sotelo, Joaquín. (2018). Subscapularis tears: hidden and forgotten no more. JSES Open Access. 2. 10.1016/j.jses.2017.11.006.