棘上筋が肩外転のStarting Muscle(外転を開始する)作用がある、または「外転の開始筋(The initiator of abduction)」であるという記述は時々目にします。
Starting Muscleという表現からは棘上筋が最初に働く、他の筋とは分離して独立して働くような印象を受けます。

しかし棘上筋が外転のStarting Muscleであるという主張は棘上筋が外転運動の開始に先立って活性化されることを示す直接的な証拠がないまま言われてきたようです。

2012年にJournal of Electromyography and Kinesiologyに掲載された「Does supraspinatus initiate shoulder abduction?(直訳:棘上筋は肩の外転を開始しますか?)」では棘上筋が肩関節外転を開始するかどうかを調査しました。

【用語解説】
・棘上筋
棘上筋は、回旋筋腱板(rotator cuff)を構成する4つの筋(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の 1 つです。
起始:肩甲骨の棘上窩(Supraspinous fossa)
停止:上腕骨の大結節(Greater tubercle)
支配神経:肩甲上神経(Suprascapular nerve)); C5,6
作用:上腕骨の外転、関節窩での上腕骨頭の安定化
血液供給:肩甲上動脈(Suprascapular Artery)
・Journal of Electromyography and Kinesiology
Journal of Electromyography and Kinesiologyは運動の制御、筋疲労、筋と神経の特性、関節バイオメカニクス、電気刺激など、筋電図と運動学の全分野における研究を掲載することに専念しています。
(IF: 2.37; Q4)

棘上筋は外転のStarting Muscleか?

この研究では利き腕の肩周囲7つの筋(三角筋・棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・僧帽筋上部繊維・僧帽筋下部繊維・前鋸筋)から活動が記録されました。
その結果、テストされたすべての筋は、運動が始まる前に活性化されました。
この中で肩甲下筋だけほんの少し活動タイミングが遅く、棘上筋、棘下筋、三角筋中部、僧帽筋上部より平均0.08秒有意に遅れて活性化されることが明らかになりました。

この結果は、外転の開始時に棘上筋が単独で活性化しないことを明らかに示しています。
したがって、棘上筋を外転の開始筋(initiator of abduction)またはStarting Muscleと呼ぶのは誤解を招きます。
解剖学の書籍には、肩の外転が棘上筋単独によって開始されるのではなく、複雑で調整された方法で肩の筋グループによって開始されるという事実を反映する必要があります。

臨床的意義

とはいえ、フォースカップルの三角筋と棘上筋の関係を臨床応用しようとする人は珍しくありませんが、Starting Muscleを臨床応用しようとする人はそこまで多く見かけない印象です。
そのため多くの人にとってはこの情報が臨床を変えることはないと思われますが、たまにStarting Muscleの観点から棘上筋の活動が遅れるとインピンジメントが起きると考える人もいます。

このような臨床思考をしているか、これからしようとしていた人にとっては考え直すきっかけの知識になります。

今回の文献を通して次に目を通したい文献は?

「The preferable shoulder position can isolate supraspinatus activity superior to the classic empty can test: an electromyographic study」

 

参考文献
[1]Reed, D., Cathers, I., Halaki, M., & Ginn, K. (2013). Does supraspinatus initiate shoulder abduction?. Journal of electromyography and kinesiology : official journal of the International Society of Electrophysiological Kinesiology, 23(2), 425–429. https://doi.org/10.1016/j.jelekin.2012.11.008

Twitterでフォローしよう