弱さが強調されやすい仙腸関節

臨床家として現場に出ていると,仙腸関節が脆弱な構造であるという認識が広く浸透しているように感じる.これは骨格筋痛治療において,過度に骨盤が注目される時代があったことが影響しているかもしれない.
理学療法界隈では仙腸関節機能障害,カイロプラクティック界隈ではサブラクセーション,接骨院界隈では骨盤の歪みなどといった用語を用いて仙腸関節を悪者扱いしてきた.

その結果,「仙腸関節は弱い」という誤解が広まり,不安を抱え,必要のない治療を求める患者さんを見かけるようになったのだろうと思う.
今必要なのは,仙腸関節は強い認識を広めることである.

せん断力に対する仙腸関節の安定化

球関節と比較すると平面関節は隣接する骨に対して変位しやすい(図1).

図1.せん断力に対する平面関節と球関節の違い

仙腸関節も平面関節に分類されるため,この知識は仙腸関節が動きやすいと想像させ,脆弱性を連想することに繋がっているかも知れない(図2).

図2.平面関節の仙腸関節

このような変位を防ぐため,通常,平面関節は靱帯によって補強されている.仙腸関節も同様であるが,これだけではない.
仙腸関節では体の中で最も強い靱帯(図3)に加えて,仙腸関節の圧縮によってせん断力を相殺していると考えられている.

図3.仙腸関節の靱帯

仙腸関節がせん断力に対抗するために2つの要素がある.
アーチ構造による荷重分散
仙腸関節はキーストーンのようなアーチ構造を持ち,この構造が上半身の重力を効率的に分散し,安定している(図4).

図4.せん断力に対する仙腸関節の安定化

②筋と靭帯の力
ここに筋や靭帯が関節面にほぼ垂直に力を加えることで,関節を圧縮する(図3).

この安定化メカニズムは「フォームクロージャーとフォースクロージャー(図5)」として説明されることもある[5].
・フォームクロージャー:骨格の構造自体が関節の安定性を提供する.
・フォースクロージャー:筋や靭帯の圧縮力が安定性を補完する.

図5.フォームクロージャーとフォースクロージャー

矢状面(前後方向)における仙腸関節の安定化

圧縮力が仙腸関節の安定性を高めるという仮説は,矢状面の動きにも適用される.
先ほどの仙腸関節を単純化した図2では,関節面を真っ直ぐな線で書いたが,実際はプロペラの羽根の形に似たわずかなねじれが見られる(図6).
このねじれ構造が,前後への動きを制動する.

図6.仙腸関節のプロペラブレード様の関節面

さらに関節面は肩関節などの滑らかなものとは異なり,摩擦係数が高く,加えて面が隆起と窪みで凸凹しているため(図7),これらが噛み合うことで滑りに対する抵抗が強化されている[2][3].この隆起と窪みは互いによく適合している.

図7.腸骨側と仙骨側に見られる骨と軟骨の隆起と窪み

このような隆起は12歳の時点ですでに見られることが報告されている[2].
ここに圧縮力が加わることで,さらに関節の摩擦力が高まる.
実際に仙腸関節は2-3度程度動くが,荷重がかかった状態では関節がロックされ,平均0.2度程度まで可動域が低下する[4].

このように,摩擦係数の高い関節面,隆起と窪みの噛み合い,フォームクロージャー,フォースクロージャー,後仙腸靭帯などの体で最も強い靭帯によって仙腸関節は安定している.脆弱どころか強固な構造と言えるだろう.

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参考文献
[1]Snijders CJ, Vleeming A, Stoeckart R. Transfer of lumbosacral load to iliac bones and legs Part 1: Biomechanics of self-bracing of the sacroiliac joints and its significance for treatment and exercise. Clin Biomech (Bristol). 1993 Nov;8(6):285-94. doi: 10.1016/0268-0033(93)90002-Y. PMID: 23916048.[2]Vleeming A, Stoeckart R, Volkers AC, Snijders CJ. Relation between form and function in the sacroiliac joint. Part I: Clinical anatomical aspects. Spine (Phila Pa 1976). 1990 Feb;15(2):130-2. doi: 10.1097/00007632-199002000-00016. PMID: 2326706.[3]Vleeming A, Volkers AC, Snijders CJ, Stoeckart R. Relation between form and function in the sacroiliac joint. Part II: Biomechanical aspects. Spine (Phila Pa 1976). 1990 Feb;15(2):133-6. doi: 10.1097/00007632-199002000-00017. PMID: 2326707.[4]Sturesson B, Uden A, Vleeming A. A radiostereometric analysis of movements of the sacroiliac joints during the standing hip flexion test. Spine (Phila Pa 1976). 2000 Feb 1;25(3):364-8. doi: 10.1097/00007632-200002010-00018. PMID: 10703111.[5]Vleeming, Andry & Stoeckart, Rob. (2007). The role of the pelvic girdle in coupling the spine and the legs: A clinical-anatomical perspective on pelvic stability. Movement, Stability & Lumbopelvic Pain. 113-137. 10.1016/B978-044310178-6.50010-4.

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