肩関節内旋可動域の検査法は様々な方法が提案されています。
その中でも結滞動作と2ndポジションでの内旋は頻繁に用いられています。
肩関節の可動域検査は肩甲上腕関節と肩複合体の検査に分けられることがあり、内旋についても同様です。
一般的には肩甲骨を固定した状態で行う可動域検査は肩甲上腕関節の検査とされ、固定しない状態で行う可動域検査は肩複合体の検査とされます。
しかし内旋動作時の肩甲骨の動きは屈曲や外転ほど大きくありません。
肩甲骨の固定した場合と固定しない場合では可動域に大きな差は見られるのでしょうか?また肩甲上腕関節の内旋可動域を検査するにはどのように検査するのが適切でしょうか?
2ndポジションでの肩関節内旋可動域測定法
Awanらは3種類の肩関節内旋可動域測定法を比較しました[1]。
被験者:56人のアスリート、男性32人、女性24人、年齢範囲13–18歳
測定機器:デジタル傾斜計
全ての検査は仰臥位で2ndポジション、受動的に行われました。
検査法の特徴 | エンドレンジの判断 | |
固定なし内旋 | 肩甲骨を固定しない | 快適さとエンドフィール |
固定あり内旋 | 徒手的に肩甲骨を固定する (烏口突起と鎖骨に対して後方へ力を加える) |
快適さとエンドフィール |
固定なし内旋(目視) | 肩甲骨を固定しない | 目視(肩峰後外側がテーブルから浮き上がる) |
検査法による可動域の違い
右腕は左腕に比べて外旋可動域が大きく、内旋可動域は小さいようでした。
被験者の93%は右利きでした。
固定なしの内旋可動域の平均は91.2-99.5度でしたが、肩甲骨を固定した場合とエンドレンジの判断を目視にした場合は60.6-70.7度と20度以上の差がありました。
<右腕の受動的回旋可動域の比較>
平均(SD) | |
固定なしの外旋 | 115.4(12.0) |
固定なしの内旋 | 91.2(15.4) |
固定ありの内旋 | 63.2(11.8) |
固定なしの内旋(目視) | 60.6(10.9) |
<左腕の受動的回旋可動域の比較>
平均(SD) | |
固定なしの外旋 | 109.2(12.5) |
固定なしの内旋 | 99.5(13.0) |
固定ありの内旋 | 70.2(12.3) |
固定なしの内旋(目視) | 70.7(13.0) |
検査の信頼性はどの方法も高くありませんが、どの方法でも大きな差はありませんでした。
<右腕の受動的回旋可動域検査の信頼性(ICC)>
検者内信頼性 (Intrarater Reliability) |
検者間信頼性 (Interrater Reliability) |
|
固定なしの外旋 | .58 | .41 |
固定なしの内旋 | .71 | .62 |
固定ありの内旋 | .64 | .50 |
固定なしの内旋(目視) | .71 | .65 |
<左腕の受動的回旋可動域検査の信頼性(ICC)>
検者内信頼性 (Intrarater Reliability) |
検者間信頼性 (Interrater Reliability) |
|
固定なしの外旋 | .67 | .51 |
固定なしの内旋 | .64 | .66 |
固定ありの内旋 | .65 | .52 |
固定なしの内旋(目視) | .63 | .51 |
<信頼性の解釈>
0.00-0.20 | ごく軽度の一致 |
0.21-0.40 | 軽度の一致 |
0.41-0.60 | 中等度の一致 |
0.61-0.80 | 高度の一致 |
0.81-1.00 | ほぼ完全な一致 |
臨床的意義
肩甲骨を固定した場合と固定しない場合で可動域が大きく変わるということは、肩甲骨を固定した方が純粋な肩甲上腕関節の可動域を計測できている可能性があります。
同様の理由で肩甲骨を固定しない方が肩複合体全体の可動域を計測できている可能性があります。
しかし肩甲骨を固定しながら受動的に肩を内旋させ、傾斜計で角度を測定するには2人の検者が必要であり、臨床的には利用しにくいです。
エンドレンジの判断を目視にする場合は肩甲骨を固定した場合と同様に可動域が低くなり、1人で検査でき、信頼性も落ちないことから肩甲骨を固定せず、目視でエンドレンジの判断をするのが肩甲上腕関節の可動域法として優れていることが示唆されます。
したがって、2ndポジションでの内旋の検査法としては目視でエンドレンジを判断する固定なしの内旋が推奨できます。