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肩鎖関節痛とは?
肩鎖関節痛または肩鎖関節損傷は若い(20代)アスリートによく見られる肩の痛みの原因です。
男性は女性に比べ2-5倍の頻度で発生することが示唆されています[4]。
これは男性アスリートが参加するコンタクトスポーツの割合が高いに起因します。しかし、男子ラグビー選手は女子ラグビー選手よりも肩鎖関節関節損傷を被る可能性が3倍高かったため、男性アスリートの全体的な体格が大きく、攻撃的なプレーによって損傷の高さが説明される可能性があります。
ラグビー、レスリング、ホッケー、柔道、ラクロスの男子学生スポーツ選手は肩鎖関節損傷率が高く、女性ではラグビー選手で高くなります。またスポーツの他、重量挙げ、腕立て伏せ、ディップスなどでも生じることがあります[6]。
外傷のほか、変形性関節症やOsteolysisでも肩鎖関節痛は生じます[5]。
肩鎖関節痛に対する4つの検査法
Cadoganら(2013)は肩鎖関節痛の検査法として用いられるCross-body adduction test、O’Brien’s test、Hawkins-Kennedy test、肩鎖関節の圧痛及びいくつかの身体所見を調査しました[1]。
Cross-body adduction test
②肘関節を回内し、上腕を胸に交差させる(水平屈曲)。

陽性所見:上腕を胸で交差させると痛みが生じる。
Active Compression/O’Brien’s test
O’Brien testは関節唇損傷の検査法でもありますが、ここでは肩鎖関節の異常を検出する検査として用いられました。
①患者は上肢を 90° 屈曲します。
※図では検者は患者の前方に立っていますが、後方に立つバリエーションもあります。
②前腕を回内し母指を下方に向け、上肢は10-5°水平屈曲します。
③検者は下向きに力を加え、患者はこれに抵抗します。
④次に前腕を回外し、手掌を上に向け同様に検者は下向きに力を加え、患者はこれに抵抗します。

最初の操作で肩上部の痛みまたは肩鎖関節に局在する痛みが生じ、2 回目の操作では痛みが弱くなるか、痛みが消失する場合、検査は陽性となります。
Hawkins-Kennedy test
Hawkins-Kennedy testは肩インピンジメント症候群の検査として用いられますが、ここでは肩鎖関節の異常を検出する検査として用いられました。
②検者が上腕骨を内旋させる。

陽性所見:内旋時に痛みが生じると陽性とみなされる。
肩鎖関節の圧痛(Localised ACJ tenderness)
肩鎖関節の直接触診(触擦)し、触診時の痛みがあれば陽性とみなされます。
各検査の感度・特異度・陽性尤度比・陰性尤度比
被験者:153名、症状の持続期間の中央値は7週間。
包含基準:プライマリケア医のもとを初めて受診し、肩関節痛の新規エピソードがあり、口頭での指示に従うことができる患者が含まれました。この研究における肩関節痛の領域は広く、上腕の上部半分の領域も含まれました。
<肩関節痛の領域>
除外基準:肩関節周辺の骨折や脱臼の既往、頸椎からの関連痛、上肢の感覚障害や運動障害、肩や頸椎の手術歴、画像診断や注射の禁忌など
参照基準:リドカインを関節内に注入しPAR(positive anaesthetic response)は、偽陽性率を低下させ、痛みの組織起源の同定に関して高い特異性を得るために注射後の疼痛強度が80%以上減少した場合とされました。
疼痛強度の評価を何分以内に行うかの指定はありませんでした。手順の動画は参考文献[2]から見ることができます。
感度が最も高い検査はHawkins-Kennedy testで70%、特異度が最も高いのはO’Brien’s testで92%でした。
陽性尤度比が最も高い検査はO’Brien’s testで1.73、陰性尤度比が最も低いのはHawkins-Kennedy testで0.84でした。
感度 | 特異度 | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 | |
Cross-body adduction | 64% | 26% | 0.86 | 1.39 |
O’Brien’s test | 14% | 92% | 1.73 | 0.94 |
Hawkins-Kennedy test | 70% | 36% | 1.09 | 0.84 |
肩鎖関節の圧痛 | 36% | 73% | 1.37 | 0.87 |
4つの検査の組み合わせではCross-body adduction、O’Brien’s test、Hawkins-Kennedy test、肩鎖関節の圧痛の4/4陽性特異度は99%、陽性尤度比は5.70でした。1/4陽性の感度は96%、陰性尤度比は0.63でした。
感度 | 特異度 | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 | |
1/4陽性 | 96 | 7 | 1.03 | 0.63 |
2/4陽性 | 55 | 36 | 0.86 | 1.26 |
3/4陽性 | 30 | 81 | 1.57 | 0.87 |
4/4陽性 | 5 | 99 | 5.70 | 0.96 |
その他身体所見
その他身体所見で最も感度が高いのは「肘から下に関連痛はない」ことで偽陰性だった人がいないため感度は100%になりました。特異度が最も高い所見は「反復的な活動で発症」で特異度は90%、陽性尤度比は2.75でした。
最も陽性尤度比が高いのは「pROMで肩外旋90°で痛みなし」で尤度比は2.83でした。
感度 | 特異度 | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 | |
反復的な活動で発症 | 27% | 90% | 2.75 | 0.87 |
肘から下に関連痛はない | 100% | 18% | 1.22 | 0.00 |
肩鎖関節の肥厚または腫れ | 75% | 62% | 1.98 | 0.40 |
pROMで肩外転時痛みなし
|
36% | 86% | 2.55 | 0.74 |
pROMで肩外旋90°で痛みなし | 50% | 82% | 2.83 | 0.61 |
これらの所見の組み合わせでは、「1つ以上陽性」に対して偽陰性だった人がいないため感度は100%になりました。
「4つ以上陽性」の場合、特異度は95%で陽性尤度比は4.98でした。
5つ全て陽性の被験者はいませんでした。
感度 | 特異度 | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 | |
1つ以上陽性 | 100 | 7 | 1.08 | 0.00 |
2つ以上陽性 | 96 | 53 | 2.05 | 0.09 |
3つ以上陽性 | 55 | 83 | 3.25 | 0.55 |
4つ以上陽性 | 23 | 95 | 4.98 | 0.81 |
5つ以上陽性 | N/A | N/A | N/A | N/A |
臨床的意義
最も陽性尤度比が高いのはCross-body adduction、O’Brien’s test、Hawkins-Kennedy test、肩鎖関節の圧痛が全て陽性の時でしたが、条件が厳しく痛みを与える検査も多いため次に陽性尤度比が高い5つの身体所見の方が臨床では使いやすいかもしれません。
<肩鎖関節痛を特定・除外するためのガイド>
Waltonら(2004)も「O’Brien’s test」と「肩鎖関節の圧痛」を評価しています[3]。O’Brien’s testの結果は2つの研究間で類似していましたが、肩鎖関節の圧痛はCadoganら(2013)の報告では特異度の方が高いのに対して、Waltonら(2004)の報告では感度の方が高くかなりの差がありました。
<O’Brien’s testの比較>
感度 | 特異度 | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 | |
Cadogan(2013) | 14% | 92% | 1.73 | 0.94 |
Walton(2004) | 16% | 90% | 1.60 | 0.93 |
<肩鎖関節の圧痛の比較>
感度 | 特異度 | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 | |
Cadogan(2013) | 36% | 73% | 1.37 | 0.87 |
Walton(2004) | 96% | 10% | 1.07 | 0.40 |
この違いが何に起因するかは不明ですが、参照基準はCadoganら(2013)がリドカイン注射後肩の痛みが80%軽減されるというもので、Waltonら(2004)が50%軽減されることを基準としたなどの差が影響している可能性があります。
[2]Cadogan A, Laslett M, Hing WA, McNair PJ, Coates MH. A prospective study of shoulder pain in primary care: prevalence of imaged pathology and response to guided diagnostic blocks. BMC Musculoskelet Disord. 2011 May 28;12:119. doi: 10.1186/1471-2474-12-119. PMID: 21619663; PMCID: PMC3127806.
[3]Walton, J., Mahajan, S., Paxinos, A., Marshall, J., Bryant, C., Shnier, R., Quinn, R., & Murrell, G. A. (2004). Diagnostic values of tests for acromioclavicular joint pain. The Journal of bone and joint surgery. American volume, 86(4), 807–812. https://doi.org/10.2106/00004623-200404000-00021
[4]Pallis, M., Cameron, K. L., Svoboda, S. J., & Owens, B. D. (2012). Epidemiology of acromioclavicular joint injury in young athletes. The American journal of sports medicine, 40(9), 2072–2077. https://doi.org/10.1177/0363546512450162
[5]Mall, N. A., Foley, E., Chalmers, P. N., Cole, B. J., Romeo, A. A., & Bach, B. R., Jr (2013). Degenerative joint disease of the acromioclavicular joint: a review. The American journal of sports medicine, 41(11), 2684–2692. https://doi.org/10.1177/0363546513485359
[6]Chronopoulos, E., Kim, T. K., Park, H. B., Ashenbrenner, D., & McFarland, E. G. (2004). Diagnostic value of physical tests for isolated chronic acromioclavicular lesions. The American journal of sports medicine, 32(3), 655–661. https://doi.org/10.1177/0363546503261723
記事情報
- 公開日:2023/09/26
参考文献を除く本文:3148文字
参考文献を含む本文:4346文字
画像:4枚 - 最終更新日:2023/09/26
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