どのような治療でも症状が改善すると,医療従事者やそれを受けた患者さんは治療の功績を認めたくなる.
「試してみたら良くなったので,この治療には効果があります.」
このような経験は悪意も嘘偽りもない証言を生み出す.

なぜ,我々は効果がないものを誤って効果があると勘違いしてしまうのか,いくつか考えられる理由がある[1][2].

治療の効果がなくても,症状が改善する理由

治療を行うとまったく効果がない治療法でも,症状が改善することがよくある.その理由として考えられるものを以下にまとめる.

1.自然経過

疾患の症状はどのように治療されても,されなくても,慢性的で致命的な症状でなければ軽減するのが一般的である.時間の経過とともに自然に現れたり消えたりする疾患は,治療が効果的であったと誤って想定する機会を何度も与える.
ある治療法が有効であることを証明するためには,改善したとされる患者の数が,まったく治療を受けずに回復すると予想される数を上回っていること,あるいは早く回復することを示さなければならない.

人は「患者さんの自然経過を把握する能力」は低い可能性がある.

2.平均への回帰,症状の周期性

症状には通常浮き沈みがある.患者は症状の負担が平均よりも大きくなったときに医療を受けようとする.これにより治療の有無にかかわらず,その後の測定ではこれらの症状が純粋に統計的な理由で平均値に近づく(改善が見られる)可能性が高い.

3.プラセボ効果

暗示や期待などよって,効果のない治療を受けた患者さんはしばしば測定可能な緩和を経験する.暗示や期待には,白衣や自信のある態度・優しい触れ合い・看護師の笑顔・壁に飾られた卒業証書などが挙げられる.
プラセボの身体の状態に実際の変化をもたらすものもあれば,客観的な変化がないにもかかわらず患者さんの気分がよくなるような主観的な変化をもたらすものもある.

4.誤った要因

食生活の改善・睡眠時間の確保・運動量の増加・ストレスの軽減・他の科学的根拠に基づく治療など,他の健康的な行動が症状を改善することがある.

5.元の評価が間違っている

科学的に訓練された医師であっても診断や評価は確実ではない.また医師でないものが,勝手に診断のようなことをして患者さんに誤った情報を伝えることがある.
誤った診断の後,本来なら自然治癒するはずの病気が治癒したという証言を得ることがある.

6.カリスマ性

ニセ医学で成功する人は強力でカリスマ的な性格を持っていることがある.患者さんがこの救世主的な側面に振り回されるほど,心理的な高揚が起こる.

7.認知能力の限界

経験を知覚し,解釈し,記憶する能力には限界がある.我々は患者さんとしても医療者としても,ある種の入力を誤って処理することがある.
<患者の場合>
・客観的な改善が見られない場合でも,ニセ医学に強い心理的投資(努力・時間・お金など)をする人は自分が助けられたと思い込む.
・人は通常誰かが自分に良いことをしてくれたら,お返しをしなければならないと感じる.患者さんが医療者に対して感謝や信頼を感じている場合,その期待に応えたいという気持ちから,治療の成功を信じたり報告したりすることがある.
・疾患が治ってほしいという願望から,症状の改善が曖昧な場合でも治療が効果的だったと感じやすくなる.
・過去の経験や医療者への信頼感が,治療の成功を期待させることがある.その期待が外れると不快感を覚えるため,無意識に治療が効果的だったと信じる傾向が強まる.

<医療者の場合>
・特定の治療法を長く用いている場合,その治療の効果を再評価するたびに自分の判断が間違っている可能性を直視することになる.この不快感を避けるため,治療が成功したと信じる傾向が強まることがある.
・治療後,医療者が患者さんに期待を込めた質問や治療の成功を確認するように導く質問をすると,患者さんはその期待に沿った答えをする傾向がある.これにより,医療者と患者さんの間で「治療が成功した」という誤った認識が強化されることがある.

8.対話による症状緩和

医療自体に直接的な効果がなくても,患者さんと医療者のやり取りにより不安が軽減されることがある.このような心理的要因が,実際には治療の効果とは無関係であっても,患者さんが症状の改善を報告する理由になることがある.

まとめ

このような理由で,患者さんや医療従事者が特定の治療に効果があったと誤って認識する場合が多い.
治療効果を正確に評価するには経験則では不十分で,ランダム化とサンプルサイズの確保や対象群の設定など,計画的で厳密な科学的手法が必要である.

直接的な治療効果がなくても,患者さんが「良くなった」と感じることは重要である.しかし治療とは無関係な要因による改善を特定の治療の効果として誤って主張することは倫理的に問題がある.
医療従事者はこのような効果を適切に区別し,科学的根拠に基づいて治療を提供する責任を負う.
また自分の治療の効果を過信することなく,科学的な観点から疑問を持ち続ける姿勢が求められる.これにより,患者さんに対してより正確で信頼性の高い医療を提供することが可能となる.

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参考文献
[1]Farha, B. (2013). Pseudoscience and deception: The Smoke and Mirrors of Paranormal Claims.
[2]Hartman SE. Why do ineffective treatments seem helpful? A brief review. Chiropr Osteopat. 2009 Oct 12;17:10. doi: 10.1186/1746-1340-17-10. PMID: 19822008; PMCID: PMC2770065.

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