以前FHP(Forward head posture; 頭頸部前方位姿勢)は僧帽筋前縁の短縮位である検証結果が出たことを報告しました。


ニュートラル(A) | FHP(B) | 差(B-A) | |
僧帽筋前縁 | 22.5 cm | 20.5 cm | -2cm |
しかしFHPを有する人はRSP(Rounded shoulder posture)も同時に有していることがあり、RSP単独またはFHP+RSPは僧帽筋短縮位なのか、伸張位なのかが疑問として浮上しました。
ここではRSP単独が僧帽筋短縮位か伸張位かを3Dモデルで検証していきます。
巻き肩(RSP)とは?
矢状面の変化である頭部が過度に前方移動した姿勢は専門的にはFHP(Forward head posture; 頭頸部前方位姿勢)と呼ばれ、水平面上の変化である肩峰が過度に前方移動した姿勢はRSP(Rounded shoulder posture)と呼ばれます。
また矢状面の変化として胸椎が屈曲すると円背姿勢(Kyphosis posture)と呼ばれます。
恐らく猫背はFHPまたは/かつ円背姿勢のことを指しており、巻き肩はRSPのことを指していると思われます。

RSPはScapular indexを使って計測されます。
Scapular index={(烏口突起から胸骨上切痕の距離)/(肩峰角から胸椎の距離)}×100で求めることができます[1]。
僧帽筋とは?
僧帽筋は、頭蓋骨・脊柱・肩甲骨・鎖骨と広く付着するため頸部や肩甲帯の多くの動作に関与しています。
また僧帽筋は上部繊維・中部繊維・下部繊維に分けられます。文献によって中部繊維がどの範囲を指すのか異なることがあります。
僧帽筋の前縁は胸鎖乳突筋と鎖骨とともに後頸三角を構成します。


名称 | 僧帽筋(そうぼうきん) ・上部繊維 ・中部繊維 ・下部繊維 |
英語表記 | Trapezius muscle ・Descending part(superior fibers) ・Transverse part(middle fibers) ・Ascending part(inferior fibers): |
略称 | TM/ Trap |
起始 | ・上部繊維:上項線(Superior nuchal line)の内側3分の1、外後頭隆起(External occipital protuberance)、項靱帯(Nuchal ligament) ・中部繊維:T1~T4の棘突起(Spinous process)、棘上靱帯(Supraspinous ligament) ・下部繊維:T4~T12の棘突起(Spinous process)、棘上靱帯(Supraspinous ligament) |
停止 | ・上部繊維:鎖骨(Clavicle)外側3分の1 ・中部繊維:肩峰(Acromion)、肩甲棘(Spine) ・下部繊維:肩甲棘内側 |
支配神経 | 脊髄副神経(Accessory nerve) |
神経根/分節 | N/A |
作用 | ・上部繊維 肩甲胸郭関節:肩甲骨挙上 頸椎:同側側屈、伸展、対側回旋 ・中部繊維 肩甲胸郭関節:肩甲骨内転 ・下部繊維: 肩甲胸郭関節:肩甲骨を下内側に引く |
血液供給 | 後頭動脈(Occipital artery)、頸横動脈(Transverse cervical artery)、肩甲背動脈(Dorsal scapular artery) |
巻き肩(RSP)と僧帽筋の長さの関係を検証する
3Dモデルを使用して僧帽筋前縁と後縁にメジャーを沿わせることで長さの変化を測定しました。
FHPの時は鎖骨を固定していたため後縁の長さを測定しませんでしたが、RSPでは鎖骨が回転するため後縁の長さも評価しました。
ニュートラルはScapular index=76で測定し、RSPはScapular index=67で測定しました。
僧帽筋の長さは胸鎖乳突筋前縁の長さ21.0cmを基準とし、0.5cm刻みで測定しました。



巻き肩(RSP)は僧帽筋伸張位
結果としてニュートラルからRSPに肢位を変えることで僧帽筋前縁の長さが1.5cm、僧帽筋後縁が3.5cm長くなりました。僧帽筋後縁の伸張は僧帽筋中部繊維上縁の伸張でもあります。
ニュートラル(A) | RSP(B) | 差(B-A) | |
僧帽筋前縁 | 22.5 cm | 23.5 cm | 1.5 cm |
僧帽筋後縁 | 17.5 cm | 21.0 cm | 3.5 cm |
FHPとRSPが僧帽筋の長さに及ぼす影響は異なることが分かりました。
FHPが僧帽筋前縁の短縮位でRSPが伸張位であるためこの2つの肢位が組み合わさることで伸張度が打ち消され、FHPでは僧帽筋後縁の長さは変わらないため、FHPとRSPの組み合わせでは僧帽筋後縁が伸張すると考えられます。
古典的な姿勢の分類である上位交差症候群はFHPとRSPを伴った姿勢ですが、上位交差症候群では僧帽筋は短縮位であると考えています。しかし今回の検証ではFHPとRSPの組み合わせで短縮と伸張が組み合わされ、総合的に短縮位ではない可能性があります。
記事情報
- 公開日:2023/10/11
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画像:8枚 - 最終更新日:2023/10/11
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