腱板断裂患者の中には自力での挙上が困難となる仮性麻痺(Pseudoparalysis)を呈する患者さんがいます。
一方で断裂があるにも関わらず挙上が制限されない人もいます。
その理由を説明する説の1つにSuspension bridge modelがあります。
さらにSuspension bridge modelに関連してRotator cableとRotator crescentの構造はこの理由を説明するかもしれません。
Suspension bridge modelにおけるRotator cable
この部分が他の部分よりも硬く、厚いことからローテーターカフの応力の伝達において重要な役割を有している可能性があります。

Rotator cableとRotator crescent
Burkhartら(1993)は無傷で新鮮な検体(60歳から85歳)20点からこの構造を調査しました[1]。
この解剖学的に厚く硬い構造はRotator cable、その遠位にある三日月状の部分はRotator crescentと呼ばれと呼ばれました。
Rotator cableの前方は上腕二頭筋部まで、後方は棘下筋の下縁まで伸びています。

Rotator crescentの平均サイズは、41.35 mmx 14.08 mm、厚さは1.82 mmでした。
Rotator cableの平均幅は 12.05 mm、平均厚さは4.72 mmだったため、Rotator cableはRotator crescentの2.59 倍の厚みを持っています。


臨床的意義
Rotator cableもRotator crescentも解剖学の教科書に載っていないためこの構造のイメージはしにくいと思います。
より立体的な理解のためにこのような形状に関する研究は役に立ちます。
Rotator cableの厚さ(4.72 mm)とRotator crescentの厚さ(1.82 mm)は隣接構造であるにも関わらず大きな差がありました。また関節鏡検査ではRotator crescentに張力がかかっていないように見た目をしていたようです。
そのためRotator cableは応力伝達(stress transfer)し、Rotator crescentに対しては応力遮蔽(stress-shielding)され張力がほとんどかかっていない可能性が考えられます。
そのためRotator crescentの断裂は筋力低下や機能低下に小さな影響しか及ぼさず、機能面から考えると断裂の大きさよりも断裂の位置の方が重要です。
ここにRotator cableとRotator crescentの知識を組み合わせることでどの部分の断裂が機能に障害を与えるか理解することができます。

[2]Burkhart S. S. (1992). Fluoroscopic comparison of kinematic patterns in massive rotator cuff tears. A suspension bridge model. Clinical orthopaedics and related research, (284), 144–152.
記事情報
- 公開日:2023/10/02
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画像:5枚 - 最終更新日:2023/10/02
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