回旋筋腱板(Rotator cuff)は棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋から構成され、肩の動きに寄与するだけでなく、肩甲上腕関節の動的安定化をもたらします。

ローテーターカフを構成する腱同士の連結

Clarkら(1992)は無傷かつ死後20時間以内検体32点の肩(17-72歳)からローテーターカフの構造を調査しました。

ローテーターカフを構成する腱と烏口上腕靱帯は、上腕骨結節部とその周囲で 1 つの構造に結合していました。棘上筋腱と棘下筋腱は上腕骨停止部の約15mm近位で結合します。
この所見は他の報告とも一致します。
例えばNeerら(1992)は烏口上腕靱帯が棘上筋腱と肩甲下筋腱の両方に付着していると報告しています[2]。
<ローテーターカフを構成する腱同士の連結>

 

Ferrari(1990)は烏口上腕靱帯が後方では棘上筋へ、前方では肩甲下筋腱へ、外方では大結節と小結節へ、下方では上関節上腕靱帯へ付着していると報告しています[3]。
<烏口上腕靱帯・棘上筋・肩甲下筋の関係>

そのためどの程度かはわかりませんが、これらの構造は互いに動作時に影響しあっていると考えられます。例えば烏口上腕靱帯の拘縮時には肩甲下筋腱の動きは制限されるかもしれません。
拘縮肩(いわゆる五十肩)などで烏口上腕靱帯が拘縮すると通常外旋が制限されます。この制限は烏口上腕靱帯の走行を見れば想像できますが、しかし烏口上腕靱帯が内旋(結滞動作・2ndポジションでの内旋・3rdポジションでの内旋)する可能性があることが報告されています[4][5][6]。
このような一見直感に反するような制限は烏口上腕靱帯と周囲組織との複雑な相互作用が影響している可能性もあります。

棘上筋の基礎解剖学

英語表記:Supraspinatus muscle
略称:SSP/ SUPR
起始:肩甲骨の棘上窩(Supraspinous fossa)

停止:上腕骨の大結節(Greater tubercle)
支配神経:肩甲上神経(Suprascapular nerve)
神経根:C5,6
作用:上腕骨の外転、関節窩での上腕骨頭の安定化
血液供給:肩甲上動脈(Suprascapular Artery)

棘下筋の基礎解剖学

英語表記:Infraspinatus muscle
略称:ISP/ INFR
起始:肩甲骨の棘下窩(Infraspinous fossa)

停止:上腕骨の大結節(Greater tubercle)
支配神経:肩甲上神経(Suprascapular nerve)
神経根:C5,6
作用:上腕骨の外旋、関節窩での上腕骨頭の安定化
血液供給:肩甲上動脈(Suprascapular artery)、肩甲骨回旋動脈(Circumflex scapular artery)

肩甲下筋の基礎解剖学

英語表記:Subscapularis muscle
略称:SSC/ SBSC
起始:肩甲骨の肩甲下窩(Subscapular fossa)

停止:上腕骨の小結節(Lesser tubercle)
支配神経:上・下肩甲下神経(Upper and lower subscapular nerve)
神経根:C5,6
作用:肩関節の伸展・内旋、骨頭の安定化
血液供給:肩甲上動脈(Suprascapular artery)、腋窩動脈(Axillary artery)、肩甲下動脈(Subscapular artery)

烏口上腕靱帯の基礎解剖学

烏口上腕靱帯はローテーターインターバル(rotator cuff interval)の構成要素です。
英語表記:Coracohumeral ligament
略称:CHL

付着部(近位):肩甲骨烏口突起基部外側
付着部(遠位):上腕骨の大結節と小結節
備考:前方では肩甲下筋腱へ、外方では大結節と小結節へ、下方では上関節上腕靱帯へ付着しています。

 

 

棘上筋・肩甲下筋・上腕二頭筋腱の関係

肩甲下筋腱と棘上筋腱は結合して、上腕二頭筋腱が通過する結節間溝をより安定させます。Neerらは同様の説明を烏口上腕靱帯を中心とした視点から説明しています[2]。
<烏口上腕靱帯と上腕二頭筋の関係>
しかしClarkらはより詳細な解剖情報を提供しています。
棘上筋腱から腱性のスリップ(tendinous slip)が前外側に伸びて上腕二頭筋の通過する鞘の屋根を形成し、肩甲下筋腱の上方部が上腕二頭筋腱の下を通り、棘上筋腱からの線維と合流して鞘の床を形成します。
<肩甲下筋腱が鞘の床を形成する>
棘上筋は停止部の大結節からさらに外側に伸びて鞘の屋根を形成します。
これらの構造は上腕二頭筋を安定化させる役に立ちます。
<外側へ伸びて鞘の屋根を形成する棘上筋>
烏口上腕靱帯と関節包は、棘下筋腱と肩甲下筋腱の間の屋根の一部も形成します。
この時、烏口上腕靱帯は浅枝(Superficial branch)深枝(Deep branch)に分かれ、棘上筋を包み込みます。
<棘上筋を包み込む烏口上腕靱帯>

臨床的意義

ローテーターカフは構造的に連結しており、機能的に切り離すことはできません。
そのためそれぞれの筋や靱帯を独立した構造物として考えると誤った解釈をしてしまうリスクがあります。

前述したように、1つの構造体に拘縮があれば他の組織も制限されるかもしれませんし、他の構造体への介入は別の構造物まで影響が波及する可能性があります。しかし上記の情報からはどのような介入がどの範囲まで影響が広がるか予想することはできません。
例えば烏口上腕靱帯の拘縮による可動域制限に対して隣接する肩甲下筋や棘上筋にストレッチをして可動域制限が緩和するというような臨床応用の考え方は試す価値はありますが、論理的には飛躍しています。

このような知識は臨床に直接役立つ機会よりも臨床に関連する文献の内容を理解するのに役立ちます。

参考文献
[1]Clark, J. M., & Harryman, D. T., 2nd (1992). Tendons, ligaments, and capsule of the rotator cuff. Gross and microscopic anatomy. The Journal of bone and joint surgery. American volume, 74(5), 713–725.
[2]Neer, C. S., 2nd, Satterlee, C. C., Dalsey, R. M., & Flatow, E. L. (1992). The anatomy and potential effects of contracture of the coracohumeral ligament. Clinical orthopaedics and related research, (280), 182–185.
[3]Ferrari D. A. (1990). Capsular ligaments of the shoulder. Anatomical and functional study of the anterior superior capsule. The American journal of sports medicine, 18(1), 20–24. https://doi.org/10.1177/036354659001800103
[4]Lee, S. H., Choi, H. H., & Chang, M. C. (2022). Comparison Between Corticosteroid Injection Into Coracohumeral Ligament and Inferior Glenohumeral Capsule and Corticosteroid Injection Into Posterior Glenohumeral Recess in Adhesive Capsulitis: A Prospective Randomized Trial. Pain physician, 25(6), E787–E793.
[5]Koide M, Hamada J, Hagiwara Y, Kanazawa K, Suzuki K. A Thickened Coracohumeral Ligament and Superomedial Capsule Limit Internal Rotation of the Shoulder Joint: Report of Three Cases. Case Rep Orthop. 2016;2016:9384974. doi: 10.1155/2016/9384974. Epub 2016 Mar 30. PMID: 27123353; PMCID: PMC4829705.
[6]Hagiwara, Y., Sekiguchi, T., Ando, A., Kanazawa, K., Koide, M., Hamada, J., Yabe, Y., Yoshida, S., & Itoi, E. (2018). Effects of Arthroscopic Coracohumeral Ligament Release on Range of Motion for Patients with Frozen Shoulder. The open orthopaedics journal, 12, 373–379. https://doi.org/10.2174/1874325001812010373

 

記事情報

  • 公開日:2023/09/24
    参考文献を除く本文:1515文字
    参考文献を含む本文:2881文字
    画像:10枚
  • 最終更新日:2023/09/24
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