彼はEBM(Evidence Based Medicine)という名称が登場するずっと前から,科学的な姿勢を持ち,生涯のうちに数十の分野で研究を行い,500以上の研究を発表して脊椎の医療にEBMを導入する大きな原動力となった[1][2].
その中でも初期に発表した研究は,脊椎研究の歴史の中で最も有名な実験の一つとなっている.
彼はカテーテルを使って椎間板内圧を調べるという先駆的なアイデアを思いついた.棒グラフ上にさまざまな体位を描いたこの図は,現在数え切れないほどの文献に掲載されている.

脊椎研究の歴史の中で最も有名な実験の1つ.棒グラフは体位毎の椎間板にかかる圧力の高さを示している.この研究は主に前屈みの姿勢が腰に悪いという主張の根拠として用いられている.[3]
この論文は腰痛原因と腰痛管理指導に関する主張の根拠として誤って用いられている.
1.椎間板内圧が高い = 腰痛の原因という誤解
この研究では姿勢によって椎間板内圧が変化することが示され,特に座位や腰椎屈曲位での圧力上昇が強調された.このことが「座位や腰椎の屈曲位が負荷を増出させ,腰痛を引き起こす/腰痛を悪化させる原因である」という誤解を生みやすくした.
2.「特定の姿勢は絶対に避けるべき」「椎間板の圧力を減らせば腰痛が改善する」といった誤った指導
座位や腰椎屈曲位が腰痛の原因であるという誤解は,「特定の姿勢は絶対に避けるべき」という考えを生み,圧力を減らせば腰痛を治せると,さらなる単純化に繋がった.
このような誤解に関して,亡くなる少し前に表明された質疑が残されている[1].
質問:その実験は誤解されていますか?
はい.広く誤解されていました.そして、私自身もしばらく勘違いしていたかもしれません.
この実験は,椎間板が痛みの発生装置であり,生体力学的負荷の増加がより大きな痛みにつながるという証拠として誤解されてきました.
しかしこの研究は,体のさまざまな位置での正常な生理的負荷に対して腰椎がどのように反応するかを示したにすぎません.痛みが実際にどこから来るのかについては何も示していません.
腰痛の原因が分かると主張する医療者の根拠は,皮肉なことに,腰痛の原因が分からないと結論づけた研究者の研究に基づいている.
「私のキャリアの主な目標の1つは,非特異的腰痛の原因を特定することでした.そしてこの点で私は失敗しました.当時は腰痛の原因がわかりませんでしたし,今もわかりません.」
ーーAlf Nachemson, MD, PhD.
これに限らず腰痛は誤解の多い症状である.「腰痛について誰もが知っておくべき10の誤解と事実」では10の誤解を紹介している.