ここでは大腰筋(PM:Psoas Major)の機能解剖学をできる限り分かりやすく解説していきます。

大腰筋と言えばどんなイメージですか?

とにかく有名なイメージです!

そうですね。少し前に”過剰な"大腰筋(腸腰筋)信仰があった影響もあって一般においても知ってる人の多い知名度の高い筋です。
もう少し具体的なイメージはありますか?

腸骨筋と大腰筋と合わせて腸腰筋として扱われることが多いイメージです。

腸腰筋と呼ばれたり、IPMU(The iliopsoas musculotendinous unit)と呼ばれますね。停止部で共同腱となるので作用としては一部類似してきます。

今回はそんな大腰筋の基礎、臨床で活用しやすい機能解剖学を復讐していきましょー

よろしくお願いします!

大腰筋の起始停止・走行

大腰筋はどこに付着しているか分かりますか?

ん〜腰椎の前っ側って印象です

そうです!もう少し正確にみるとL5 / S1間椎間板を除いて、すべての腰椎横突起の前内側と、すべての腰椎椎体と椎間板の前面に付着しています[1]。(下図参照)
※参考文献がある情報の引用元は[ ]で省略し、番号に応じた文献を最後にまとめています。

全員が同じところに付着しているんですか?

いい質問です。筋の起始停止は人によって個人差があるので、全ての人がこの付着であるとは言えません。このような起始停止の情報は個人差を考えるとめちゃくちゃ細かく認識していると、勘違いの原因にもなり得るかと思います。

最近では解剖学的な個人差の研究がよくされていて、将来的には起始停止の個人差をType別に覚えるというのも当たり前になるかもしれませんね。

はぇ〜。覚えることが膨大になりそうです…
個人差があるってことは筋の作用も人によって違うのですか?

そうですね。筋の作用にも個人差が生まれる可能性があり、それがなんらかの障害の原因になる可能性もあり得るので今後の研究に期待ですね!
今回の大腰筋はそこまで作用に差が生まれないかも知れませんが、棘上筋の様に停止位置が少し前後するだけで作用が変わりそうな物もありますよね。

そんな…複雑すぎますね…

最初に大腰筋は腸骨筋と共同腱を作ると言いましたが、この腱が2つに別れている(Bifid tendon)ことがあったり[9]、もっとメジャーな話をすれば小腰筋は欠如しているのも珍しくないですよね。

まーでも全部覚える必要は必ずしもなくて、臨床に必要なところから徐々に覚えていったらいいと思います。

話を戻して…
先ほど「腰椎横突起の前面」と「腰椎椎間板の前内側面」に付着すると言いましたが、大腰筋の中でも横突起への付着は「Posterior attachments(この領域のことをTransverse Process Region)」といい、椎間板への付着は「Anterior attachments(この領域のことをVertebral Region)」と呼ばれます(下図参照)。

腰部からでた大腰筋は、下外側に向かっていき、骨盤(前方)の縁を跨いでさらに下降し、大腿骨の小転子に腸骨筋と共通腱を作り付着します。

大腰筋って「く」の字になってるせいか、作用がイメージしにくいんですよね…

本当に複雑です。横からみたら「く」の字で、前から見ても斜めに走行してます。
大腰筋を横から見た図はこんな感じになりますね。(下図参照)

こ、こんなに曲がってるんですね…

生体力学的な複雑さが考えられますね。

因みに大腰筋はL4 / L5レベルで最大断面積を持ちます。[2]
大腰筋の起始・停止・走行の要約
▶︎起始:「腰椎横突起の前内側」と「腰椎椎体と椎間板の前面」
▶︎停止:大腿骨「小転子」
▶︎走行:起始から下外側に向かい、骨盤(前方)の縁を跨いでさらに下降し小転子に向かう

大腰筋の作用

大腰筋の作用に関しては様々な説があります。

説?となるとはっきりわかっていることではないんですか?

明らからしい作用から、それはどうかな?って作用があります。
問題なのは個々人が好きに自分に都合のいい作用を採用して考えているところですね。

ところで大腰筋の作用ってどんな風に覚えていますか?

股関節の屈曲と…外旋もですか?

そうですね。
股関節の屈曲作用はあると思われます[3,5]。そして大腰筋の外旋、外転、内転の作用はおそらく軽度で変動性もあります[4]。

なんだか曖昧なんですね…
他の作用はありますか?

大腰筋は股関節の安定化作用も持っていると考えられています。大腰筋による寛骨臼への大腿骨頭の圧迫は股関節屈曲30度から45度あたりから減少します[5]。

Core Stability(体幹の安定性)の話でも大腰筋が出てくることがありますよね?ってことは大腰筋は腰部も安定化しているんですか?

そうです。大腰筋は脊柱の安定化にも役立つと考えられています。
椎間板内圧をあげる役割があると考えられています。

起始停止走行も複雑で、作用も複雑とは…厄介な筋ですね。

だから医療従事者に人気な筋なのかも知れませんね。複雑さを好む医療従事者もいますからね。

複雑さと言えば大腰筋が脊柱の弯曲に与える影響も少し複雑です。というのも腰椎の位置によって大腰筋が脊柱の弯曲に与える影響が変化するからです[8](下図参照)。脊柱が伸展位では伸展作用、屈曲位では屈曲作用が考えられます。
興味深いことに日本では長期的な座位姿勢により大腰筋が短縮して腰椎屈曲位になると主張する人がいますが、海外では長期的な座位姿勢により大腰筋が短縮して腰椎伸展位になると主張されることもあります。

大腰筋の触診

大腰筋は触れられると思いますか?

ん〜多くの先生が触診してるのを見かけるのでできる気がします

「大腰筋を触れることができるか?」は実際不明確な問題です。
それに触れられる根拠も触れられない根拠もないので、根拠がないことに関しては論理的に推測していく必要があります。

もし触れないのだとすると…みんなが触っている物ってなんだろう?

そういう疑問は大切ですね。
ここではその疑問に対する明確な答えは出せませんが、「触診できるか?」については一緒に考えていきましょう。

単に「大腰筋は触ることができるか?」を考えるにしても事前に考慮しなければいけないことがあります。

ほむ?なんでしょう?

「触れられるとはどういうことか?」です。

「触れられるとは?」って触って筋が凹んだらこれは触ってるってことじゃないんですか?

この議題について話すときそこのすり合わせは大切です。
というのも「大腰筋は触れられるか?」について話すと出てくる意見として「間接的には触れられる」というのがあります。
「間接的に」というのは例えば鼠蹊部より上部で大腰筋を触れようとすれば、皮膚から内臓や多くの結合組織(腹膜など)を経由する必要があるのですが、これらの組織を通して触れることを「間接的に」と表現する人がいます。本来全ての筋が間接的に触れているのですが、大腰筋は内臓を経由してるので"間接的に"が強調されているのだと思われます。

なるほど。単に触れると言ってもどこまでを触れられると認識するかは人によって違うのですね。

ですです。
例えばエコーで大腰筋が触れられるか観察しながら、指を腹部の後方へ押し進めていって、大腰筋が"もし仮に"凹んだからと言ってそれを触擦する側が感知できる(stiffnessを評価できる)とは限りませんしね。
で、感知できないと言っても、大腰筋に圧を加えることで痛みが生じるか確認したいだけなら、感知できる必要もなくなります。

つまり目的がなんであるか?によって「触れる」の意味合いが変わるってことなんですね。

そういうことです。ここを明確にするのがすり合わせであり、ディスカッションする上で最初にやっておくべきことです。

たまに見かける大腰筋が触れるかのディスカッションでそこが考慮されてるのは見たことない気がします…

ディスカッションというと論理的に話すとか根拠を持ってくるとかがフォーカスされやすいですけど、案外こういう論点を明確にする試みが欠けてると結局結論が出ないってことになりがちですね。

因みに先ほどエコーの話が出ましたが、エコーで有名な林先生は自身の著書の中で「鼠蹊靭帯より近位で大腰筋に触れるのは難しい」と述べています[6]。

鼠蹊靭帯よりも下方なら触れられるんですか?

スカルパ三角内で大腿動脈外方で触れられると述べてますね。股関節伸展位なら鶏卵大の膨隆が触診の手掛かりになると[6]。

この場合の触れられるはどういう意味なんでしょう?

推測にはなりますが、エコーの大先生でもあることからも大腰筋が圧で変形するレベルのことを述べているのだと思います。

で、ここで話したいのは「鼠蹊靭帯より上方で大腰筋を触れることはできるのか?」です。
ここでの「触れられる」は臨床的に価値のあるレベルで触れられるのか?です。

「臨床的に価値のある」とはどういう意味ですか?

・大腰筋病変を検査できる
・大腰筋のStiffness(剛性)を触知できる
ですね。

この時、「大腰筋の剛性(stiffness)を低下させられる」とか「触れたことによる鎮痛効果」は含まないんですか?徒手療法家はそれを目的に大腰筋に触れようとする様子が見られますけど。

剛性(Stiffness)の減少や鎮痛効果は大腰筋に触れたことによる変化か、その上部組織に触れたことによって生じたか分かりませんからね。腹部に心地よく触れたから剛性や疼痛が低下したのかも知れませんし、反対に腹部に強く触れたことによるDNIC(広汎性侵害抑制調節)[7]で疼痛レベルが下がったのかも知れません。

そう考えると、大腰筋に押圧して腰痛強度が低下したって報告も本当に大腰筋に触れたから起きた減少なのかわからないですね。

そうなんです。少し前の大腰筋神話(多くの腰痛の原因を大腰筋に求めたがる)はこういう考慮が少なかったのだと思います。

これが臨床を批判的に考えるってことですね!

そそ!それでここからは私の推測ですが、結論からいうと大腰筋は"鼠蹊部より上方で"触れられないと考えます。

なんでですか?

ポイントは「腔」と「大腰筋までの距離」です。「腹腔」と「管腔臓器」の「腔」です。
腔があるということはそれだけ圧が伝達しにくくなりますからね。
あとは、よく言われるように内臓を経由することによる皮膚から大腰筋までの距離です。これは個人差が大きい問題でもありますけどね。触知されたStiffnessは筋のStiffnessなのかどうか分からないという問題が出てきます。

なるほど。でもたまに大腰筋の収縮による滑走を触知できるって人もいませんか?あれは大腰筋を触れている証拠にならないですか?

その触れられた滑走は大腰筋の滑走か大腰筋に追従する結合組織の滑走か区別できないのでなんとも言えないですね。

そう考えると人体は複雑すぎますね…考えても考えても自分の思慮が足りない気がします。

それが大切なんだと思います。人体は複雑なので私たちが知っていることで厳密に説明できる現象はありませんし、どれだけ考えても考慮仕切れないことがあります。
分からないから考え続けることが大切なんだと思います。
なんらかの明確な結論を出したらそこで臨床家としては終わりだと思います。

触診を初め、臨床でよく見られるものを批判的に見直した記事もあるので興味がある方は是非ご覧ください。

大腰筋の徒手筋力検査

現在まで大腰筋に対する徒手筋力検査(MMT)は様々な手段が開発されましたが、ここでは1つ紹介します。

よろしくお願いします。

もし徒手筋力検査をするのが自分だけでない場合は事前に検査方法をすり合わせるのを忘れないようにしてくださいね。
大腰筋のMMT
▶︎患者は仰臥位になる
▶︎患者の股関節と膝関節を90度屈曲する
▶︎患者に「自分の方に脚を引いてください」と指示する
▶︎抵抗する

参考文献

[1]Bogduk N, Pearcy M, Hadfield G. Anatomy and biomechanics of psoas major. Clin Biomech (Bristol, Avon). 1992;7(2):109-119. doi:10.1016/0268-0033(92)90024-X
[2]Reid JG, Livingston LA, Pearsall DJ. The geometry of the psoas muscle as determined by magnetic resonance imaging. Arch Phys Med Rehabil. 1994;75(6):703-708. doi:10.1016/0003-9993(94)90199-6
[3]Nachemson A. Electromyographic studies on the vertebral portion of the psoas muscle; with special reference to its stabilizing function of the lumbar spine. Acta Orthop Scand. 1966;37(2):177-190. doi:10.3109/17453676608993277
[4]Keagy RD, Brumlik J, Bergan JL. Direct electromyography of the psoas major muscle in man. J Bone Joint Surg Am. 1966;48(7):1377-1382.
[5]Yoshio M, Murakami G, Sato T, Sato S, Noriyasu S. The function of the psoas major muscle: passive kinetics and morphological studies using donated cadavers. J Orthop Sci. 2002;7(2):199-207. doi:10.1007/s007760200034
[6]林典雄,運動療法のための 機能解剖学的触診技術 下肢・体幹,改訂第2版,メジカルビュー社,2012,141

[7]Campbell CM, France CR, Robinson ME, Logan HL, Geffken GR, Fillingim RB. Ethnic differences in diffuse noxious inhibitory controls. J Pain. 2008;9(8):759-766. doi:10.1016/j.jpain.2008.03.010
[8]Santaguida PL, McGill SM. The psoas major muscle: a three-dimensional geometric study. J Biomech. 1995;28(3):339-345. doi:10.1016/0021-9290(94)00064-b
[9]Crompton T, Lloyd C, Kokkinakis M, Norman-Taylor F. The prevalence of bifid iliopsoas tendon on MRI in children. J Child Orthop. 2014;8(4):333-336. doi:10.1007/s11832-014-0596-x

-note記事まとめ-

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