"非特異的腰痛"という用語はBPS modelを適用する立役者となる

非特異的腰痛は使用すべきではない?

臨床で出会うほとんどの腰痛は非特異的腰痛に分類されます。
非特異的腰痛とは「認識可能な既知の特異的病態に起因しない状態」であり、椎間板性腰痛・椎間関節性腰痛・筋筋膜性腰痛・仙腸関節性腰痛などの機械的原因と考えられる腰痛も含みます[1]。感染症・腫瘍・骨折・炎症性プロセス・神経根症などは「特定の病態に起因する」特異的腰痛に分類されます。

非特異的腰痛は一般的ですが、この表現を好まない人もおり、その理由として「腰痛の生物学的根拠を示すものでも、臨床的な意思決定に役立つものでもない」ことや「患者にとって馴染みがない」こと、「非特異的腰痛患者は均質な集団とみなされる(=病歴や所見からサブグループに分類されるべきである)」ことが挙げられています[2-6]。
このような指摘は恐らく妥当で、非特異的腰痛という用語は包括的であるため使い勝手が良いですが、包括的であるがために用語から得られる情報量は極めて少なく、どのような検査が必要か、何をターゲットにした治療が必要かの連想ができず、予後の予想も立ちません。
一方で、糖尿病という疾患名を考えて見ると、名前から検査で血糖値を測る必要性を認識でき、血糖値の管理が病状や予後に影響すると教えてくれるように、自動的に検査・治療を想起させます。
さらに疾患という患者の見方は、客観的にその人が異常を有することを保証する指標(糖尿病でいうところの血糖値)を提供します。

疾患(Disease):特徴的な症状や徴候によって示される、身体の一部、器官、またはシステムの正常な構造または機能からの逸脱または遮断[7]

非特異的腰痛はこうしてみると臨床における利点が疾患名と比べて劣っているように感じます。
それならばいっそ、非特異的腰痛と呼ぶのをやめて半ば無理矢理検査が不完全でも実用主義的に椎間板性腰痛・椎間関節性腰痛・筋筋膜性腰痛・仙腸関節性腰痛と呼んで仕舞った方が良いのかも知れません。

非特異的腰痛という名称の利点

疾患名で患者を割り振る営みは、大きな利点に付随して生物医学モデルに依存するしがらみとなります。
痛みを主訴とする疾患名を観察してみると客観的指標とすることができる生物医学的な正常からの逸脱によって定義されることに気が付きます。

腱板断裂は腱板構造の破綻を、外側上顆炎は外側上顆周囲組織の炎症あるいは変性、足関節捻挫は靱帯の損傷を、椎間板ヘルニアは椎間板の異常を表し、これらの構造を客観的に観察すれば疾患を有する証明となります。
このように疾患という概念を利用する場合、中心となるのは生物医学(物理と化学)であり、それ以外の要素は自動的に除外されます。
それ以外の要素とは例えば、疾患において認知は除外されており、腱板構造の破綻があれば患者がそれを問題視しておらず、治療を必要としていなくても、腱板断裂という疾患を有することになります。患者が嫌悪感を抱いていなくても、社会生活を問題なく送れても腱板断裂という疾患を有することになります。
認知も感情も患者の生活も疾患からは切り離されています。

この切り離す作業は医学を科学たらしめるために必要な処理である一方、疾患の観点から患者を割り振る習慣は我々を生物医学中心の臨床へ縛り付けます。
これは生物心理社会モデルの普及とは逆行しています。
医療において疾患を特定しなければならないという強迫めいた習慣は生物医学モデルの根強さと、生物医学モデルから抜け出すことができない難度を表しているのかも知れません。

このことから生物心理社会モデルを推進するためには、疾患という見方をしない方法が利用できると考えます。
非特異的腰痛の名称には前述した問題が指摘されており、実用上の問題はどうするのかという疑問が生じますが、このようなる批判は部分的に非特異的腰痛という名称を維持したまま解決できるはずです。
批判の1つである「非特異的腰痛患者は均質な集団とみなされる(=病歴や所見からサブグループに分類されるべきである)」は、例えばKeele STarT Back スクリーニングツール(以下SBST)を使用してLow risk群・Medium risk群・High risk群に分類できるように、疾患による分類しか方法はないわけではありません。
疾患名とは別のサブグループの作成は同時に「臨床的な意思決定に役立つものでもない」問題も解決します。
SBSTは4つの身体的因子に関する質問と5つの心理社会的因子に関する質問で構成されており、これら個別の質問に対する答えは臨床的な意思決定に寄与します。

SBSTの質問項目
1. ここ2週の間、腰痛が足のほうにも広がることがあった
2. ここ2週の間、肩や首にも痛みを感じることがあった
3. 腰痛のため、短い距離しか歩いていない
4. 最近2週間は、腰痛のため、いつもよりゆっくり着替えをした
5. 私のような体の状態の人は、体を動かし活動的であることは決して安全とはいえない
6. 心配事が心に浮かぶことが多かった
7. 私の腰痛はひどく、決して良くならないと思う
8. 以前は楽しめたことが、最近は楽しめない
9. 全体的に考えて、ここ2週の間に腰痛をどの程度愚わしく感じましたか ?

SBSTに限らず、The Fear Avoidance Beliefs Questionnaire(FABQ)でも、The Tampa Scale of KinesiophobiaでもPain Catastrophizing Scaleでも個々の質問項目は個別に意思決定に寄与します。

ただし、「腰痛の生物学的根拠を示さない」問題と「患者にとって馴染みがない」問題は非特異的腰痛のまま解決はできないかも知れません。
しかし腰痛の生物学的根拠を示さなければならないのはあくまで疾患的な見方であり、患者にとって馴染みがないのは従来使われていなかった用語を使用する上で必ず生じる問題であるため、この2つの問題は解決した方が良い問題ですが、解決しなければならない問題ではないと考えます。

まとめ

非特異的腰痛は腰痛の生物学的根拠を示さず、臨床的な意思決定に役立たず、患者にとって馴染みがなく、均質な集団とみなされる問題があります。
一方で生物医学モデルベースの名称ではないため、この用語を使用することで生物医学モデルに依存する見方から脱却できる可能性があります。

非特異的腰痛は確かに情報量が少ない点で改善の余地がありますが、情報量が少ないことで生物医学に偏ってないBPS model推進の立役者となる可能性があります。

参考文献
[1]Violante, F. S., Mattioli, S., & Bonfiglioli, R. (2015). Low-back pain. Handbook of clinical neurology, 131, 397–410. https://doi.org/10.1016/B978-0-444-62627-1.00020-2[2]Bishop, F. L., Dima, A. L., Ngui, J., Little, P., Moss-Morris, R., Foster, N. E., & Lewith, G. T. (2015). "Lovely Pie in the Sky Plans": A Qualitative Study of Clinicians' Perspectives on Guidelines for Managing Low Back Pain in Primary Care in England. Spine, 40(23), 1842–1850. https://doi.org/10.1097/BRS.0000000000001215
[3]Hancock, M. J., Maher, C. G., Latimer, J., Spindler, M. F., McAuley, J. H., Laslett, M., & Bogduk, N. (2007). Systematic review of tests to identify the disc, SIJ or facet joint as the source of low back pain. European spine journal : official publication of the European Spine Society, the European Spinal Deformity Society, and the European Section of the Cervical Spine Research Society, 16(10), 1539–1550. https://doi.org/10.1007/s00586-007-0391-1
[4]Kent, P., & Keating, J. (2004). Do primary-care clinicians think that nonspecific low back pain is one condition?. Spine, 29(9), 1022–1031. https://doi.org/10.1097/00007632-200405010-00015
[5]Fritz, J. M., & George, S. (2000). The use of a classification approach to identify subgroups of patients with acute low back pain. Interrater reliability and short-term treatment outcomes. Spine, 25(1), 106–114. https://doi.org/10.1097/00007632-200001010-00018
[6]Kreiner, D. S., Matz, P., Bono, C. M., Cho, C. H., Easa, J. E., Ghiselli, G., Ghogawala, Z., Reitman, C. A., Resnick, D. K., Watters, W. C., 3rd, Annaswamy, T. M., Baisden, J., Bartynski, W. S., Bess, S., Brewer, R. P., Cassidy, R. C., Cheng, D. S., Christie, S. D., Chutkan, N. B., Cohen, B. A., … Yahiro, A. M. (2020). Guideline summary review: an evidence-based clinical guideline for the diagnosis and treatment of low back pain. The spine journal : official journal of the North American Spine Society, 20(7), 998–1024. https://doi.org/10.1016/j.spinee.2020.04.006
[7]Dorland. (2011). Dorland’s Illustrated Medical Dictionary. Elsevier Health Sciences.

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