姿勢に対するアプローチとしてストレッチやストレングストレーニングなどの運動療法の他、徒手療法やテーピング、装具などが用いられています。
これらの選択は介入者の好みや思想によって行われますが、実際どのアプローチが効果的で、各アプローチの差がどれくらいあるのでしょうか?

2016年にPhysiotherapy Theory and Practice(IF: 2.28; Q3)に掲載された「Comparison of manual therapy and exercise therapy for postural hyperkyphosis: A randomized clinical trial.」では徒手療法と運動療法の効果の差を検証しています[1]。

徒手療法vs.運動療法

この研究は年齢は18歳から30歳までの女性46人が対象となりました。ここでの胸椎過後弯(Hyperkyphosis)の定義は胸椎後弯角が45度を超えていることでした。

【用語解説】
・胸椎過後弯(Hyperkyphosis)
胸椎の後弯が40°を超えると胸椎過後弯(Hyperkyphosis)と呼ばれ、発症率は20-50歳の38%であるため高齢者でなくても一般的です[a]。文献によってどの程度の後弯角度を胸椎過後弯と呼ぶかについては40-45°の範囲で多少のばらつきがあります[b]。

運動療法グループの患者は、5週間の間にストレッチと強化運動を15 回実施しました。
各エクササイズセッションは20~30分で各運動を10回繰り返しました。
具体的な運動内容は以下の5つです。
・大胸筋のストレッチ
・頸部伸筋のストレッチ
・頸部屈筋のストレングストレーニング
・広背筋のストレッチ
・脊柱伸筋のストレングストレーニング

徒手療法グループは5週間にわたって15 回介入されました。
徒手療法の内容はマッサージ、モビライゼーション、MET(マッスルエナジーテクニック)、筋膜リリースなどで各徒手療法セッションは20~30分間続きました。

介入後、運動療法群と徒手療法群の両方で、座位における胸椎後弯角が減少し、背部伸展筋力が有意に増加しました。また治療後の後弯角または筋力の変化には、群間の有意差は見られませんでした(。

運動療法
(n=16)
徒手療法
(n=23)
Before After p-value Before After p-value
胸椎後弯
(Upright sitting)
32.5° 29.9° <0.001 31.7° 28.5° <0.001
胸椎後弯
(Relaxed sitting)
46.0° 40.8° <0.001 45.7° 40.6° <0.001
伸筋筋力 94.1 N 120.9 N <0.001 95.8 N 123.1 N <0.001

疑問・思ったこと

今回の介入では徒手療法のグループにMETが含まれていました。
METは確かに手を使うテクニックですが、操作自体はストレッチ+筋収縮の組み合わせです。そのため、METは徒手療法としてのメカニズムよりもストレッチのメカニズムが作用している可能性があります。
PNF(Proprioceptive Neuromuscular Facilitation)がストレッチに分類されるようにMETはストレッチ、つまり運動療法群に含まれるべきなのでは?と考えました。
METが運動療法グループに含まれる場合、徒手療法と運動療法グループを区別できておらず、徒手療法と運動療法の効果が同程度とは言えません。

また脊柱伸筋の筋力の増加が徒手療法と運動療法グループで差がないことは、運動療法のストレングストレーニングが十分機能していなかった可能性があります。METは伸筋の収縮を行なっていなかったので徒手療法の筋力増加には寄与していないと考えられます。

臨床的意義

この研究からは徒手療法と運動療法で効果量が同じというよりも今回の介入量で臨床的に求められるほどの変化を与えられることが難しいと理解した方が良いかもしれません。

おそらくストレングストレーニングとして自重運動を1セッションあたり10回しか行わないのは不十分です。

 

参考文献
[1]Kamali F, Shirazi SA, Ebrahimi S, Mirshamsi M, Ghanbari A. Comparison of manual therapy and exercise therapy for postural hyperkyphosis: A randomized clinical trial. Physiother Theory Pract. 2016;32(2):92-7. doi: 10.3109/09593985.2015.1110739. Epub 2016 Feb 10. PMID: 26863146.
用語解説の参考文献
[a]Withers RA, Plesh CR, Skelton DA. Does stretching of anterior structures alone, or in combination with strengthening of posterior structures, decrease hyperkyphosis and improve posture in adults? A Systematic Review and Meta-analysis. J Frailty Sarcopenia Falls. 2023 Sep 1;8(3):174-187. doi: 10.22540/JFSF-08-174. PMID: 37663159; PMCID: PMC10472040.
[b]González-Gálvez N, Gea-García GM, Marcos-Pardo PJ. Effects of exercise programs on kyphosis and lordosis angle: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2019 Apr 29;14(4):e0216180. doi: 10.1371/journal.pone.0216180. PMID: 31034509; PMCID: PMC6488071.

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