外側上顆炎(Lateral epicondylitis)はテニス肘(Tennis elbow)とも呼ばれ、肘の外側の痛みを特徴とする一般的な痛みを伴う症状であり、物を握ったり絞ったりするときに痛みが増します。

外側上顆炎の経過は治療法の種類に関係なく12か月後時点で89%の患者に大幅な痛みの減少が見られます[3][4]。
しかし理学療法と経過観察(wait and see approach)の長期予後に明らかな差はないという報告もあり、外側上顆炎に対する理学療法の価値はここから明らかにはなりません。

ということで理学療法と注射と経過観察で経過を追った報告もみていきます。

 

外側上顆炎に対する理学療法vs. 注射vs. 経過観察

Bissetら(2006)は外側上顆炎に対する理学療法(n=66)、注射(n=65)、経過観察(n=67)の効果を3~52週間追跡しました。

被験者:18~65歳のボランティア
包含基準:肘外側上顆に外側上顆の触診、把持、手関節の抵抗、第2指/第3指の伸展で増強する疼痛、疼痛が少なくとも6週間持続する。
除外基準:過去6ヵ月以内に医療従事者による肘関節痛の治療歴、両側の肘関節症状、頸部神経根症、その他の肘関節病理、末梢神経病変、肘関節の手術歴、脱臼、肘関節骨折、腱断裂の既往歴。

理学療法群の参加者は、6週間にわたり30分の肘関節マニピュレーションと治療的エクササイズで構成される治療を8回受けました。
運動は主に痛みのないグリップ運動、伸筋エクササイズと屈曲・回外・回内・橈屈・尺屈エクササイズなどで構成されています[2]。
<伸筋エクササイズ>
<グリップ運動>

効果の比較

6週時点では経過観察と理学療法よりも注射療法の方が高い効果がありました。
51/65人(78%)の参加者が注射療法で成功したと報告したのに対し、経過観察では16/60人(27%)、理学療法では41/63人(65%)でした。
しかし途中で効果は逆転し、12~52週後で理学療法と経過観察は注射群より効果的でした。
理学療法は短期的には経過観察よりも高い成功率を有していました。

<経過に伴う成功率の変化>
※6段階のリッカート尺度(「完全に回復」から「かなり悪化」))で「完全に回復」または「大幅に改善」を成功とみなされました。

特に注射群では再発の報告が最も多く、47/65人(72%)が3~6週間後に悪化しましたが理学療法では5/66人(8%)、経過観察6/67(9%)でした。

疼痛強度(VAS)でも改善の比較において同様の傾向が見られました。
注射群は3週間時点よりも12週間~52週間時点の方が疼痛強度は高くなりました。

<各介入の平均(SD)VAS(過去7日間の痛み)>

VAS 経過観察 注射 理学療法
3週間 61.3 (25.3) 18.9 (23.2) 46.8(26.7)
6週間 51.0(26.5) 16.4 (21.7) 33.8 (28.2)
12週間 30.4 (29.4) 33.9 (30.6) 18.5(21.3)
26週間 19.8(24.0) 30.0 (26.8) 14.0(22.1)
52週間 13.9 (22.6) 20.8(27.7) 6.6 (14.6)

合計20人の参加者が治療による有害事象を経験しました (注射 13 人、理学療法 7 人)がこれらのほとんどは軽度で一般的に報告された有害事象は治療後の痛みでした。

臨床的意義

短期的には経過観察ではなくコルチコステロイド注射や理学療法の使用を支持する証拠が提示されました。
しかし、長期的には、コルチコステロイド注射は、効果が非常に似ていた経過観察や理学療法よりも劣っていました。
コルチコステロイドの再発率が高い理由として、痛みが急速に改善するため活動レベルが上昇したと予想されました。

経過観察は52週間(約1年)の時点では他の治療法と同様に効果的です。

この研究では理学療法介入が6週間だったため、それ以降も介入を続けていた場合の6週間以降の効果はここから推測することができません。そのため"6週間の介入"における長期的な予後では経過観察と大きな差がないと解釈するのが妥当です。

過去の報告で理学療法と経過観察の短期的効果に明らかな差はなかった(多少理学療法の方が効果があるよに見えるが有意差はない)もののこの報告では6週間の時点で理学療法の方が優れていた理由を説明する1つの理由としては理学療法の定義が挙げられます。
例えばBissetら(2006)の定義する理学療法は「6週間に8回、30分の肘関節マニピュレーションと治療的エクササイズ」でしたが[1]、前述した外側上顆炎の経過に関する調査に含まれた理学療法の定義は「6週間に9回の超音波、マッサージ、段階的運動プログラム」となっています[3][5]。

理学療法は具体的な治療内容を教えてくれるわけではない名称なのでこれを用いない方が良いという人もいるように理学療法の効果の解釈には注意が必要です。

 

参考文献
[1]Bisset L, Beller E, Jull G, Brooks P, Darnell R, Vicenzino B. Mobilisation with movement and exercise, corticosteroid injection, or wait and see for tennis elbow: randomised trial. BMJ. 2006 Nov 4;333(7575):939. doi: 10.1136/bmj.38961.584653.AE. Epub 2006 Sep 29. PMID: 17012266; PMCID: PMC1633771.
[2]Vicenzino B. (2003). Lateral epicondylalgia: a musculoskeletal physiotherapy perspective. Manual therapy, 8(2), 66–79. https://doi.org/10.1016/s1356-689x(02)00157-1
[3]Smidt, Nynke & Lewis, Martyn & van der Windt, Danielle & Hay, Elaine & Bouter, Lex & Croft, Peter. (2006). Lateral epicondylitis in general practice: Course and prognostic indicators of outcome. The Journal of rheumatology. 33. 2053-59.
[4]Smidt N, van der Windt DA. Tennis elbow in primary care. BMJ. 2006 Nov 4;333(7575):927-8. doi: 10.1136/bmj.39017.396389.BE. PMID: 17082522; PMCID: PMC1633781.
[5]Smidt, N., van der Windt, D. A., Assendelft, W. J., Devillé, W. L., Korthals-de Bos, I. B., & Bouter, L. M. (2002). Corticosteroid injections, physiotherapy, or a wait-and-see policy for lateral epicondylitis: a randomised controlled trial. Lancet (London, England), 359(9307), 657–662. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(02)07811-X

 

記事情報

  • 公開日:2023/09/13
    参考文献を除く本文:2015文字
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  • 最終更新日:2023/09/13
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本記事は一介の臨床家が趣味でまとめたものです。そのため専門的な文献に比べ、厳密さや正確性は不十分なものとなっています。引用文献を参照の元、最終的な情報の取り扱いは個人にお任せします。誤りや不適切な表現を見つけた際、誤字を修正した場合、追記した時には「記事情報」に記述します。

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