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腰痛の78%は原因が特定できるというのは怪しい【論文レビュー】


背部痛の90-99%が非特異的と言われている中で、日本から腰痛の78%が原因を特定できたとする研究が発表され、腰痛治療の書籍でもその研究が紹介されたことから、腰痛はしっかり検査すれば原因が特定できると主張されるのをみかけるようになりました。

しかしそれは妥当性のあるものでしょうか?

 

今回は実際のその論文を見ながら批判的に考えていきます。

どうも私としてはバイアスにかかっているようにしか見えないのです。

腰痛の78%は原因が特定できる?

今回紹介する論文はこちらです。2016年のものですね。

Suzuki H, Kanchiku T, Imajo Y, Yoshida Y, Nishida N, Taguchi T. Diagnosis and Characters of Non-Specific Low Back Pain in Japan: The Yamaguchi Low Back Pain Study. PLoS One. 2016;11(8):e0160454. Published 2016 Aug 22. doi:10.1371/journal.pone.0160454

 

まずこの論文の内容を大まかに紹介します。

 

患者数:320人(男性160人女性160人、平均年齢55.7歳(20〜85))

腰痛の平均期間:433日(14〜7369)

検査法:X-ray、理学検査、神経学的検査、局所麻酔、ブロック注射

 

結果として多かった診断は筋膜性疼痛(56人)、椎間関節症候群(68人)、椎間関節性疼痛(40人)でした。果たして320人のうち250人(78%)が診断可能とされています。

 

しかし実際この診断に妥当性があるのかを考えていきます。

 

考察

この論文では各検査法を扱う前に各テストの感度と特異度を提示しています。

そこから例えば筋膜性腰痛であれば、muscle knotsやone point tenderness、そして決定的な検査としてトリガーポイントによる介入を用いています。

Muscle knotsの感度・特異度は記載ありません。One point tendernessは感度0.071特異度0.807、トリガーポイントは記載ありません。

さらにこの感度・特異度はどこから引用しているのかなーとみていたら、引用はなしで研究者独自のデータに基づくものでした。

しかし、感度特異度はそもそも診断可能な病理についてしか正確に調査することはできません。

例えばエコーの感度特異度を調べるときは、内視鏡で実際損傷があったかを確認し、感度特異度を算出する方法が用いられたりします。

ここでは腰痛の検査の感度特異度を載せていますが、感度特異度を適切に測ろうとするにはそもそも特定したい種類の腰痛を診断できるツールが必要になってきます。

では筋膜性腰痛やここで触れられているあらゆる種類の腰痛の確実性の高い検査法は存在するのでしょうか?確実性の高い検査法がないから腰痛の病因は特定できないだろうとされているのにも関わらず感度特異度はどのように測ったのでしょうか?

本当にこの感度特異度は信頼できるのでしょうか?

ここまでの話をまとめると

この研究では独自に検査の感度特異度を決めそれを根拠に腰痛の鑑別をしていることになります。つまりここで言っている78%は特定できるというのはここの研究チームが独自に決めた診断基準を満たしたものをその疾患としているだけであって、コンセンサス(同意)の得られたものではありません。

さらに論文の中では「筋膜性腰痛の診断は困難で、他の原因を除外する必要があった」と書いてありますが、他の原因を除外したところで、それを筋膜性腰痛と判断する理由にはなりません。

ということは他の原因を除外したいくつかの腰痛は原因不明ではなく、筋膜性腰痛の所見を組み合わせて筋膜性腰痛と判断されたことになります。

また、筋膜性腰痛と決定するためにトリガーポイントへの介入をしていますが、トリガーポイントは未だ科学的に解明された現象ではありません。

トリガーポイントの検出をどのような基準で行ったかの記載がなく、また一貫したトリガーポイントの検出が可能かも不明です。(検者がトリガーポイントだと思っているものがトリガーポイントか判定することができません)

40人診断された椎間板性腰痛に関しても同様のことが言えます。

これはまだ筋膜性腰痛よりは信頼できるかもしれませんが、椎間板性腰痛の検査には問題があります。

ここでは椎間板性腰痛と決定するための方法として、椎間板ブロックをもちいていますが、繊維輪に亀裂がみられる場合、椎間板ブロックは特異的ではなくなります。

さらに、局所麻酔や神経ブロックを用いて慢性化した腰痛を診断しようというのに無理がある可能性もあります。

というのも、慢性腰痛のいくつかが中枢感作によって説明されるのであれば、慢性化した腰痛は末梢の問題よりもその伝達される経路やそれを含むニューロマトリックスが疼痛をおこしている可能性があり、末梢に原因を求められなくなるからです。

ということで結果的にこの論文をみても腰痛が78%診断可能というには無理があると思われます。

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