
前回の続き
前回、臨床ガイドラインが3年程度で時代遅れになり始めることと、本邦における腰痛診療ガイドラインが発行されてから既に3年以上経過していることを挙げました。
より新しい情報をガイドラインから得るために、他のより新しいガイドラインを参照することができます。
ここではこれまでのガイドラインや本邦における腰痛診療ガイドライン(2019)より新しいガイドライン、つまり2020年かそれ以降に発行された他国のガイドラインを参照して違いがあるかみていきます。
腰痛臨床ガイドラインの共通点
基本的に腰痛のガイドラインの多くで共通している項目は以下の通りです。本邦の腰痛ガイドライン[12]との違いもまとめます。
急性腰痛
・予想される回復の経過を伝える。
本邦のガイドラインでは推奨されていません
・セルフケアの選択肢についてのエビデンスに基づいた情報を用いた助言・教育。
本邦のガイドラインでは推奨されていません
・活動への早期復帰、活動の維持、ベッドレストを避けることを指導する。
本邦のガイドラインでは「急性腰痛に対しては,安静よりも活動性維持のほうが有用である. 一方,坐骨神経痛を伴う腰痛では,安静と活動性維持に明らかな差はない」とされています。
・NSAIDsやアセトアミノフェンが指示された場合はリスクや警告症状や徴候についてのアドバイスや配慮をする。さらに単独での(薬剤の使用により)疼痛軽減に失敗した場合には、筋弛緩剤単独またはNSAIDsに加えて使用する。(これは基本的にはドクター/薬剤師の役割)
・セルフケアを行っても改善しない患者、または通常の活動に戻れない患者に対する脊椎マニピュレーション(徒手療法の中でも有害事象が起きやすいため注意する)が使用できる。
本邦のガイドラインでは「自然経過や非特異的な因子を凌駕するものではないと考えられる」とされています。
急性腰痛と慢性腰痛の治療は一緒くたにされることがありますが、急性腰痛ではエクササイズは必ずしも推奨されているわけではありません。活動の維持が推奨事項にあるためより勘違いされやすいかもしれませんが、活動の維持と運動は同じではなく運動は身体活動に含まれます。
急性腰痛と慢性腰痛の治療目的は異なります。急性腰痛では組織の修復や、痛みの緩和にフォーカスすることが多く、慢性腰痛になると疼痛の管理や機能の向上、生活への適応などが介入目的に含まれてきます。
慢性腰痛
・予想される回復の経過を伝える。
本邦のガイドラインでは推奨されていません
・セルフケアの選択肢についてのエビデンスに基づいた情報を用いた助言・教育。
本邦のガイドラインでは推奨されていません
・エクササイズ(運動に指定はなく、患者の嗜好/医療従事者の判断で選択する)を行う。
本邦のガイドラインと一致しています。
・活動的でいられるためのアドバイス
本邦のガイドラインでは推奨されていません
・脊椎マニピュレーションまたはモビライゼーションを含む徒手療法(徒手療法の中でも有害事象が起きやすいため注意する)
※徒手療法の選択肢としてマッサージや針が含まれることもあります。
本邦のガイドラインでは「他の治療法に比べて推奨できるものではない」とされています。
・NSAIDsやアセトアミノフェンが指示された場合はリスクや警告症状や徴候についてのアドバイスや配慮をする。定期的な再評価を行い、継続的な疼痛緩和のエビデンスがある場合にのみ継続することが重要。
・強い障害や苦痛を持つ患者に対して、身体的・心理的介入(認知・行動学的アプローチなど)を含むアプローチ。
本邦のガイドラインでは患者教育と認知行動療法が推奨されています。
慢性腰痛治療では運動が含まれ、急性腰痛よりも患者の積極性が必要になってきます。同時に受動的な治療の過剰な使用や依存に陥らないように注意する必要もあり、急性腰痛で使用していた疼痛緩和の治療が主体ではなくなってきます。
以上を前提として、より最近の腰痛診療ガイドラインとは違いがあるのかを見ていきます。