肩外側の痛みは、一般的にローテーターカフ、上腕二頭筋長頭、肩鎖関節、肩甲上腕関節の病理によって引き起こされます。
他にも稀な疾患も合わせると鑑別が必要な疾患は以下の通りです[4]。
・鎖骨遠位端骨融解(Acromioclavicular distal clavicle osteolysis)
・肩鎖関節炎(Acromioclavicular joint arthritis)
・肩峰骨折(Acromion fracture)
・凍結肩(Frozen shoulder)
・肩関節前方亜脱臼(Anterior humerus subluxation)
・複合性局所疼痛症候群(CRPS:Complex regional pain syndrome)
・エルブ・デュシェンヌ(Erb-Duchenne)
・関節唇損傷(Glenoid labrum tear)
・Os acromiale(肩峰の骨化核の先天性癒合不全)
・腱板損傷(Rotator-cuff injury)
・SLAP損傷/ 上方関節唇損傷(Superior labrum anterior to posterior/ Superior labral tear)
・化膿性関節炎(Septic arthritis)
・肩関節脱臼(Shoulder dislocation)

肩鎖関節痛または肩鎖関節損傷

肩鎖関節痛または肩鎖関節損傷は若い(20代)アスリートによく見られる肩の痛みの原因です。
男性は女性に比べ2-5倍の頻度で発生することが示唆されています[1]。
これは男性アスリートが参加するコンタクトスポーツの割合が高いに起因します。しかし、男子ラグビー選手は女子ラグビー選手よりも肩鎖関節関節損傷を被る可能性が3倍高かったため、男性アスリートの全体的な体格が大きく、攻撃的なプレーによって
損傷の高さが説明される可能性があります。
ラグビー、レスリング、ホッケー、柔道、ラクロスの男子学生スポーツ選手は肩鎖関節損傷率が高く、女性ではラグビー選手で高くなります。またスポーツの他、重量挙げ、腕立て伏せ、ディップスなどでも生じることがあります[3]。
外傷のほか、変形性関節症やOsteolysisでも肩鎖関節痛は生じます[2]。

ロックウッド分類(Rockwood classification)

ロックウッド分類では肩鎖靭帯(Acromioclavicular ligament)、烏口鎖骨靱帯(coracoclavicular ligament)、関節包、鎖骨の変位、三角筋、僧帽筋の病態に基づいて分類されます。

TypeⅠ:肩鎖靭帯のみの捻挫
TypeⅡ:肩鎖靭帯および関節包断裂、烏口鎖骨靭帯捻挫、鎖骨遠位端の小さな挙上と肩鎖関節の離開、三角筋と僧帽筋はわずかに剥離している可能性がある
TypeⅢ:肩鎖靭帯・関節包・烏口鎖骨靭帯の断裂、鎖骨遠位端の中程度の挙上、ピアノキーサイン、三角筋と僧帽筋が剥離している可能性が高い
TypeⅣ:肩鎖靭帯・関節包・烏口鎖骨靭帯の断裂、鎖骨の後方変位、三角筋と僧帽筋が剥離している可能性が高い
TypeⅤ:肩鎖靭帯・関節包・烏口鎖骨靭帯の断裂、鎖骨は顕著に挙上する、三角筋と僧帽筋が剥離している
TypeⅥ:肩鎖靭帯・関節包・烏口鎖骨靭帯の断裂、鎖骨は烏口下に下方変位している、三角筋と僧帽筋が剥離している

ロックウッド分類のType III以上では、鎖骨の外側に目視できる変形が見られることがあります。
これらの損傷の89%は軽度の捻挫TypeⅠ~Ⅱです[1]。

肩鎖関節の基礎解剖

肩鎖関節は鎖骨の遠位端(肩峰端)と肩甲骨の肩峰、関節半月と薄い関節包、それを補強する靭帯で構成されています。関節半月が不完全か欠如している例もあります[6]。
肩峰の関節面は(鎖骨の関節面に対して)前内側に向いており、形状は凹面で、鎖骨の関節面は凸面です。
肩鎖関節関節面の面積は9 mm(縦)×19 mm(前後)と小さく、上腕骨から伝わる圧縮負荷がかかるのでストレスが大きくなります[5]。

 

肩鎖関節は平面関節であり、3つの動きができます[7]。

・肩甲骨が鎖骨の上で前後に滑る動き(protraction-retraction)
・肩甲骨が鎖骨の上でヒンジのように外転・内転する動き(elevation-depression)
・鎖骨の長軸を中心に回転する動き(axial rotation)です。
これらの運動は5~8度に制限されています。

肩鎖関節周囲の代表的な軟部組織には、静的安定化機構としての肩鎖靭帯(Acromioclavicular ligament)、烏口鎖骨靭帯(Coracoclavicular ligament)、烏口肩峰靭帯(Coracoacromial ligament)、動的安定化機構としての三角筋と僧帽筋があります。
肩鎖靭帯の上方部分をSuperior Acromioclavicular Ligamentといい、下方部分をInferior Acromioclavicular Ligamentと言います。

Superior Acromioclavicular Ligamentは関節上部を覆っており、鎖骨の肩峰端上部と肩峰の上部との間に延びる四辺形の靭帯で、三角筋腱膜、僧帽筋腱膜は連結した構造です。関節包と合わせて、AC capsule / ligament complexを成しています。この構造は肩鎖関節で最も強固な靭帯です。また関節半月が存在する場合は関節半月とも接触しています。

Inferior Acromioclavicular Ligament(Inferior  AC Ligament)は関節の下部を覆っています。この靭帯はSuperior AC Ligamentよりも薄い構造です。この靭帯は、鎖骨の後方移動や後方回旋の制動作用があります。

烏口鎖骨靱帯は菱形靭帯(Trapezoid Ligament)と円錐靭帯(Conoid Ligament)で構成されています。菱形靭帯は外側にある幅が広く薄い繊維で、鎖骨の下面から烏口突起の上面に付着しています。烏口突起付着部の後縁は円錐靭帯と結合しており、鎖骨付着部は離れています。円錐靭帯は内側の繊維です。烏口鎖骨靱帯の役割は鎖骨と肩甲骨を連結し、肩甲上腕関節と共同して運動できるようにすることと肩鎖関節の保護です。

肩鎖関節の検査

肩鎖関節に起因する痛み特定するための検査法や身体所見はいくつか検証されています[8]。

<Waltonらの報告[8]>

感度 特異度 陽性尤度比 陰性尤度比
Paxinos test 79% 50% 1.58 0.42
肩鎖関節の圧痛 96% 10% 1.07 0.40
O’Brien test 16% 90% 1.60 0.93

<Cadoganらの報告[9]>

感度 特異度 陽性尤度比 陰性尤度比
Cross-body adduction 64% 26% 0.86 1.39
O’Brien’s test 14% 92% 1.73 0.94
Hawkins-Kennedy test 70% 36% 1.09 0.84
肩鎖関節の圧痛 36% 73% 1.37 0.87
感度 特異度 陽性尤度比 陰性尤度比
1/4陽性 96 7 1.03 0.63
2/4陽性 55 36 0.86 1.26
3/4陽性 30 81 1.57 0.87
4/4陽性 5 99 5.70 0.96
感度 特異度 陽性尤度比 陰性尤度比
反復的な活動で発症 27% 90% 2.75 0.87
肘から下に関連痛はない 100% 18% 1.22 0.00
肩鎖関節の肥厚または腫れ 75% 62% 1.98 0.40
pROMで肩外転時痛みなし
36% 86% 2.55 0.74
pROMで肩外旋90°で痛みなし 50% 82% 2.83 0.61
感度 特異度 陽性尤度比 陰性尤度比
1つ以上陽性 100 7 1.08 0.00
2つ以上陽性 96 53 2.05 0.09
3つ以上陽性 55 83 3.25 0.55
4つ以上陽性 23 95 4.98 0.81
5つ以上陽性 N/A N/A N/A N/A
肩鎖関節痛を特定・除外するためのガイドとして図のような評価手順も提案されています。

このような検査の他に、検査は組み合わせて使うことができ、検査の数だけ組み合わせが存在します。
組み合わせた場合、単独の検査と比べて感度特異度が変化するため検証する価値があります。

Krillらは肩鎖関節痛に用いられる検査の2つの組み合わせの感度特異度を計算しました[10]。
検査の組み合わせはseries testingとparallel testingの2種類があり、series testingは検査の
両方が陽性でなければならなりません。これにより偽陽性が減って特異度が向上します。
parallel testingはどちらかの検査が陽性であれば良く、偽陰性の数を減少させることにより感度を増加させます。

series testingとparallel testingの感度特異度は以下のように計算されました。
<series testing>
・感度 = テストAの感度 x テストBの感度
・特異度 = (テストAの特異度 + テストBの特異度) - (テストAの特異度 x テストBの特異度)
<parallel testing>
・感度 = (テストAの感度 + テストBの感度) - (テストAの感度 x テストBの感度)
・特異度 = テストAの特異度 x テストBの特異度

結果として検査の組み合わせの感度特異度は以下のようになりました。

series testingでは、O'Brien's Testと肩鎖関節の圧痛の組み合わせが96.7%と最も特異度が高かくなりましたが、最も陽性尤度比が高いのはPaxinos signとO'Brien's testの組み合わせで2.71でした。

series testing 感度 特異度 陽性尤度比
Paxinos sign + O’Brien’s test 0.11 0.96 2.71
O’Brien’s test + 肩鎖関節の圧痛 0.07 0.97 2.08
Paxinos sign + 肩鎖関節の圧痛 0.38 0.80 1.91
O’Brien’s test + Hawkins-Kennedy test 0.10 0.95 1.87
O’Brien’s test + Cross-body adduction 0.09 0.94 1.48
肩鎖関節の圧痛 + Hawkins-Kennedy test 0.34 0.75 1.32

parallel testingにより、Paxinos signとHawkins-Kennedy tesの組み合わせがが最大の感度(93.7%)最小の陰性尤度比(0.35)となりました。

parallel testing 感度 特異度 陰性尤度比
Paxinos sign + Hawkins-Kennedy test 0.94 0.18 0.35
Paxinos sign + 肩鎖関節の圧痛 0.89 0.30 0.36
Paxinos sign + O’Brien’s test 0.82 0.46 0.39
Paxinos sign + Cross-body adduction 0.92 0.13 0.58
肩鎖関節の圧痛 + Hawkins-Kennedy test 0.84 0.22 0.72
Cross-body adduction + Hawkins-Kennedy test 0.89 0.09 1.15
肩鎖関節の圧痛 +Cross-body adduction 0.81 0.16 1.19

各検査のやり方と陽性所見

各検査のやり方を以下にまとめます。

Cross-body adduction test

①患者の腕を90°まで挙上する
②肘関節を回内し、上腕を胸に交差させる(水平屈曲)。

陽性所見:上腕を胸で交差させると痛みが生じる。

Active Compression/O’Brien’s test

O’Brien testは関節唇損傷の検査法でもありますが、ここでは肩鎖関節の異常を検出する検査として用いられました。

検査の手順
①患者は上肢を 90° 屈曲します。
※図では検者は患者の前方に立っていますが、後方に立つバリエーションもあります。
②前腕を回内し母指を下方に向け、上肢は10-5°水平屈曲します。
③検者は下向きに力を加え、患者はこれに抵抗します。
④次に前腕を回外し、手掌を上に向け同様に検者は下向きに力を加え、患者はこれに抵抗します。

最初の操作で肩上部の痛みまたは肩鎖関節に局在する痛みが生じ、2 回目の操作では痛みが弱くなるか、痛みが消失する場合、検査は陽性となります。

Hawkins-Kennedy test

Hawkins-Kennedy testは肩インピンジメント症候群の検査として用いられますが、ここでは肩鎖関節の異常を検出する検査として用いられました。

①肘を90°屈曲し、肩甲骨を固定した状態で、上腕を90°屈曲させる。
②検者が上腕骨を内旋させる。

陽性所見:内旋時に痛みが生じると陽性とみなされる。

肩鎖関節の圧痛(Localised ACJ tenderness)

肩鎖関節の直接触診(触擦)し、触診時の痛みがあれば陽性とみなされます。

Paxinos test

①患者に診察台に楽に座ってもらい、患側の腕を胸壁の脇に添えます。
②検者の手を患側の肩の上に置き、母指を肩峰の後外側の下、示指と中指を鎖骨より上に置きます(図参照)。
※肩鎖関節に当てる訳ではありません。
③検者は母指で肩峰を前上方向に、示指と中指で鎖骨に対して下に圧力を加えます。

肩鎖関節領域で痛みが感じられるか増加した場合、テストは陽性とみなされ、痛みのレベルに変化がない場合は陰性とみなされます。

 

参考文献
[1]Pallis, M., Cameron, K. L., Svoboda, S. J., & Owens, B. D. (2012). Epidemiology of acromioclavicular joint injury in young athletes. The American journal of sports medicine, 40(9), 2072–2077. https://doi.org/10.1177/0363546512450162
[2]Mall, N. A., Foley, E., Chalmers, P. N., Cole, B. J., Romeo, A. A., & Bach, B. R., Jr (2013). Degenerative joint disease of the acromioclavicular joint: a review. The American journal of sports medicine, 41(11), 2684–2692. https://doi.org/10.1177/0363546513485359
[3]Chronopoulos, E., Kim, T. K., Park, H. B., Ashenbrenner, D., & McFarland, E. G. (2004). Diagnostic value of physical tests for isolated chronic acromioclavicular lesions. The American journal of sports medicine, 32(3), 655–661. https://doi.org/10.1177/0363546503261723
[4]Kiel, J., Taqi, M., & Kaiser, K. (2022). Acromioclavicular Joint Injury. In StatPearls. StatPearls Publishing.
[5]Renfree, K. J., & Wright, T. W. (2003). Anatomy and biomechanics of the acromioclavicular and sternoclavicular joints. Clinics in sports medicine22(2), 219–237. https://doi.org/10.1016/s0278-5919(02)00104-7
[6]Ernberg, L. A., & Potter, H. G. (2003). Radiographic evaluation of the acromioclavicular and sternoclavicular joints. Clinics in sports medicine22(2), 255–275. https://doi.org/10.1016/s0278-5919(03)00006-1
[7]Buttaci, C. J., Stitik, T. P., Yonclas, P. P., & Foye, P. M. (2004). Osteoarthritis of the acromioclavicular joint: a review of anatomy, biomechanics, diagnosis, and treatment. American journal of physical medicine & rehabilitation, 83(10), 791–797. https://doi.org/10.1097/01.phm.0000140804.46346.93
[8]Walton, J., Mahajan, S., Paxinos, A., Marshall, J., Bryant, C., Shnier, R., Quinn, R., & Murrell, G. A. (2004). Diagnostic values of tests for acromioclavicular joint pain. The Journal of bone and joint surgery. American volume, 86(4), 807–812. https://doi.org/10.2106/00004623-200404000-00021
[9]Cadogan A, McNair P, Laslett M, Hing W. Shoulder pain in primary care: diagnostic accuracy of clinical examination tests for non-traumatic acromioclavicular joint pain. BMC Musculoskelet Disord. 2013 May 1;14:156. doi: 10.1186/1471-2474-14-156. PMID: 23634871; PMCID: PMC3646690.
[10]Krill MK, Rosas S, Kwon K, Dakkak A, Nwachukwu BU, McCormick F. A concise evidence-based physical examination for diagnosis of acromioclavicular joint pathology: a systematic review. Phys Sportsmed. 2018 Feb;46(1):98-104. doi: 10.1080/00913847.2018.1413920. Epub 2017 Dec 13. PMID: 29210329; PMCID: PMC6396285.
記事情報

・公開日:2023/10/04
参考文献を除く本文:5413文字
参考文献を含む本文:7612文字
画像:7枚
・最終更新日:2023/10/04
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本記事は一介の臨床家が趣味でまとめたものです。そのため専門的な文献に比べ、厳密さや正確性は不十分なものとなっています。引用文献を参照の元、最終的な情報の取り扱いは個人にお任せします。誤りや不適切な表現を見つけた際、誤字を修正した場合、追記した時には「記事情報」に記述します。

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