腰痛の経過
非特異的腰痛の経過に関する前向き研究を対象にした系統的レビューでは,腰痛が長期的に継続することを示している[1].
急性腰痛の1 年間の追跡では,発症後1・3・6・12か月時点での腰痛を有する人の割合は,それぞれ 80% (95%CI: 61–100%),67% (95%CI: 50–83%),57% (95%CI: 46–68%) ,65% (95% CI: 54–75%) だった.
異質性はI² = 96.5%と大きかった.
3か月後には回復はほとんど見られず,3か月から12か月の間に痛みを訴える患者の割合は1~7%しか減少しなかった.
この他にも,腰痛は短期的な改善が見られる例がある一方で,完全に消失することは少なく,多くの患者が再発を経験する.一部の患者では慢性化し,長期間にわたる痛みや機能制限が続くことが報告されている(「#10 急性腰痛と慢性腰痛は適切な概念なのか?」より).
"腰痛は短期間で回復する"は正しいのか?
腰痛の予後に関する表現は「急性腰痛の予後は良好である」「急性腰痛は一般的であり,ほとんどの場合症状は短期間で治まる」「腰痛のほとんどの症状は改善する」などポジティブで安心感を与えるものが多い[1-3].
しかし,「急性腰痛の予後は良好であり,大多数の患者で痛みが自然に改善する」というような主張の根拠は主に「職場復帰」または「障害からの回復」の研究に基づいているか,短期間に疼痛レベルが大幅に低下する報告に基づいているか,裏付ける証拠が提供されていないようである[1][4].
職場復帰や障害がないことが必ずしも痛みがないことを意味しないため,回復/改善の定義に注意して解釈しなくてはならない.腰痛は職場復帰や障害よりも痛みで評価されやすいため,このような根拠で回復するというのは誤解を招く可能性がある.
この報告によれば,患者の約3分の1が最初の3か月以内に回復するが,残りの約6割は腰痛を有し,ほぼ同数の人が12か月後にも疼痛を訴えている.
そのため「腰痛は短期間で回復する」という場合,痛みがなくなるという意味は含まれない.
患者さんに予想される予後を伝える場合,「多くの方は,腰痛が短期間で治ります.」と伝えると誤解を招く恐れがあり,「多くの方は,腰痛の強さが最初の数週間で小さくなります.」のような表現がより適切である.
現実的な回復
とはいえ,臨床的に「腰痛の痛みは長く残る」「腰痛の痛みはなくなりにくい」とネガティブな言い方をする必要はない.
自身の腰痛が将来どうなって欲しいかという願望は個人差がある.
理想的には腰痛がなくなって欲しい点で共通するかもしれないが,腰痛の治療法が確立されていない以上達成が困難な目標であるため,より実現可能な目標が必要となる.
やりたいことができるようになれば良いという人もいれば,ピークの痛みを小さくしたいという人もいる.このような個人差を考慮すると,回復の定義は臨床的に多様であって良いとも考えられる.
医療者が完全な回復(痛みなし)に囚われると,個人にあった柔軟な目標設定が制限される可能性があるため,「痛みなし」の回復から「痛みがあっても問題はない」回復まで許容することが重要である.
今日のおすすめ記事
[1]Itz CJ, Geurts JW, van Kleef M, Nelemans P. Clinical course of non-specific low back pain: a systematic review of prospective cohort studies set in primary care. Eur J Pain. 2013 Jan;17(1):5-15. doi: 10.1002/j.1532-2149.2012.00170.x. Epub 2012 May 28. PMID: 22641374.
[2]O'Sullivan, P. B., Caneiro, J. P., O'Sullivan, K., Lin, I., Bunzli, S., Wernli, K., & O'Keeffe, M. (2020). Back to basics: 10 facts every person should know about back pain. British journal of sports medicine, 54(12), 698–699. https://doi.org/10.1136/bjsports-2019-101611
[3]Baxter, G. D., Chapple, C., Ellis, R., Hill, J., Liu, L., Mani, R., Reid, D., Stokes, T., & Tumilty, S. (2020). Six things you need to know about low back pain. Journal of primary health care, 12(3), 195–198. https://doi.org/10.1071/HC19117
[4]Artus M, van der Windt DA, Jordan KP, Hay EM. Low back pain symptoms show a similar pattern of improvement following a wide range of primary care treatments: a systematic review of randomized clinical trials. Rheumatology (Oxford). 2010 Dec;49(12):2346-56. doi: 10.1093/rheumatology/keq245. Epub 2010 Aug 16. PMID: 20713495.