腰痛の痛みがすぐに改善するということは腰痛の痛みがすぐになくなるということではない

急性腰痛は治療の種類に関係なく、治療してもしなくても通常最初の6-13週間で急激に緩和します[3][4]。
(下図は経過の例)

歴史的にも腰痛の90%は 1か月以内に解消すると広く信じられています。
それから疼痛緩和は鈍化します。

ここで2つの誤解と1つの疑問が生まれます。

誤解1:急性腰痛は早く治る

Croftらは腰痛患者に対して、受診の必要性、痛み・障害の経過の3つの観点から腰痛の経過を調査しました[1]。
患者さんは痛みがあるから受診が必要と考えるわけでも、障害があるから受診が必要と考えるわけではありません。これらは受診を求める複数の因子の1つでしかありません。

そのため受診の必要性を追跡するのは痛み・障害の経過を追跡するのとは意味合いが異なります。
結果として59%が1度のみ受診し、32%が3ヶ月いないに再受診し、3か月以上受診を続けた患者はわずか8%でした。
しかし初診から3か月後に痛みと障害がなくなったのは21%、12ヶ月後では25%でした。
痛みの障害の両方を有していたのはで3か月後でも12ヶ月後でも50%でした。

Henschkeらは予後因子を特定するために最近発症した腰痛を6 週間、3 か月、12 か月後まで追跡しました[2]。
その結果6週間後、3ヵ月後、12ヵ月後に、40%、52%、57%の参加者が痛みがないと報告し、60%、71%、75%の参加者が障害がないと報告しています。フルタイムの勤務はベースライン時には48%、6週間後、3ヵ月後、12ヵ月後には69%、72%、72%に上昇しました。

最近発症した腰痛のうち12ヶ月で完全回復するのは1/2から2/3程度のようです。

そして受診率が下がるタイミングは回復してからではないようです。
医療者は患者さんが来なくなった理由を治ったから/治したからと誤解する可能性があります。
(ちなみに腰痛の90%は 1か月以内に解消する説は治ったからではなく、来院しなくなったのを治ったと解釈することに由来するという話も聞いたことがあります)

誤解2:急性腰痛に○○をしたら効果があった

患者さんが来なくなったから治った/治したと誤解する以外にも、急性腰痛早期の急速な疼痛緩和は医療者の治療効果を誤解させます。

通常どのような治療にも数時間程度の鎮痛効果があるため、治療後の痛みの緩和と急性腰痛の急激な痛みの緩和が組み合わさって、治療によって急性腰痛が早く治ったと誤解することになります。これは次の疑問につながります。

疑問:痛み治療の必要性

治療の種類に関係なく、治療してもしなくても通常最初の6-13週間で急激に緩和することは痛みを対象とした介入がどこまで必要か考えさせられます。
今の痛みをとりあえず少しでも緩和したい場合には、臨床的意義はあるかも知れません。活動的になるようなアドバイスや疼痛管理を上手く行えるようにするよな教育的治療、心理療法なども臨床的意義はあるかも知れません。しかし予後に変化を与えるという点で見れば痛みを対象とした介入の利点は限られています。

参考文献

[1]Croft PR, Macfarlane GJ, Papageorgiou AC, Thomas E, Silman AJ. Outcome of low back pain in general practice: a prospective study. BMJ. 1998 May 2;316(7141):1356-9. doi: 10.1136/bmj.316.7141.1356. PMID: 9563990; PMCID: PMC28536.
[2]Henschke N, Maher CG, Refshauge KM, Herbert RD, Cumming RG, Bleasel J, York J, Das A, McAuley JH. Prognosis in patients with recent onset low back pain in Australian primary care: inception cohort study. BMJ. 2008 Jul 7;337(7662):a171. doi: 10.1136/bmj.a171. PMID: 18614473; PMCID: PMC2483884.
[3]Artus, M., van der Windt, D., Jordan, K. P., & Croft, P. R. (2014). The clinical course of low back pain: a meta-analysis comparing outcomes in randomised clinical trials (RCTs) and observational studies. BMC musculoskeletal disorders, 15, 68. https://doi.org/10.1186/1471-2474-15-68
[4]Artus, M., van der Windt, D. A., Jordan, K. P., & Hay, E. M. (2010). Low back pain symptoms show a similar pattern of improvement following a wide range of primary care treatments: a systematic review of randomized clinical trials. Rheumatology (Oxford, England), 49(12), 2346–2356. https://doi.org/10.1093/rheumatology/keq245

 

 

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