現在の本邦における回外・回内の定義は「底屈・内転・内がえしからなる複合運動が回外、背屈・外転・外がえしからなる複合運動が回内である」となっています。
「関節可動域表示ならびに測定法改訂」では回外・回内の可動域測定方法は記載されていません。そのため他の動作ほど臨床における回外・回内の測定は一般的ではありませんが、疾患のリスク因子の調査に回外・回内が含まれていることがあり、臨床的に利用できます。
「関節可動域表示ならびに測定法改訂」で回外・回内の可動域測定方法が記載されていないということは、参考可動域についての記載もなくどの程度の動きを参考にすれば良いのかわかりにくい現状もあると思います。
回外・回内平均値は参考可動域を決めるのに役立つためここではその報告をみていきます。
足の回内・回外可動域の平均値は?
Menadueらは健常者である平均35.4歳(範囲21-59)30名(60足)の能動的な回内・回外可動域を測定しました[1]。
測定は座位と伏臥位の2つの肢位で行われましたが、言い方を変えると座位では前方から測定するため足関節と足部の回外・回内、伏臥位は後方から足底するため距骨下関節を中心とした回外・回内の評価となります。
足の回内・回外可動域検査法と注意点
原文では回内・回外を表すためにInversionとEeversionを使用していますが、2022年4月に改訂された本邦の定義では底屈・内転・内がえしからなる複合運動を回外(Supination)、背屈・外転・外がえしからなる複合運動を回内(Pronation)と表現するため、ここでは本邦の表現に置き換えて(つまりInversion→回外、Eeversion→回内)記述します。
日本語であれば改訂された定義を用いれば問題ありませんが、日本語-英語間はまだ混乱があり、2019年に用いられた英語の定義と日本語の定義は一致していません[2]。
また本邦では内がえし・外がえしの可動域検査法が記載されていますが、回内・回外の検査の仕方と類似しています。違いが分かるようにここでは研究で用いられた回内・回外の検査法と本邦の内がえし・外がえしの検査法のやり方を紹介します。
<本邦で用いられる足関節・足部内がえしの測定法>
参考可動域 | 基本軸 | 移動軸 | 測定肢位および注意点 | 参考図 |
0-30° | 前額面における下腿軸への垂直線 | 足底面 | 膝関節を屈曲位、足関節を 0 度で行う | ![]() |
<本邦で用いられる足関節・足部外がえしの測定法>
参考可動域 | 基本軸 | 移動軸 | 測定肢位および注意点 | 参考図 |
0-20° | 前額面における下腿軸への垂直線 | 足底面 | 膝関節を屈曲位、足関節を 0 度で行う | ![]() |
<足関節・足部回外の測定法>
参考可動域 | 基本軸 | 移動軸 | 測定肢位および注意点 | 参考図 |
N/A | 内果と外果の中点を通過する下腿後面の正中線 | 第2中足骨前面の真ん中を通る線 | 座位 リラックスした底屈位 |
![]() |
<足関節・足部回内の測定法>
参考可動域 | 基本軸 | 移動軸 | 測定肢位および注意点 | 参考図 |
N/A | 内果と外果の中点を通過する下腿後面の正中線 | 第2中足骨前面の真ん中を通る線 | 座位 リラックスした底屈位 |
![]() |
研究では伏臥位(後方から)の検査を底屈位で行いましたが、この評価方法は文献によって底屈位か背屈底屈ニュートラルか分かれるためどちらのやり方も記載します。
<距骨下関節内がえしの測定法>
参考可動域 | 基本軸 | 移動軸 | 測定肢位および注意点 | 参考図 |
N/A | 内果と外果の中点を通過する下腿後面の正中線 | 踵骨後面の正中線 | 伏臥位 背屈・底屈0° |
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<距骨下関節外がえしの測定法>
参考可動域 | 基本軸 | 移動軸 | 測定肢位および注意点 | 参考図 |
N/A | 内果と外果の中点を通過する下腿後面の正中線 | 踵骨後面の正中線 | 伏臥位 背屈・底屈0° |
![]() |
<距骨下関節回外の測定法>
参考可動域 | 基本軸 | 移動軸 | 測定肢位および注意点 | 参考図 |
N/A | 内果と外果の中点を通過する下腿後面の正中線 | 踵骨後面の正中線 | 伏臥位 足底位を維持する |
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<距骨下関節回内の測定法>
参考可動域 | 基本軸 | 移動軸 | 測定肢位および注意点 | 参考図 |
N/A | 内果と外果の中点を通過する下腿後面の正中線 | 踵骨後面の正中線 | 伏臥位 足底位を維持する |
![]() |
回内・回外可動域の平均値、信頼性
被験者:30名(60足)、平均35.4歳(範囲21-59)、
肢位:座位、伏臥位
運動様式:能動的
測定器:ゴニオメーター
<回内・回外平均可動域>
回外(座位) | 回内(座位) | 回外(伏臥位) | 回内(伏臥位) | |
平均(SD) | 31.5±8.8 | 11.1±7.4 | 15.0±6.1 | 8.3±3.6 |
<検者内信頼性>
回外(座位) | 回内(座位) | 回外(伏臥位) | 回内(伏臥位) | |
A ICC(95% CI) | 0.92(0.88-0.95) | 0.90(0.86-0.94) | 0.94(0.91-0.96) | 0.94(0.91-0.96) |
B ICC(95% CI) | 0.91(0.86-0.94) | 0.82(0.75-0.88) | 0.94(0.91-0.96) | 0.83(0.76-0.89) |
C ICC(95% CI) | 0.96(0.93-0.97) | 0.93(0.90-0.96) | 0.94(0.91-0.96) | 0.88(0.82-0.92) |
<検者間信頼性>
回外(座位) | 回内(座位) | 回外(伏臥位) | 回内(伏臥位) | |
ICC(95% CI) | 0.73(0.61-0.82) | 0.62(0.49-0.74) | 0.54(0.33-0.70) | 0.41(0.25-0.56) |
<検者内の標準誤差>
回外(座位) | 回内(座位) | 回外(伏臥位) | 回内(伏臥位) | |
A SEM | 2.1 | 2.1 | 1.4 | 1.0 |
A SEM*2 | 4 | 4 | 3 | 2 |
B SEM | 2.6 | 2.9 | 1.6 | 1.4 |
B SEM*2 | 5 | 6 | 3 | 3 |
C SEM | 1.9 | 2.2 | 1.2 | 1.1 |
C SEM*2 | 4 | 4 | 2 | 2 |
<検者間の標準誤差>
回外(座位) | 回内(座位) | 回外(伏臥位) | 回内(伏臥位) | |
SEM | 4.6 | 4.5 | 4.1 | 2.8 |
SEM*2 | 9 | 9 | 8 | 6 |
臨床的意義
回外可動域は座位で31.5°、伏臥位で15.0°と座位と伏臥位で可動域は大きく異なりました。
これは前-中足部の寄与に起因すると考えられ、また同一の検査として解釈できないことになります。
検者内信頼性は座位でも伏臥位でも高いと報告されましたが、検者間信頼性は座位で中程度、伏臥位で低くなりました。
異なる検者が検査を行うとSEMおよびSEM*2も高くなる(6-9°)ため、1人の患者さんに複数の検者が足底するのは適切ではありません。
Kaufmanらは内がえし可動域の高さはアキレス腱障害のリスク因子であることを報告しています[3]。
しかし彼らは具体的な可動域方法を説明していないため、内がえしなのか回外なのか、能動的なのか受動的なのか分かりませんでした。
<内がえし可動域とアキレス腱障害発生の関係>
内がえし | 発生率 | RR | 95%(CI) |
タイト(>26.0°) | 4.7 | 1.71 | 0.49, 5.93 |
正常(26.0-32.5°) | 2.7 | 1.00 | - |
柔軟(<32.5°) | 7.6 | 2.79 | 0.91, 8.55 |
彼らはTalocalcaneal inversion/ eversionと表現していたことから後方からの測定の可能性があります(前方からの場合はTransverse tarsal Inversion/ eversionと呼ばれる)が、正常の範囲を26.0-32.5°に設定しており、これは座位または前方から行う内がえしの参考可動域である30°と回外可動域31.5°に近く、後方からの平均可動域とは大きく異なるため実際の測定方法の推測は困難です。
[2]Ghanem, I., Massaad, A., Assi, A., Rizkallah, M., Bizdikian, A. J., El Abiad, R., Seringe, R., Mosca, V., & Wicart, P. (2019). Understanding the foot's functional anatomy in physiological and pathological conditions: the calcaneopedal unit concept. Journal of children's orthopaedics, 13(2), 134–146. https://doi.org/10.1302/1863-2548.13.18002
[3]Kaufman, K. R., Brodine, S. K., Shaffer, R. A., Johnson, C. W., & Cullison, T. R. (1999). The effect of foot structure and range of motion on musculoskeletal overuse injuries. The American journal of sports medicine, 27(5), 585–593. https://doi.org/10.1177/03635465990270050701
- 公開日:2023/10/26
参考文献を除く本文:2904文字
参考文献を含む本文:3698文字
画像:8枚 - 最終更新日:2023/10/26
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